どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

カエルになったブラフマー神・・インド

2023年10月15日 | 昔話(アジア)

     大人と子どものための世界のむかし話2/インドのむかし話/坂田貞二・編訳/偕成社/1989年初版

 

 あるとき、人の運命をさだめるブラフマー神と、慈悲深くて人をすくうヴィシュヌ神が天界で話し込んでました。ヴィシュヌ神は、ブラフマー神に、「人の運命をさだめるときは、もうすこし考えてやってもらえませんか。もし厳しすぎる運命をさだめてしまったらとおもったら、あとで多少かえてやるくらいの慎重さがほしいものですな。」

 ブラフマー神は、絶対に間違いなどない!と、ヴィシュヌ神の言うことには、耳を貸そうとしませんでした。

 さて、あるところに、人にやとわれて畑仕事をしていた男がいましたが、男が、毎日、朝から晩まで汗を流して働いても、一日の仕事でもらえるのは、少しだけの豆だけ。その男のおかみさんは、なかなか気のきいた女で、男が毎日もらってくる豆をひとにぎりずつためていました。豆がいくらかたまると、おかみさんは、それを市場で売って、かわりに白いお米や小麦粉、それに野菜も買ってきました。

 男がお昼に、仕事からかえってみると、小麦粉でつくったおいしいブーリー(あげパン)、おかずもたっぷり用意してありました。いつもはぼそぼそした豆のパンしか食べられなかった男はびっくりして、おかみさんにたずねました。おかみさんは、「かみさまの、おめぐみで、こういうごちそうになったのです。たまにはおいしいものをおあがりなさいな。」といいました。よく働く男のためにおいしいごちそうを食べさせたいと思っていた おかみさんだったのです。

 このようすを天界でみていたヴィシュヌ神は、ついうれしくなってブラフマー神をからかいました。「どうです。あなたはあの男の運命を、<一生苦労ばかり>と、帳簿に書き込みましたけど、きょうはあんなにおいしそうなごちそうをたべているじゃないですか。」「なにっ、そんなばかな! これはほおっておけぬ。わしがさだめた運命とちがうことはぜったいにゆるせぬ」というと、天界から地上におりて、カエルにすがたをかえたブラフマー神は、テーブルのそばにいくと、ごちそうをちょっとばかり横取りしようとしました。

 ところが、「これは人間のごちそうだ。カエルのたべるものじゃない」とおいはらわれてしまいます。ものかげにかくれてじっとしていたカエルは、男のすきを見て、ごちそうに小便をたっぷりひっかけました。せっかくのごちそうは、小便だらけで、とてもたべられなくなってしまったのです。おこった男は、ふとい棒をもってきてカエルにばけたブラフマー神を、ガンガンうちすえました。それでも、いかりがおさまらない男は、あとでもう一度うちすえようと、カエルを布につつんでこしにぶらさげ野良へでました。

 これをみたヴィシュヌ神が、「カエルに よーくおしおきするから わしによこしなさい」と男にいうと、カエルがにげだそうとしたので、男は、またびしびしとたたきのめしました。ヴィシュヌ神は、ブラフマー神にいいます。「苦労もあればしあわせもあるというのが、人の運命なのに、いじわるく<苦労ばかり>などという運命をあたえるから、こういうめにあうのです。男の足元にひれふしてあやまりなさい。」

 ブラフマー神は、頭をさげ、きずだらけになって天界にもどっていきます。

 

 <苦あれば楽あり>といいますが、男の<楽>は、神さまのおかげなのではなく、おかみさんの知恵のおかげです。