ベラルーシの部屋ブログ

東欧の国ベラルーシでボランティアを行っているチロ基金の活動や、現地からの情報を日本語で紹介しています

避難についてベラルーシの基準など

2011-06-18 | 放射能関連情報
 放射能被爆を避けるための避難について、また保養滞在(放射能デトックス)についてのご質問メールを多くいただいております。
 まず避難についてです。
 すでに強制避難しないといけない地域が指定されています。この地域に住んでいる人はすでに避難、あるいは近いうちに避難することになっています。
 ここで問題なのは、避難する地域に住んでいるわけではないので、強制的に避難させられるのではないけれど、放射能が気になるので、自主的に避難すべきかどうか悩んでいる、という点です。
 最終的にはご自分で判断されることだと思います。ここではベラルーシの例をご紹介します。

 ベラルーシでは強制的に退避しないといけない地域は年間外部被ばく線量が20ミリシーベルト以上の地域です。
 5ミリシーベルト以上20ミリシーベルト以下の地域は自主的に移住、あるいは避難するということになっています。
 5ミリシーベルト以下の場合は避難や移住はしなくてよい、ということです。

 この自主的に移住、あるいは避難する地域ですが、移住先避難先の住居は個人で確保せよ、という条件だったので、実際には移住した人はとても少なかったのです。
 
 6月6日のNHK「あさイチ!」で(自主)避難のことが取り上げられていました。
 私がショックだったのは、自主避難した人について、「逃げた」とか「神経質だ」といったことを言う人がいることです。
 逃げられない人が逃げられる人のことを羨ましく思っているのかもしれない、という考え方や、みんな避難したら、地域の復興ができなくなる、という意見があるのも分かります。
 
 ベラルーシの場合は自主的に避難できた人は少数でしたが、残った人たちが、避難した人をあれこれ言うことはありませんでした。
 はい、みなさんご自由に、という感覚です。政府も隣人もです。
 日本のほうがベラルーシよりこういう点では自由がないのかもしれません。

 震災後日本人の心理状態が大きく変化し
「日本人一丸となって復興させよう!」「家族の絆・ご近所の絆の再確認」
とかすばらしい言葉、キャッチフレーズのような言葉が、マスコミにもどんどん登場しました。
 史上まれな大震災発生後、日本人が一帯感を持って困難を乗り越えようという精神を持ったことは、すばらしいことだと思います。
 しかしこういうことを書くと、非難されるのを覚悟して書きますが、このような「日本人一丸精神」がまちがった方向に動くのは危険だと思います。
 被爆の危険を恐れず復興に尽力している大勢の人が、放射能のことを心配して避難する少数派の人を、裏切り者や臆病者、将来戻ってきても白いカラスのように思ってしまう傾向にどうしてもなってしまいます。

 今の日本は戦中のようです。
「神国日本が戦争に負けるはずがない。」というのが当時は常識でした。
「自分は戦争に行きたくない。自分は助かりたい。命が惜しい。」などと言うと、非国民扱いです。 
 日本人が一丸になって戦争に協力するのが当たり前でした。隣組という、一見いいようで、実は隣近所の人同士でお互い監視させる制度もありました。
 戦後、常識は非常識になり、戦争を生き延びた人たちは命の大切さを後の世代に語っています。

 今回の震災で「命の大切さ」を多くの日本人が再確認したり、「助かった命を大事にして生きていこう!」といったメッセージがマスコミからもどんどん流されています。
 それなのに、自分の幼い子どもの命を大切にしたいから、自主避難(つまり費用は自分持ちが普通。)する人は周囲から「神経質だ」とか、「どうして自分たちだけ・・・自己中だ」とか言われてしまうのでしょうか? 
 
 避難された人のほとんどは小さいお子さんを抱えているから心配なのだと思います。
 引越しするのは今の日本では自由な権利のはずです。江戸時代の農民じゃないんですから・・・。
(ちなみにベラルーシは引越しが難しい国です。今住んでいる町の範囲内、例えば、市内の北区から南区に引越しするのは自由ですが、別の市に引越しするには、その理由を証明しないといけません。引越しの完全な自由がまだ認められていない国なんです。)

 どうかお子さんを持っている人たちの自主避難を、責めたりしないでください。
 町が復興しても病気の子どもだらけになった場合、今必死で復興していることの意味が半減します。
 (↑これは復興に尽力されている地域のお子さんが、全員そのうち放射能で病気になる、と言っているわけではありません。誤解を招きたくないので、念のため申し上げておきます。)
 
 私のこの投稿を読んで不愉快な気分になる方もおられると思いますが、あえて、全体主義的な思想に今、日本人の精神がさらされており、個人の自由・権利を独裁国家などではなく、普通の隣人が縛ろうとする社会になってしまう危険性があると、ここで言いたいです。
 絆を大切にして、お互い助け合い、震災から立ち上がろう! という姿勢、愛国心の再確認、一つの目標に突き進む日本人の姿は本当に美しいです。
 このような日本人の姿をベラルーシ人は絶賛しています。
 しかし、私自身の心の中ではひっかかるものもあるのです。

 以前このブログでもお知らせしましたが、岩波書店から発行された
「チェルノブイリの祈り」という本をぜひ多くの日本人の方に読んでほしいです。
 著者はベラルーシのジャーナリスト、スベトラーナ・アレクシエービッチです。
 お近くの図書館でも借りられると思います。
 これはチェルノブイリ原発事故後、10年のときに集めた証言集です。さまざまな立場の人が、事故当時を振りかえったり、今の(10年後の)気持ちなどを語っています。
 個人的には自分が会ったことのある、ベルラド研究所の前所長、ワシーリイ・ネステレンコさんの証言が、いつも心に刺さります。この方がご存命でしたら、今の日本の状況について、何と言っていたでしょうか?
 この本は日本語で読めるのですから、ぜひ日本人の方に目を通していただきたいです。 
 

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