読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

スティーヴン・キング『ミスター・メルセデス』(上・下)

2017年03月03日 | 読書

◇ 『ミスター・メルセデス(上/下)』(原題:MR.MERCEDES)

             著 者:スティーヴン・キング(SREPHEN KING)
             訳  者:白石 朗  2016.6 文芸春秋社 刊 

  世界的なホラーとSFの巨匠スティーヴン・キング2014.6発表の作品。
  彼自身が「この作品は first hardboiled detective」 と言っている。アメリカの年間
ミステリー最高峰エドガー賞の最優秀長篇賞を受賞した(2015)。

 主人公は元刑事のビル・ホッジス、半年前に退職した元刑事62歳。妻コリンヌとは別
れ、娘(アリスン)はいるが疎遠。退屈して亡き父(元刑事)に譲られた38口径M&P
モデルを頭に擬し自死の誘惑に負けそうな危うい毎日を送っている。

 ある日「親愛なるホッジス刑事殿」という手紙が届いた。差出人は「メルセデス・キ
ラー」。メルスデス・キラーとは、かつてホッジスが現職時代の最大の未解決事件「メ
ルセデス無差別大量殺傷事件」の犯人である。「ざまあ見やがれ、負け犬。」事件を解
決できず、今は犯人を取りこぼし自殺を考えているホッジスを完全におちょくっている。
しかも追伸で「連絡取りたかったら、<デビーの青い傘の下で>にアクセスしろ。あん
たのユーザーネームはkermitfrog19だ。」とまで記して。
これがもう一人の主人公。彼はサイコパス(反社会性人格障碍者)である。

「メルセデス大量殺人事件」とは。
2009年4月9日市民センターで開かれた合同就職フェアに集まった数百人の人たちに12
気筒のセダン・メルセデスSL500が猛スピードで突っ込んだ。幼児を含む8人の死者と
多くのけが人を出した。犯人はピエロのマスクをかぶった人物だった。

 車は盗難車で所有者のオリビア・トレローニーはキーを付けっ放しにして盗難と事件
を招いたとして非難され、とうとう事件後数カ月で自殺に追い込まれた。「私は絶対付
け忘れはしていない」と言い張っていたのだが。

 犯人にからかわれたホッジスは俄然闘志を燃やす。元相棒のピートに会って、その後
の事件の足取りを聞き出すが、捜査にはまったく進展はない。。犯人を捜すという目標
が出来た彼はオリビア・トレローニーの妹ジャネル・トレローニーを訪ね犯人捜しへの
協力を頼む。500万ドルを超える遺産を相続することになるジャネルは快諾し、調査費
を出すので犯人を探し出すことを頼む。
 そしてホッジスは62歳にして幸運にも44歳という若さのジャネルと友人になる。
しかもその後、なんと友人以上の仲に。

<殺人はおおむね明るみに出るものだ。不器用だが強大な力を持つ大宇宙の指が動い
て、いついかなる時でも悪を正そうとしているかのようだ。刑事たちは報告書を読み、
目撃者の事情聴取をおこない、電話をあちこちにかけて話を聞き、法医学的証拠を検
討しながら・・・その力が働くのをひたすら待つ。>そんな希望を胸にホッジスは仲
が良い高校生のジェロームの助けを借りながら調べを進める。

 アイスクリーム販売車とコンピュータ・サービスを仕事にしているブレイディ・ハ
ーツフィールドは重度のアルコール依存症の母親と暮らしている。父親はいない。小
さいころ母親と結託し弟を殺している暗い過去がある。今の社会に恨みを持ちやけく
そになっている。メルセデス無差別大量殺傷事件を起こしうっぷんを晴らしたのに、
ホッジスからは「お前は犯人ではない」とあしらわれ頭にきてホッジスを殺そうと計
画する。その前に、まずホッジスにショックを与えようと、彼の友人ジェロームが飼
っている犬を毒殺しようと用意してあった毒入りハンバーグを母親が食べ死んでしま
った。怒り心頭に発したブレイディはホッジスの車に爆薬を仕掛け遠隔操作で爆発さ
せる。ところがその車にはジャネルが乗ることになって、代わりに彼女が爆死してし
まう。
今度はかけがえのない愛人を殺されたホッジスが怒り狂う。

 ブレイディは更なる大量無差別殺人を起こし自分もこの世におさらばをしようと、
大量の爆薬を持って、4000人からの若者らが集まるコンサートを狙う。ホッジスは
Mr.メルセデス(ブレイディ)のメッセージ<週末を楽しみな―俺は楽しめるはずさ>
を読み、思い悩む。今週末に何を企んでいるのか、もしかして陽動作戦か。

ホッジスはジェロームにジャネルのいとこにあたるホリーを加えた3人でブレイディ
のターゲットを探りあてようと奔走、ついに大量無差別殺人の現場を探り当てる。
ところがホッジスは肝心のところで心臓発作を起こし、ジェロームとホリーに爆殺阻
止を託す羽目になる。
 この辺でホッジスに休ませて、残る二人の活躍でストーリーに深みと幅を持たせよ
うという作者の企みは憎い。

 一方ブレイディは身障者を装い、爆薬を装備した車椅子でまんまと会場に潜り込む。
しかしジェロームらに発見され、ホリーの機転で爆発装置は解除され危険は去った。
 ホッジスは間一髪で死の危険をまぬかれ病院で2人の活躍を知る。ジェロームとホリ
ーは市長から表彰され、ホッジスも独断専行について咎めなしとされた。
 犯人ブレディもホリーに受けた頭への強打で意識不明であったが回復した。意識回
復後最初の一言は「母親に合わせてほしい」。

久々のキング作品、堪能しました。しかしキング作品にしてはやや安直なエンディン
グで物足りなさが残ります。

キングはこの作品を「ホッジス元刑事三人組」三部作と位置づけ、第二作『Finders
Keepers』(2015)、『End of Watch』(2016)を発表している。


(以上この項終わり)

 

 

 

 

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