年中減塩、ただし夏は熱中症予防に塩分補給って正しい?
(最新追記 2020.1.27)
塩分摂取について、あるサイトによれば、次のように書かれています。
「塩分は控えめに」「塩分の摂りすぎは、高血圧、心臓病や脳卒中の原因」という注意は、常識になってきましたよね。
世界保健機関(WHO)は、世界中の人の食塩摂取目標を1日5グラムとしています。そして、厚生労働省の「食事摂取基準」では、18歳以上の男性は1日当たり8グラム未満、18歳以上の女性は1日当たり7グラム未満という目標量が定められています。
ちなみに、厚労省「平成25年度国民健康・栄養調査」では日本の成人1日あたりの食塩平均摂取量は、男性で11.3グラム、女性で9.6グラムでした。
つくづく思うのですが、日本人は、なんて真面目で正直な民族なんでしょうね。
“WHOという権威ある機関が5グラムと言っているんだから、少なくとも厚労省が目標とする8グラムなり7グラムに抑えなくっちゃ。11グラム強とか10グラム弱では、いかにも多すぎるわ。料理を工夫しましょう。”と、なってしまい、外食ではラーメンのスープ(鶏がら・豚骨のコラーゲンいっぱい!)を飲まなかったり、家庭では味噌汁を作らず、梅干や塩漬けの漬物を食卓に置かず、薄味で何ともまずいおかずで我慢していらっしゃる、そんな主婦が多いのではないでしょうか。ご主人もご主人で、“こんな塩っ辛い物は血圧が上がるぞ!薄味にしてくれ。”と文句を言われることでしょう。
このように、皆さん、減塩しなきゃと考えておられます。お医者さんもそう言いますから、なおさら減塩、減塩となってしまっています。
さて、諸外国では、どの程度の塩分を摂っていて、どう対処しているのでしょうか。
“塩分摂取量のデータがまるでない”というのが実情です。各国政府とも日本の厚労省のような調査を全くしていないのです。
“どうして、そんな重要なことを調査しないの?”と、不思議に思う日本人。
一方、世界中の人々は皆、“塩分摂取ぐらいで、どうのこうの言うことないわ。おいしい塩味を楽しみましょうよ。”というスタンスに立っていて、ほとんど気にしていないようです。加えて、“政府の言うことは何事も信用できない”という捉え方がまずあって、“事の良し悪しは自分で判断する”という風潮がとても強いです。
政府に言われて塩分摂取で大騒ぎしているのは日本人だけ、といったところです。
とはいうものの、小生も数字を意識し、数字に振り回されやすい、根っからの日本人ですから、欧米の塩分摂取量が気になります。探してみたところ、統計学的にあまり有意なものではありませんが、1993年 橋本壽夫「海外の塩分摂取量と保健政策」の各国比較がありました。これによると、欧州各国は(男)10~11グラム台(女)7~9グラム台、米国は男女平均で8グラム前後となっています。それに対して、日本は男女平均で12.4グラムです。今から30年前のデータでして、妥当なところかなと思わせられますが、当時の別の調査によれば、これも橋本壽夫によるものですが、欧州各国は男女平均で9~12グラム台、米国は同14.5グラムとなっていて、“日本は欧州より気持ち高めか。ところで米国の数値はどうなってんの?”となってしまいます。これらの数値はやはり統計学的に有意性があまりなく、日本以外は実際とは合致していない可能性が大きいです。
こうなると、自分で味比べするなり、他の人の評判を聞いたりするしかありません。このほうがきっと正確でしょう。もっとも、外食産業においてはという条件付きですが。
小生の海外旅行経験は大したことありませんが、欧米は4回で、延べ約30日。塩味のほどは日本と比べて大差ない感がしましたが、ストックホルム(スウェーデン)では塩漬魚の塩っ辛さには往生しました。また、ウィーンではソーセージはとてもうまかったですが、うまいことで有名な岐阜県郡上市の明宝ハム(防腐剤不使用につき多少塩分が強い)並みの塩辛さだなと感じたところです。
女房は小生より海外に多く出かけており、そのなかで先月行ったドイツの食事には塩っ辛さで閉口したと言います。ツアーの同行者、皆、そう感じておられたとのことです。なお、米国やカナダは、日本と変わらない印象だったとのこと。
ドイツの評判は最近、他からも聞こえてきているのですが、極端に塩っ辛いものがけっこう多いようです。その原因は何かというと、彼らはジャガイモが主食ですから、おかずに塩をたっぷり使わないことには食事がおいしくならないからでしょう。これは日本人の主食が白米で、塩分の利いた味噌汁がよく合うのと同じです。昔の日本人の塩分摂取量が多かったのは、白米の多食と毎食味噌汁を飲んでいたことと大いに関係がありそうです。
ドイツ人の塩分摂取量が多い、もう一つの理由は主なアルコール飲料はビールであることも関係していましょう。ビールをがぶがぶ飲むには塩っ辛いつまみが必須ですからね。これは、現代の日本人の嗜好”“真夏はビールに限る”にも当てはまりましょう。
こうしたことからして、先進国のなかでは、塩分摂取の横綱はドイツ、大関は日本といったことになるのではないでしょうか。
もう一つ、塩分摂取の多い少ないは気候との関係もありそうです。寒い地域ほど塩分摂取が多くなる傾向にあると考えていいのではないでしょうか。小生の経験で例示したストックホルムがそうですし、女房が経験したドイツもアルプス以北であって寒い地域です。
一方、フランス南部やイタリアとなると地中海性気候で暖かく、小生の印象では、何を食べても塩っ辛さはなく、パッとしないおかずには塩を振りたくもなりました。
これは日本でも言え、一昔前までは東北地方が有名で、実に塩っ辛い漬物を冬に食べていたようです。時々、その解説として「東北地方では冬は雪で野菜が採れないから長期保存が利く塩漬けにしていた。」というのを見かけるのですが、憶測でもっていいかげんなことを言うのは止めてほしいものです。雪を跳ね除ければ天然冷蔵庫から新鮮そのものの野菜が取り出せますし、寒けりゃ薄味の漬物も腐りませんからね。
そして、関東に比べ関西は薄味なのも、寒さの程度の違いによるものでしょう。なお、京料理がより薄味になるのは、高級料理ですから良い素材を使い、素材そのものの味を楽しむために各種調味料を控えめに使っているからではないかと思われます。
では、なぜ寒い地方では塩分摂取が多くなるのでしょうか。
これは、漢方の栄養学から説明がつきます。食品には体を温めるものと冷やすものがあり、その程度は食品によって大きな違いが出てきます。体を温める食品の両横綱は肉と塩です。ですから、寒い地方では自然とこれらを求めるのです。極寒の地、北極圏ではエスキモーがほぼ完全な肉食ですし、欧州大陸北部(ドイツを含む)では冬には塩漬肉を食べるのです。そして、ほとんど肉食しない日本では、冬に塩っ辛い漬物を食べるのです。こうすることによって体が温まり、たいした暖房なくしても寒さに耐えられるのです。
漢方には五味というものがあって、季節毎に特に必要とする味として「冬には塩味」となっているのも、これによるものです。逆に、夏は「塩味を控えよ」となっています。
(参照)2016.3.4 漢方「五行論」に学ぶ味付け法
現代人の感覚として、季節ごとの塩分摂取は漢方で言うところと逆になります。
冬は汗をかかないから、塩分損失は少なく、減塩しないことには、それこそ血圧が上がってしまい、まずいんじゃないか? 夏は汗をかくと塩分が流れ出てしまうから、積極的に塩分を取る必要があるし、特に熱中症予防となると単なる水ではだめで電解質が入ったものでなきゃダメだ。全身痙攣や足がつるのもミネラル損失によるものだから。
ということになって、冬は減塩、夏は積極的摂取が勧められることになります。
高度文明社会になって世の中が大きく変わり、そこらじゅうに冷暖房が行き届いたものですから、このようなことになってしまうのですが、ヒトの体の生理機構は原始時代の季節対応にまだまだ順応した状態にあり、暖房への順応はどれだけかできているものの冷房への順応は全くできていません。
よって、冬にあっては暖房生活にあまりにも慣れきっていますと、皮膚の収縮能力が衰えた状態になっていますから、屋外の冷気に当たりすぎると体熱放散で体内温度が下がりすぎ、体調を壊すことにもなります。そんなときは、やはり塩分の積極的摂取が求められましょう。ただし、おいしいと思える程度の濃さとし、塩っ辛さを我慢して食べるのは考えものですが。
一昔前の人は、冬に寒さが厳しくなると、きつめの醤油で味付けした牛肉のすき焼きを食べ、塩と肉で体を温めたのですし、山間地では猪肉の味噌鍋を食べたのです。これで体がグーンと温まります。現代人も、体が冷え切った晩には、こうした塩分多めの肉鍋としたいものです。なお、冬野菜は体を温め、夏野菜は体を冷やしますから、冬には冬野菜となります。参考までに、最も体を温めてくれる肉はマトン(※)です。羊は寒い地域が生息地だけあって、その肉を食せばヒトの体をグーンと温めてくれるのです。
(※)漢方では「夏に羊」となっていますが、これは「大汗をかいて体内の毒素を抜く」という薬効を期待しての位置付けとなっています。参照記事:2017.7.25 真夏は肉を食って大汗をかく(三宅薬品発行の生涯現役新聞N0.270)
一方、夏はといいますと、昔の人は絶えず汗をかいていましたから、汗のかき方が上手で、汗からのミナラル損失はほとんどないし、体に熱がこもることもなく、熱中症になる危険性も少なかったです。そして、体を強く温めてしまう塩分は控えめにしていたのです。
加えて、暑いさなかに行う百姓仕事は、冷たい物ではなく生温い(場合によっては日に当たって熱い)お茶で水分補給するようにしていました。こんなものを飲んでいたら熱中症になってしまうのではないかと心配にもなるのですが、これは、上手に汗がかけることと胃腸のトラブルが避けられることによるものです。生活の知恵です。小生も、夏に畑に行くときは、水道水をペットボトルに入れたものを持っていき、けっこう熱い水をチビチビ飲みながら百姓仕事をしているのですが、胃がとても気持ちいいです。
現代人はどうすればいいかとなると、上手に汗をかける人はまれですから、ミネラル損失(特にマグネシウム)で痙攣や足がつることになり、ミネラル補給が必須で、マグネシウムを意識して摂りたいものです。夏に塩分といえば、一般に言われるのは電解質のナトリウムとカリウムということになりますが、それより重要なのがマグネシウムであると心得てください。マグネシウムをしっかり取ろうとすると過食になりますし、夏はあっさりしたものを体が欲しますから、慢性的に摂取不足のマグネシウムがますます欠乏してしまいます。ここは、総合ミネラル剤を毎日お飲みになっていただきたいです。そうすれば、汗をかいてもミネラル欠乏になる危険性は大きく減ずるでしょうし、塩分摂取過多で体に熱がこもる心配もありません。
参考までに申しておきますが、血圧を上昇(ただし、日本人の半数以下)させたり、体を温める塩分とは「塩化ナトリウム(いわゆる食塩)」であって、その他のミネラル(マグネシウム他)にはその作用はなく、逆の作用さえ持ち備えています。
やはり夏は、塩分を控えめにしないことには何かと不都合なことが生じましょう。
なお、熱中症は脱水症が起因して起こることが多いですから、昔のお百姓さんのように温かいお茶でチビチビ水分補給するに限ります。猛烈に暑いアラブ諸国の人たちは熱いお茶をチビチビ飲んで熱中症にならないようにしているとのこと。間違っても氷を浮かべた冷たい物をがぶ飲みしてはなりませぬぞ。
ということで、表題にしました「年中減塩、ただし夏は熱中症予防に塩分補給」は間違っている、ということになります。
(注:食塩摂取量と高血圧の相関については、1988年インターソルト・スタディーの結果でほぼ完全に否定されています。よって、心臓病や脳卒中については高血圧との相関があれども、食塩摂取量との相関はないことになります。それも、昔の血管が切れる疾患についてであって、現代の血管が詰まる疾患については高血圧との相関は弱く、逆相関もあると言われたりしています。なお、多量に塩分摂取すると、人によっては「食塩感受性」高血圧になることが知られています。これらに関しては、文末の過去記事を参照ください。)
ヒトの体の生理機構は、まだまだ原始時代の状態を色濃く残していますから、自分の味覚に素直に従ったほうが無難です。
こと塩味については、欧米人のように”おいしけりゃ、いいじゃん”といきましょうや。
ただし、近年、気になるのは外食産業の味付けです。安値競争が激烈になっていますから、悪い素材をいかにして誤魔化すかとなると、濃い目の塩味にすれば難なくクリアでき、その傾向が強まっています。
これに慣れてしまうと、きつい塩味がへっちゃらになり、腎臓に負荷が掛かりすぎますし、やたらと水分摂取するようになり、温かいものならまだしも夏はギンギンに冷えたものを飲む傾向にありますから、胃腸のみならず全身を蝕むことになってしまいます。
自分は塩味に鈍感か否かは、同じものを一緒に食べた周りの人、ただし食生活が異なる人に、塩味の感想を聞いてみるしかないでしょうね。
(参考)このブログの塩分摂取に関する記事です。
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