【NHK-BS】:プレミアムシアター
*ドキュメンタリー:カルロス・クライバー“ロスト・トゥー・ザ・ワールド”
*カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団:日本公演1986
*カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団演奏会1996
~2011年4月2日(土)午後11時~翌午前3時(4時間番組)
【NHK-BS】:プレミアムシアター
*ドキュメンタリー:『目的地なきシュプール:指揮者カルロス・クライバー』
*カルロス・クライバー指揮:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏会1991
*カルロス・クライバー指揮:ウィーン・フィル:ニューイヤーコンサート1992
~2011年4月9日(土)午後11時30分~午前3時30分(4時間番組)
<mimifukuから一言>
2011年3月10日に速報としてお知らせした、
クラシック・ファン待望の音楽番組。
その時点では翌日に巨大地震が東日本を襲うなど露ほども感じることなく、
同じ日本に暮しながら何も変わらぬ生活をおくることに不思議な気持ちだ。
カルロス・クライバー。
日本のクラシック・ファンなら誰もが憧れる人気指揮者。
落語家:八代目桂文楽さんを例える言葉として、
演目は少ないが演じられる落語は総てが磨きぬかれた一級品。
カルロス・クライバーもまた、
演奏する曲目のレパートリーこそ限られるが、
記録に残された演奏はどれもが名演中の名演。
クライバーの指揮する音楽CDは、
“すべてがベストセラー”
になっている。
クライバーの特徴は躍動と色艶。
艶かしいまでの音色の要求や、
旋律の揺さぶりは独自のスタイルで、
誰にも真似のできない興奮をもたらす。
BSプレミアムで放送される演目での最注目は、
4月2日放送分の、
1986年昭和女子大学人見記念行動のライブ・全曲版。
一昨年にNHK教育で放送されたベートーヴェンの交響曲7番のプログラムの他に、
交響曲第4番とアンコールのポルカ『雷鳴と雷光』に心踊らぬ者はいないだろう。
~ベートーヴェンの第7番はTVドラマ“のだめカンタービレ”でもお馴染。
さらにバイエルン交響楽団との1996年のライブ映像の存在を私は知らず、
手馴れたブラームスの第4番をどのように料理したのか個人的にも興味津々。
~1996年の演奏会はハイビジョン映像での放送(市販DVDあり)。
4月9日放送分(2つのプログラム)は既に古くから市販が繰り返され、
クライバー・ファンならば誰もが認める“映像の名盤”として名高い演奏会。
2度目(1989年が初登場)となった、
1992年のニューイヤーコンサート(ウィーン・フィル)は、
歴代ニューイヤー史上に残る屈指の演奏会!
として、
クラシッック・ファンなら誰もが周知の映像(音楽CDもあり)。
さらにデジタル・リマスター映像として蘇る、
1991年のウィーン・フィルとの著名な演奏会も必見のプログラム。
~今回の特集ではコンセルトヘボウ管弦楽団の映像は外されたようだ。
音楽だけでなく映像にうつる、
クライバーの情感溢れる指揮法は優雅で気品高く、
観ていて飽きる事がない。
他にクライバーを特集した、
貴重な海外制作のドキュメンタリー
が2つ。
大災害の最中(さなか)ではあるが、
テレビ観賞が可能な方は,
一時(いっとき)のリフレッシュ。
BS放送が統合される事で、
再放送は微妙なため、
是非当日に、
ご視聴ください。
<ドキュメンタリー:ロスト・トゥー・ザ・ワールドを観て>
カルロス・クライバーのドキュメンタリー。
多くを語らなかったとされるクライバーのドキュメンタリーは、
予想通り関係者の証言で構成されていた。
ムーティ、サヴァリッシュ、シェンク等の著名人も出演したが、
何よりもオーケストラ楽団員の証言や感じ方は興味深い。
初めて知る父エーリヒの映像に厳格な時代の面影を見た。
トスカニーニ、メンゲンベルク、クレンペラー等“巨匠達”の時代。
戦時を生きた指揮者は強い統率力を放ち主に独裁的だった。
映像に垣間見えるカルロス(カール=独名)は、
父エーリヒとは真逆の性格のように見えて、
その実、
オーケストラを強くコントロールする術を心得ていた。
クラシック界の珍事として名高い“テレーゼ事件”の実録。
~テレーゼ(テレーズとも)の要求にマリーと応えるウィーン・フィル。
一見すると柔和でユーモアに溢れた要求とは異なり、
徹底して行われた執拗な要求(リハーサル)に、
楽団員が拒否の姿勢を示したと感じたクライバーの態度は、
決して(社会人として)褒められる行動(キャンセル)ではないが、
クライバーの伝説創りには大きく役立った。
戦争により多感な頃を南米で過ごさなければならなかったカルロス。
番組ではカルロスの母親がユダヤ系の血を引くと紹介されており、
エーリヒの選択は伝えられているナチスの芸術への干渉よりも、
家族を守るための選択だったのかも知れないとも感じる。
想像される厳格な父への畏怖と萎縮。
そして、
父のスコア(総譜)を大切に持ち歩き、
父の後を追いかけるようなプログラム選択。
また、
フルトヴェングラーとの音楽解釈の比較に、
カルロスが抱いた父への崇拝も感じられた。
キャンセル魔として有名な完璧主義者。
聴衆よりも自身の保持に神経を傾ける姿勢は
ミケランジェリ同様の伝説としてファンを魅了。
番組では既に語られている部分が多いものの、
検証される複雑なクライバーの心象風景。
その話は長くなるので別の機会に。
<ドキュメンタリー:目的なきシュプールを観て(4月17日記述)>
2週連続で放送されたクライバーのドキュメンタリー番組。
録音が少なく殆どインタビューに応じなかったクライバーの真実。
映像としては有名な、
歌劇『魔弾の射手』序曲や『こうもり』序曲のリハーサル風景を交えながら、
クライバーの指揮法を様々な角度で分析・解説する証言を興味深くみた。
“駄々っ子、我儘、独裁者”と言葉にされた身勝手な行動と
“全身全霊:緊張感:重圧”と言葉にされた仕事への情熱。
クライバーの実姉の口から語られた、
“子供時代から線の細い子(=繊細)”の内面。
記録された映像を観て多くの人が感じただろう、
“冗談好き、多弁、恋多き男”の表面。
繊細で神経質で時々は鬱症状に陥るクライバーの内面心理は、
実姉が語る小さい頃から他国を転々とした事実と、
実姉は否定する父エーリヒの厳格への畏怖(=内向的要因)。
カルロス・クライバーが楽団員に求めた手法は、
父の時代の独裁的権限ではなく理解と説得。
リハーサル風景をぼんやり観るとユーモアやジョークが多く、
さらに音符を比喩で例えたり実際に歌ってみたりと、
クライバー自身が考え抜いた理想を楽団員に要求。
しかし、
優しい口調とは裏腹に絶対に引き下がらない(=妥協しない)強固な姿勢。
そして不可能を可能にする証言として、
“クライバーの高い要求を楽団員が達成した時に奏でられる異次元の世界”
前週に放送された『ロスト・トゥー・ザ・ワールド』でも
“自分達はこんなに素晴らしい能力があったのかと気付かせてくれる”
との証言もクライバーを知る上では貴重だ。
“謙虚だけど要求は厳しい”を証明するかのように、
クライバーが要求した歌劇『こうもり』序曲リハーサルでの、
スタッカートは精密細工のように細かく執拗だった。
~話は変わるが日本公演での“KOUMORI”の地声はつくづく貴重(笑)。
またクライバーの指揮法の特徴としての、
踊るように指揮したり表情豊かに指揮することで、
音符の意味を演奏者に伝える努力を怠らなかったし、
証言としての
“指揮の動作を鏡の前で工夫していた”
は“やっぱりな”とニンマリ。
さらに、
コスプレ(テニス・プレーヤー:ボリス・ベッカーを真似て)して、
指揮台にあがるお茶目な一面も紹介された。
番組終盤でクライバーは“父とカラヤンに認められたかった”との証言や
妻への愛情と妻の死の喪失感がクライバーの死期を早めたとの証言は、
既に幾つかの文書で目にしているが、
完璧主義者:カラヤンに傾倒しながらもカラヤンとはまるで違ったアプローチは、
カラヤンへの強い対抗意識(追い越したい)があったようにも思う。
蛇足ながらグレングールド(ピアニスト)も、
カラヤンへの尊敬の念(録音への取り組み)を抱いていた。
ナイーブな性格の完璧主義者としての、
クライバー&グールドの内面心理の共通点は
妥協しない最良の方策は何よりも、
“人とあまりかかわらない(かかわりたくない)”
との心理だったと考えるのは不謹慎か?
不世出のカリスマ指揮者の2つのドキュメンタリーは、
鑑賞者のマニア思考を刺激したに違いないし、
クラシック鑑賞の視点の多様性を感じた。
追記(BS放送について)。
2011年3月31日の今日。
長年慣れ親しんだ、
“BS2の放送が終了”
BShiとBS2が統合されBSプレミアムに。
大きなニュースが続く中で、
気付かない方もおられると思うので念のため。
ただし、
アナログBS2の放送は、
BSプレミアムと同じ放送内容を、
2011年7月24日まで継続。
*番組はアナログBS2でも視聴可能。
お気をつけください。
<関連記事>
*ETV50:カルロス・クライバー幻の来日公演。
→ http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/d/20090107
*NHK-BS:カルロス・クライバー“ばらの騎士”全曲。
→ http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/d/20091227
~下記NHKホームページより記事転載。
『カルロス・クライバー特集(第1週)』
~2011年4月2日(土)午後11時~午前3時
*ドキュメンタリー
「カルロス・クライバー:~ロスト・トゥー・ザ・ワールド~」
<出演>
オットー・シェンク(演出家)
ユリア・ヴァラディ(歌手)
マーティン・エングストローム(レコード会社プロデューサー)
ほか
<監督>
ゲオルグ・ヴューボルト
制作:2010年
*カルロス・クライバー指揮
バイエルン国立管弦楽団日本公演1986
[全曲版/標準画質]
<曲目>
交響曲第4番変ロ長調 作品60(ベートーベン)
交響曲第7番イ長調 作品92(ベートーベン)
喜歌劇「こうもり」序曲(ヨハン・シュトラウス)
ポルカ「雷鳴と雷光」(ヨハン・シュトラウス)
<出演>
管弦楽:バイエルン国立管弦楽団
指揮:カルロス・クライバー
収録:1986年5月19日
昭和女子大学人見記念講堂
*カルロス・クライバー指揮
バイエルン国立管弦楽団演奏会1996
[ハイビジョン版]
<曲目>
「コリオラン」序曲(ベートーベン)
交響曲第33番変ロ長調 K.319(モーツァルト)
交響曲第4番ホ短調 作品98(ブラームス)
<出演>
管弦楽:バイエルン国立管弦楽団
指揮:カルロス・クライバー
収録:1996年10月21日
ヘラクレスザール(ドイツ・ミュンヘン)
『カルロス・クライバー特集(第2週)』
~2011年4月9日(土)午後11時30分~午前3時30分
*ドキュメンタリー
「目的地なきシュプール~指揮者カルロス・クライバー~」
<出演>
プラシド・ドミンゴ(歌手)
ミヒャエル・ギーレン(指揮者)
ブリギッテ・ファスベンダー(歌手)
オットー・シェンク(演出家)
ヴェロニカ・クライバー(実姉)ほか
監督: エリック・シュルツ
制作: 2010年
*カルロス・クライバー指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏会1991
[ハイビジョン・リマスター版]
<曲目>
交響曲第36番ハ長調「リンツ」K.425(モーツァルト)
交響曲第2番ニ長調 作品73(ブラームス)
<出演>
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:カルロス・クライバー
収録:1991年10月6,7日
ウィーン楽友協会ホール
*カルロス・クライバー指揮
ウィーン・フィル:ニューイヤーコンサート1992
<曲目>
歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」(ヨーゼフ・シュトラウス)
ワルツ「美しく青きドナウ」(ヨハン・シュトラウス)
ラデツキー行進曲(ヨハン・シュトラウス・父)
ほか
<出演>
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:カルロス・クライバー
収録:1992年1月1日
ウィーン楽友協会大ホール
【番組内容】
BSプレミアムのキック・オフ・スペシャルとなる第1夜は、
偉大な指揮者エーリヒを父に持ち、
己の音楽的理想を厳しく追求するあまり、
公演キャンセルが相次いだ伝説の指揮者、
カルロス・クライバー(1930-2004)を特集。
鬼才、異能、カリスマ等、
カルロス・クライバーを形容する言葉は枚挙に暇ないが、
極端なインタビュー嫌いのため、
彼に関する情報はほとんど世に出てこなかった。
しかし生誕80年を迎えた昨年、
この不正出の指揮者の実像に迫った待望のドキュメンタリーをお送りする。
さらに、
カルロス・クライバーがバイエルン国立管弦楽団を率いて、
1986年に行った東京公演の模様は、
2008年のETV50年の記念番組として一部の曲目のみを再放送し大きな反響を呼んだ。
今回全曲再放送の熱いリクエストにお応えして、
四半世紀ぶりに全曲ノーカットでの放送を実現。
また、
クライバーと同楽団演奏会1996のハイビジョン・リマスター版も併せて放送。
クライバー・ファンのみならず“すべての音楽ファン”に贈る、
とっておきのプログラムの数々を是非ご堪能いただきたい。
<追記:お薦め番組>
ショータイム:ホセ・カレーラス(再放送)
~2011年4月3日(2日深夜)午前3:00~4:30
谷村新司が世界のトップミュージシャンに迫るビッグトーク。
3大テナーの1人ホセ・カレーラスが歌と人生を語る。
少年時代から最新の歌声まで秘蔵映像満載。