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島留学

2012年12月22日 | サ行
 過疎や少子化で悩む島の学校が島外の小中学生を受け入れる「離島留学」が広がっている。豊かな自然、少人数学級、地元住民との触れ合い……都会では得難い体験が魅力のようだ。各地で今、2013年度の募集が行われている。

寮生活、漁協が応援

 九州北部の玄界灘に浮かぶ地島(じのしま、福岡県宗像市)は周囲約9㌔メートル、人口約180人。九州本土から渡船(とせん)で15分の位置にある。

 「ただいまー」。午後4時ごろ、木造2階建ての寮「なぎさの家」に児童5人が次々に帰ってきた。

 寮の指導員で、一緒に寝泊まりしている黒川奈々恵さん(26)が笑顔で出迎える。子どもたちのうがいと手洗いを確認し、おやつを食べる姿を見守る。「ふだんと様子が違うと、『最近、どう』と声をかけることもありますね」。

 宗像市立地島小(児童数14人)は2003年度、島外の児童を受け入れる離島留学を始めた。4~6年生が対象で、受け入れ期間は1年。月の生活費約4万円と各学期ごとに学校費など約3万5000円が要る。毎年6人を募集し、これまで約60人がこの寮で生活した。

 今年は10人前後の志願者があった。健康面や離島留学の動機などを面接で確認し、受け入れの可否を決める。県内からの留学が多いが、今年は埼玉、千葉、熊本の各県や北海道からの問い合わせもあった。

 寮では午前6時半に起き、午後9時に消灯。テレビは1日1時間。携帯電話もゲーム機器も持ち込み禁止。自分で布団を片づけ、洗濯物をたたむ。風呂掃除や食器洗い、窓ふきなど、必ず何らかの役割を担う。

 小4の松尾愛乃(よしの)さん(10)は「来たときは母さんが恋しかったけど、すぐ慣れた。漁師さんに刺し身を作ってもらったり、ホームステイ先で島のことを教わったり。島の人たちがやさしくしてくれる」と話す。

 寮生を学校外で支えるのが、漁協組合員らで構成する「漁村留学を育てる会」。年4回のホームステイや、
磯遊び、漁船の試乗などを催す。会長の前田浩昌さん(46)は「島の人みんなが親代わりです」。

全国57校、受け入れ

 離島と首都圏の住民交流の促進などを目的としたイベント「アイランダー2012」が11月下旬、東京都豊島区であった。

 約160の島が参加し、特産品の展示や伝統芸能などを披露。新潟県粟島浦村の粟島のブースには、今年初めて「しおかぜ留学」のポスターが掲げられた。

 島内にある村立粟島浦小中学校は12月現在、小学生4人、中学生7人。1956年には約200人の児童・生徒が在籍したが、過疎化と少子化で減り続け、休校の可能性も出てきた。

 村は「学校がなくなると地域社会の核がなくなる」との危機感を持ち、2013年度から留学生の受け入れを決めた。小1~中3を計5人募集。費用は月約3万8000円。期間は1年だが、継続も歓迎する。村が買い上げた木造2階建て住宅を寮にするという。

 少人数教育で基礎学力をつけながら、自然や島民との触れ合いを通じ、個性を生かしたコミュニケーション能力の向上を図る。加納博志校長は「いじめなど想像もできない環境です」。

 財団法人「日本離島センター」(東京)によると、小中学校の離島留学は、新潟県佐渡島で1986年度に始まり、鹿児島県内の島々を中心に全国に広がっている。島の里親の元で暮らすか、学校の寮で生活するかの2タイプ。今年度は全国で小学校35校(留学生71人)、中学校22校(同41人)で受け入れている。

 北海道・利尻島の中学校長として離島留学にかかわった藤田功さん(62)は「不登校の生徒がたくましくなり、著名大学に進学したケースもあるが、留学中は漁の手伝いなどもあり、『お客さん』扱いはされない。留学前に基本的な生活習慣を身につけることが求められる。親も子離れすることが必要だ」と話している。
       (朝日、2012年12月20日。藤方聴)

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