マキペディア(発行人・牧野紀之)

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ノルウェーの水力発電

2012年12月07日 | ナ行
 欧州で進む再生可能エネルギー(再生エネ)の拡大。さらなる推進のカギを握るかもしれないのが、ノルウェーの「水」だ。

 風に吹かれて小さなさざ波を立てる水面。そのすぐ上には雲が広がる。スカンディナビア半島の西側、ノルウェー南西部にあるハルダンゲル氷河地帯。水力発電用のシーセン湖だ。周囲にはキャンピングカーやボートがとめられ、流木を持ち帰る人の姿もあった。

 標高約1000㍍。水はここから標高0㍍のシーマ発電所へ、トンネルを通じて流れ込み、直径約5㍍、37トンの水車2基を回す。別のダムからの水を受けるもう2基の水車と合わせ、発電量は年間約30億㌔ワット時。発電所から西へ約150㌔離れた西海岸にノルウェー第2の都市ベルゲンがあるが、その1年分の消費量をまかなえるという。

 ノルウェーの西側地域ではたくさんの雨が降る。ベルゲンは「年間400日雨が降る」と言われるほどで、お土産用絵はがきにも雨や傘マークが並ぶ。この雨や雪解けで流れる水と、フィヨルドが作った高低差の大きな地形を利用したダムが、国内の消費電力の99%を水力でまかなうことを可能にしている。

供給いつでも

 風や太陽を利用する再生エネの弱点の一つは、発電が天候に左石されてしまうことだ。現在は、その供給の振れ幅を天然ガスを燃やすなどして作った電力で調整している国が多い。

 しかし欧州連合(EU)は2020年までに、EU全体のエネルギー消費に占める再生エネの割合を20%まで引き上げ、温室効果ガスを20%削減すると決めた。再生エネの導入推進のために、天然ガスなど従来のエネルギーを調整電源に使っては目標は達成できない。

 水力はダムの建設などで環境への影響はあるが、二酸化炭素は出さず、原発と違って、危険な廃棄物も出ない。ノルウェーには欧州全体の半分に達する約840億㌔ワット時もの「貯水池」があるという。

 「我々は欧州の課題解消に大きな貢献が出来ると考えています」。そう語るのは、電力会社スタットクラフト上席役員のチェーテル・フォースターさんだ。水はためておけば、天候に左右されず、好きなときに電力が引き出せる。

主要な輸出品

 欧州各国と結ぶ送電網が続々と整備されつつある。すでにデンマークやオランダヘの送電ケーブルがある。2025年までにデンマーク、ドイツ、英国との間に新設、増設される予定だという。

 「デンマークで風が強いときなどは、その電力でノルウェーのダムのポンプを動かし、水を上流のダムに戻すことが出来ます」とスタットクラフトの広報担当ラース・グンターさん。逆に欧州各国の電力が足りないときはノルウェーから水力で作った電気が送られるというわけだ。

 かつて「サケとサバくらいしか輸出するものがない」とも揶揄されたノルウェー。だが、1970年代の北海油田開発以降、エネルギーの輸出大国になった。欧州の再生エネ拡大を背景に、主に国内向けの電力でしかなかった水力発電も、大きな強みになった。今この国は、期待を込めて「欧州の再生可能バッテリー」と呼ばれている。

(朝日、2012年11月28日。エイドフィヨルドにて、小坪遊)

          関連項目

ノルウェーの電力取引市場
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