マキペディア(発行人・牧野紀之)

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農業の現状

2010年11月16日 | ナ行
 農林水産省が2010年09月07日発表した2010年の農林業センサス(速報値)は、農業の就業人口が5年前に比べて22・4%減の260万人となり、比較できる1985年以降で最大の下落率となった。農村の高齢化と担い手不足が加速度的に進行。農家の大規模化を進め、農村の底上げをはかろうとしてきた戦後の農業政策の行き詰まりが見てとれる。
          
 農林業センサスは1950年から5年ごとに調査しており、今回が13回目。

 調査によると、1985年に543万人だった農業就業人口はこの25年間で半減。高齢化で農業をやめる人が増えているのが理由だ。最近はリストラされた都市部のサラリーマンなどが農業を始める例も増えてはいるが、就業減のスピードを補うまでには至っていない。1995年に59・1歳だった平均年齢は、今回、65・8歳と6・7歳も上がった。

 耕作放棄地の拡大も止まらない。センサスによると、2010年の放棄地は約40万ha。滋賀県の面積に匹敵する。5年前よりも1万ha増えた。耕作をやめて数年たつと、農地は原形を失うほど荒れてしまう。

 農水省の試算によると、0・5~1ha未満の農家1人あたりの平均時給は約300円で、最低賃金の全国平均額の半分以下。0・5ha未満は100円の赤字だ。「農業だけでは生活できない」ことが弱体化の根幹にある。

 こうした構造的な問題に対応するため、戦後、農水省は大規模化によって農地を集積し、効率化を進めようとしてきた。コメの市場開放が決まった1993年のウルグアイ・ラウンド交渉をきっかけに、6兆円あまりの税金を投じて、農村の基盤整備など公共事業を推進。小泉政権下の2005年には国際競争に耐える担い手を育てようと、4ha以上(北海道は10ha以上)の大規模農家に補助金を集中する政策を打ち出した。

 ところが、思うように成果は上がっていない。2010年の平均耕地面積は2005年比17・7%増の2・2haと、拡大はしているものの、米国の83ha、フランスの37ha、ドイツの32haなどに比べると、格段に小さい。農業の生産性は低い状態が続いている。
 
 民主党政権は、戸別所得補償制度を農業再生の切り札に掲げる。農業の崩壊を防ぐには、個々の農家に税金を直接交付するしかない、という発想だ。今年度から総額5600億円をかけてコメ農家に10aあたり一律1万5000円を配布。2011年度からは麦や大豆などの畑作についても2万円を配る方針だ。農水省の政務三役の一人は「一定の所得が守られれば離農の動きが止まり、農家をやる若者も出てくるのではないか」と話す。

 静岡県内の稲作農家の男性(70)は「所得補償でお金をもらっても、後継者不足の解決にはつながらない。私が死んだら、集落の農地を維持できる人はだれもいなくなってしまう」と悲観的だ。
 
 新たな農業の担い手として民間企業への期待が高まっている。食品大手のカゴメ、居酒屋チェーンのワタミなどが農業に参入。証券最大手の野村ホールディングスも国内の金融機関としては初めて参入し、高糖度のトマトを生産する計画だ。

 ただ、いまの法律上の規制では企業が単独で農地を購入することができないなどハードルは依然高い。「採算性」や「農地の確保」などの点で二の足を踏む企業は多い。

 (朝日、2010年09月08日。古屋聡一)
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