マキペディア(発行人・牧野紀之)

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公契約条例(公共事業に最低賃金)

2009年10月05日 | カ行
 千葉県野田市議会は09月29日、市の公共工事や業務委託を受注する企業に対して一定水準以上の賃金支払いを義務づける、全国初の公契約条例案を全会一致で可決した。来年度の発注分から適用する。

 財政難を背景に公共事業の一般競争入札が広がり、入札価格が低く抑えられるようになった結果、品質の劣化や働き手の賃金低下が深刻になった。野田市の根本崇市長は「国に公契約法の制定を要望したが放置されてきたため、先鞭をつける意味で条例を制定した。他の自治体にも広がることで、国を動かすことを期待したい」と話す。

 対象は予定価格が1億円以上の発注工事や1000万円以上の業務委託で、下請け企業にも同様の規制を適用する。違反企業には契約解除などのペナルティーを科す。

 同市で1億円以上の公共工事は年平均4件ぼど。市は農林水産省と国土交通省が公共工事の積算に使っている労務単価を基準に市長が賃金の最低額を定める予定だ。千葉県内での労務単価は今年度、例えば鉄骨工が8時間1万6700円、配管工が1万8000円。同市は「労務単価の約8割を基本に考えたい」としている。業務委託では、「市の用務員の初任給」を基準に時給829円を想定している。千葉県の今年度の法定最低賃金(728円)よりも100円ほど高くなる。

 市と業務委託契約する企業は約80社あるが、まずは清掃や設備の運転管理などを行う約20社に限定する。賃金台帳や給与明細の点検に手間がかかるためだという。

  解説

 公契約条例の導入に向けた動きは、以前から各自治体で始まってはいた。財政難による価格切り下げのしわ寄せが、入札した企業の働き手の賃金低下につながり、「官製ワーキングプア」批判が噴出。公共サービスの質の低下への懸念も強まっているからだ。

 東京都国分寺市は2007年に決めた調達の基本方針で「適正な労働条件と賃金水準の確保に努めること」を盛り込み、北海道旭川市は2008年、「長期的な雇用や労働条件の向上」をうたった「公契約に関する方針」を策定した。

 ただ、いずれも理念や努力義務にとどまり、具体的な賃金水準に踏み込んだ例はなかった。国の最低賃金法との関係や、財政支出増加の懸念が背景にある。

 兵庫県尼崎市議会では05月、賃金の最低額を市が定めるとした議員提出の条例案が否決された。市側が「法令違反の疑いがある」と反発した。条例推進派の市議は「市は財政負担のアップも気にしたのでは」と見る。

 野田市の公契約条例に対しても、受注企業には戸惑いがある。ある建設会社の幹部は「落札価格を下げて、厳しい競争で受注している。従業員の給与まで行政が決めるのは介入のし過ぎだ」と話す。

 国レベルでは、「公契約法」を制定しようという動きは鈍い。ただ、民主党は、全労働者に適用される最低賃金を時給800円に引き上げ、全国平均では1000円を目指すと宣言するなど、低賃金労働者の底上げに積極的な姿勢を示している。これが追い風となって、全国の自治体で公契約条例制定に向けた動きが活発になる可能性がある。

  (朝日、2009年09月30日)