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ミステリ感想-『叫びと祈り』梓崎優

2013年12月28日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
砂漠の集落と交易するキャラバン。砂嵐に襲われて以来、続発する殺人の理由とは……「砂漠を走る船の道」
風車の中で彼女は消えた。一年後、友人と再び訪れた風車には戦時中に消えた兵士の伝説が残り……「白い巨人」
修道院に収められたリザヴェータの遺体は腐敗せず不朽体となった。彼女が聖人であるかモスクワから司祭が調査に赴き……「凍れるルーシー」
アマゾンの部族を襲うエボラ出血熱。滅びを宣告された彼らを誰がなぜ殺すのか……「叫び」
ゴア・ドアがどうして祈りの洞窟と呼ばれるか――僕を訪ねてきた旅人を名乗る男はクイズを出す……「祈り」
2010年このミス3位、文春2位、本ミス2位。


~感想~
発売当初から高評価は聞いていたが、時期を逃してしまい文庫化を機にようやく読んだ。評判にたがわぬ大傑作である。
世界各地のそれも塩の隊商や修道院、未開の部族という耳慣れぬ題材を舞台に、彼らの中でしか成立しない奇妙な論理を軸に描くさまは、まさにファンタジーやSFミステリにも通じる異世界本格のそれ。
奇抜な動機や狂人の論理とも言うべき、ねじくれ歪んだロジックで驚かせるとともに、予想だにしない仕掛けが降って湧く冒頭の一編を皮切りに、推理合戦が構図の反転から爽やかな幕切れを迎える「白い巨人」、そして本作の白眉は「凍れるルーシー」で、思いも寄らないタイミングで謎の提示がなされるとともに、張りめぐらされた伏線と前代未聞の動機と論理が明かされ、最後に残された疑問が完全にホラーの範疇に収まりながらも納得の、しかも当然の帰結に落ち着く年間ベスト級の短編である。
続くやはり異世界本格の雰囲気漂い、印象的な結末の「叫び」、届かなかった叫びを届き始めた祈りでここまでの四編を連作短編集としてまとめ上げる「祈り」で綺麗に物語を閉じる風格は新人離れしている。
竹本健治の言葉にならうなら、これだけの破格のデビュー作を持ってしまった新鋭がこの先いったいどんな作品を描いていくのか、まずは3年越しの第二作「リバーサイド・チルドレン」から読まなくてはなるまい。


13.12.25
評価:★★★★☆ 9

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2 コメント

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Mのミステリー研究所 (sheriock221b)
2014-01-01 07:50:05
今日は。あけましておめでとうございます。佳い一年でありますように・・・。この本はだいぶ前に読み終えてますが、なかなか評判どうりに面白かったです。個人的には「白い巨人」が好みですね。気のいい人間ばかりで悪人がいない、そんなストーリーが読後感を爽やかなものにします。やっと出た「リバーサイド・チルドレン」ですがかなり難しいテーマのようですね。世界中には孤児が我々が考えている以上にいることに気付かされる内容のようです。
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Unknown (小金沢)
2014-01-02 22:56:14
おめでとうございます。
「白い巨人」あってこその「祈り」ですからね。傑作短編集でした。
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