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ミステリ感想-『闇に香る嘘』下村敦史

2014年10月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
40過ぎで失明し、娘とも疎遠になった村上和久。
腎臓病に苦しむ孫娘を救うため六親等内のドナーを探すが、兄は頑なに検査を拒む。
中国残留孤児だった兄は偽物ではないかという疑念を抱いた和久は、満州時代の知人を訪ね歩く。

2014年第60回江戸川乱歩賞


~感想~
審査員の石田衣良が「ベテラン作家なら決して手をださないくらい主人公の設定のハードルが高い」と言うように、全盲&60代後半の語り手&中国残留孤児&密航、と想像するだに書くのが面倒そうな舞台設定で、しかも落ち目かつマンネリの江戸川乱歩賞&新人のデビュー作&乱歩賞の常連がタイトルを獲りに来た作品、と来てはどう考えても地雷確定の空気がただよう。
しかし達者とまでは言えないが落ち着いた文体、確かな取材量を感じさせる描写、膨大な伏線と回収技術、真相開示を境に反転する物語と言葉などなど、実に丹念かつ丁寧に書かれた作品で、完成度は非常に高い。
特筆すべきは伏線の上手さと的確さで、回収されるたびに仕掛けられた場面を思い出させるのは、当然のことのように感じられるかもしれないがなかなか出来ることでない。
筆力などまだまだ向上する余地はあり、こなれてくれば一層読みやすくなるだろうし、おそらく量産の利く作風ではないが、今後も良質な作品を出してくれそうな雰囲気がある。
ここ10年、悪目立ちしている覇王・遠藤武文以外にぱっとしない受賞者ばかり輩出している乱歩賞から、久々に有望株が現れたのではなかろうか。


14.10.5
評価:★★★☆ 7

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