ごっとさんのブログ

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苦戦が続く認知症治療薬

2019-04-11 09:46:39 | 
最近大手製薬会社バイオジェンとエーザイは、開発中のアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」の臨床試験を中止すると発表しました。

認知症の最大の原因となっているアルツハイマー病には、現在のところ病気の進行そのものを抑える根本治療薬は開発されていません。アヂュカヌマブは今度こそ第1号になると世界中で注目されていたものでした。

アルツハイマー病の原因として疑われているのがアミロイドベータという物質で、これが脳にたまると神経が傷つき脳の働きを衰えさせるのではないかと考えられています。

2016年に報告された研究では、アヂュカヌマブを使うと、脳にたまったアミロイドベータが減り、しかも薬の量を増やせば増やすほど減り方が大きいことが示されました。さらに投与を受けた人の中には、アルツハイマー病によるものと思われる症状(認知機能テストの点数の低下など)の進行が抑えられた人がいました。

この結果を受けて治療薬としての承認を目指し、多くの人に使って効果を検証する臨床試験を行っていたのですが、そのデータは予想に反して「十分な効果は見込めそうにない」ことを示しており、試験の中止を決定しました。

ここ5年ほど、アルツハイマー病治療薬の開発を目指した試みは、連戦連敗を続けており、このブログでもいくつか紹介しています。

世界の大手企業が巨額の予算をかけて薬剤を開発し、動物や少人数の試験で期待できるような結果が現れ、チャレンジした臨床試験で「効果なし」という結果に終わるということが相次いでいます。

これまでくり返された失敗に関しては、様々な理由が提唱されています。有力なものとして薬は早期に投与しなければ効果が出ないのでは、というものがあります。そこでアヂュカヌマブの臨床試験は早期の人や、軽度認知障害の人を対象として選んでおり、効果を示しやすいと考えられていました。

こういった成功を期待できる状況が積み重なっていた中での失敗のニュースは、驚きと失望の思いが広がりました。

アルツハイマーの原因であるアミロイドベータ説が提唱されたのは、2000年代の初頭のことで、それか20年近くこの仮説に基づいた治療薬開発が進んできたわけです。ここにきてアミロイドベータ説が正しいのかという疑いさえ広まっているようです。

しかしこの説の否定は、長年の研究の蓄積を根底から覆すものになりかねず、簡単に議論できものではありません。認知症が単なる老化現象ではなく、病気の一種として治す可能性があるというのは大きな進歩と言えます。

ただアミロイドベータが長年かけて蓄積し発症することや、認知症の定量的診断ができないといった難しさはありますが、薬の元研究者としてもなんとか開発を続けてほしいものです。