見もの・読みもの日記

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再訪・大東急のアーカイブ/伝えゆく典籍の至宝・後期(五島美術館)

2009-12-01 21:28:00 | 行ったもの(美術館・見仏)
五島美術館 大東急記念文庫創立60周年記念特別展『伝えゆく典籍の至宝』(2009年10月24日~11月29日)

 この秋は、会期途中で大幅な展示替えをする展覧会が目立つ。同展も、数では全体の2割程度だが、かなり目をひく「見どころ」が入れ替わるので、欲張ってもう1回、行ってきた。

 文句なしに感激したのは『金光明最勝王経音義』(平安時代)。大ぶりな紙面に、広い余白を取って、ポツポツと置かれた意味不明の漢字。実はこれ、万葉仮名で書かれた最古の「いろは歌」の文献なのである。すごい! 解説によれば、本書の巻末には「十行を完備した最古の五十音図」も付いているのだそうだ。展示箇所をよく見ると、「いろは歌」の隣りには「次可知濁音借字」と題して、バ行、ダ行、ガ行、ザ行の「借字」(万葉仮名)を挙げ、さらに隣りに「次可知○○二継借字」として、方(ハウ)、房(バウ)、経(キャウ)などの長音(二重母音)を列挙する。「○○」に入るのは、カタカナの「レ」に似た形とその逆向きの仮名で、当時の長音記号だったと思われる。承暦3年(1079)の資料だそうだが、既に日本語の音韻に対して、こんなに整理された意識を持っていたのか、と驚く。

 『因明論疏』2帖には、各帖末に藤原頼長の識語を有する。現存唯一の自筆だそうだ。「悪左府」と呼ばれた頼長は、くせもの揃いの同時代でも、きわだって個性的なキャラクターで、私はけっこう好きなのである。にしても、「日本一の大学生」と評された学識のわりに、筆跡は小学生の習字みたいで、お世辞にも能筆と言えないのが微笑ましい。解説に「宋版を思わせる痩肥のない無機質な印象」というが、そりゃ褒めすぎだろ…。

 『北野天神絵巻(弘安本)断簡』3件など、絵画の名宝も数多く並ぶ中で、見に来てよかった~と思ったのは巻物を手に、衣と蓬髪を靡かせながら微笑む『寒山図』(風吹き寒山)。描かれた人物の飄然とした表情とは別に、右端にちらりと覗く岩壁など、画面は知的な構成を感じさせる。作者霊彩は伝未詳。原三渓旧蔵品。さすがの目利きだと思う。鎌倉時代の色鮮やかな『現在過去因果経』は、五島慶太遺愛の品で、臨終の間際は枕辺に置いていたのだそうだ。原三渓と『四季山水図』のエピソードといい、コレクターは羨ましいなあ。谷文晁のスケッチノート『画学斎過眼図藁』2冊にも目を見張った。新書版くらいの縦長の冊子。展示箇所は、1冊は桜咲く春の山村の風景(彩色)、1冊は睨みをきかすトラ?の姿が描かれていた。もっと見たい。

 このほか、前期と変わらない「出版文化の諸相」のコーナーは、じっくり見返してお勉強。五山版の柳宗元文集の刊記に載る中国人刻工の名前を興味深く眺める。当時、元末の戦乱を避けた渡来人の刻工が、嵯峨臨川寺付近に多数居住し、五山版の出版にかかわっていたという。近世初期の活字印刷に関して、家康の駿河版の活字が印刷博物館にあるのは知っていたが、天海版の活字が寛永寺に、伏見版の活字が円光寺(現在は洛北)に、意外と残っているんだな、と認識。南北朝時代の『論語集解』は「論語」に「リンギョ」と漢音のカナが振ってあった。なるほど、いつの間にか呉音の「ロンゴ」になってしまうのか…。

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