見もの・読みもの日記

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仏教美術の変遷/タイ(東京国立博物館)

2017-07-11 00:13:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 日タイ修好130周年記念特別展『タイ~仏の国の輝き~』(2017年7月4日~8月27日)

 いとうせいこう・みうらじゅんの見仏コンビが「タイ仏像大使」に就任し、グッズを監修したり、音声ガイドのボーナストラックに登場したりしているので、ほぼ仏像展かと思っていたら、そういうわけでもなかった。古代国家から現代までのタイの歴史と文化のさまざまな側面を紹介する。しかし、やっぱり仏教関係の文物が圧倒的に多い。

 本展では、だいたい13世紀以前をタイの「古代」として扱う。会場の冒頭には、古代の仏像としては新しい部類だが、きわめつけの名品である『ナーガ上の仏陀坐像』(12世紀末~13世紀)を安置。蛇神ナーガがとぐろを巻き、三枚重ねの座布団のようになった上に座る、若々しい肉体の釈迦。ナーガは七つの首を起こし、釈迦の頭上に光背のような蓋をつくる。後ろにまわってみると、ナーガがちゃんととぐろを巻いているのが分かる。一番下の台座にはタイ文字の碑文があったが、もちろん全く読めなかった。

 さらに古代に遡行すると、仏教は5世紀頃に東南アジアに伝来し、6~11世紀頃にチャオプラヤー川流域に存在したドヴァーラヴァティー王国では、上座仏教を中心に大乗仏教やヒンドゥー教も信仰された。石仏(砂岩)、青銅仏、漆喰仏、土製(テラコッタ)など、多様な仏教美術が残されている。アルカイックで愛らしい造形もあれば、7~8世紀の『クベーラ坐像』(ヤクシャの王)『菩薩立像』(2点)は、複雑で蠱惑的な表情を浮かべている。ドヴァーラヴァティーは『旧唐書』などに記載された「堕和羅鉢底」と推定されており、1943年、国銘のある銀貨が発見されたことで、実在が証明されたと考えられている。このへんの解説がとても面白かった。西アジア世界と交易があったらしく、アラビアの硬貨が発掘されていたり、ターバン・ブーツ姿の異人像(でも髭がない?)が出土していたりする。

 9世紀初頭に興ったクメール人のアンコール朝は急速に勢力を拡大する。この時期には、衣のひだの表現がなく、ほぼ裸のようなカンボジア風の仏像や、インド風(密教風)の仏像が登場する。

 13世紀、スコータイをはじめ、タイ族の国が次々と建国され始める。このスコータイ様式の仏像を見て、ああ、私の知っているタイの仏像はこれだ、と納得がいく。顔は面長で卵形、弓形の眉、小さな唇には微笑み、頭頂部にろうそくの炎のような突起を持つ。上半身は肩幅が広く腰の細い逆三角形。そして全身が金色に輝く仏像が非常に多い。

 しかし、初めて知ったのは「仏陀遊行像(ウォーキング・ブッダ)」という類型があること。スコータイ時代から盛んに作られるようになったそうだ。もちろん見仏コンビも注目している。日本にも、人々の救済に駆けつけようとする地蔵菩薩や観音菩薩の「動き」を表現した像はあるけれど、タイの遊行像は全く違っていて、ランウェイのモデル・ウォークみたいに優雅で楽しそうなのだ。仏の慈悲というより、自由で満ち足りた精神がそこにいる感じ。とてもいいので、必見である。

 仏像以外では、ワット・スタット仏堂伝来の大扉(木彫の素晴らしさ!)、彩色挿絵の美しい経典、蒟醤(きんま)、更紗などが魅力的だった。山田長政関係の資料がまとまってたくさん出ていたのも面白かった。長政だけではなく、16世紀から17世紀、戦国時代の終焉により、新たな活躍の場を求めて海外に進出した日本人武士は多かったらしい。その結果、アユタヤ―朝以降も日本刀は、在来のタイ式刀剣より格の高いものとして扱われ、日本との交流が絶えると、タイで日本刀を模した刀剣が作られるようになった。いやーびっくりした。19世紀にタイでつくられたという、微妙に全体のバランスが異国風な日本刀、面白かった。最後に控えていたのは、横浜の三會寺(三会寺、さんねじ)の涅槃仏(20世紀初め、釈興然が請来)。目は閉じているけれど、すぐに飛び起きそうな、若々しい涅槃仏で、こう言ってはなんだが、美人さんだと思った。

 余談であるが、展示解説は日・英・中・韓併記で、タイの地名の漢字表記が面白かった。バンコクが「曼谷」なのは知っていたけど、13世紀に登場したタイ族の国を「曼(ムアン)」というのだそうだ。アユタヤは「大城」でアンコールは「呉哥」なのかあ。ドヴァーラヴァティーの現代表記は「堕羅鉢底」だったと思う。面白い。
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