見もの・読みもの日記

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オトナの愉しみ/百獣の楽園(京都国立博物館)

2011-07-22 00:39:49 | 行ったもの(美術館・見仏)
京都国立博物館 特別展観『百獣の楽園-美術にすむ動物たち-』(2011年7月16日~8月28日)

 いかにも夏休みの家族連れや子ども客をターゲットにしたようで、つまらない企画だなあ、と思っていた。が、行ってみたら、大間違い。スミマセンでした。やっぱり京博の展示にハズレなしだ。この展観のすごさ、楽しさは、オトナの美術ファンでないと、理解できないと思う。

 企画趣旨は型通りで、テーマ(動物の種類)に合わせて、書画・彫刻・工芸などを並べていく。冒頭が「象」だったが、いきなり真正極楽寺(真如堂)所蔵の南宋絵画(重文)で度肝を抜かれる。象車を引くのは色黒の胡人。車上の老人は、手すりにもたれて、興味津々の面持ちで白象を見ている。こんな図像、見たことがない。普賢菩薩像として伝わるが、老子像ではないかともいう。『普賢羅刹女像』(仁和寺蔵)は、まあ定番として、次、富岡鉄斎筆『象図』(個人蔵)は初見。鉄斎の作品は、圧倒的に関西周辺に伝わっているのかな。ブサかわいい白象である。

 「駱駝」に、三彩陶器を並べるのはともかく、唯一の絵画作品が、明代の『五百羅漢図』(仁和寺蔵)の1幅。肩をすぼめたネコのような駱駝図に、どうしてこれにした?と、内心笑いながら首をひねる。淡い色彩に、ゆるくて平和な雰囲気がただよっていて、好きだ。

 展示構成は、1室「象」「駱駝」「猪」「羊」「牛」→2室「猿」→3室「猫」「栗鼠」「犬」「兎」→4室「虫」→5室「鹿」「馬」→6室(大ホール)「禽(とり)」→7室「虎と豹」「獅子」→8室「狐と狸」→9室「大集合」→10室「鱗介」→11室「霊獣」。

 光琳の『竹虎図』みたいな「納得」の京博コレクション、もしくは京博の常設展示館(閉館中)でおなじみだった作品もあるが、むしろこの展観のためにお蔵出ししたり、寺院や個人から借り受けてきた作品が多くて、びっくりした。

 たとえば、お蔵出しの1例は『百鳥文様打掛』(明治時代)。濃緑の地の背中央から右袖にかけて、若冲筆を思わせる鳳凰が居座っている。対角線上の逆位置(左下)には孔雀。孔雀の足下の、モコモコした変な鳥が気になるのだが…。

 「羊」のセクションで、雪舟筆『倣梁楷黄初平図』を見たときは、ちょっと噴いてしまった。選択肢はいろいろあるだろうに、え?どうして、これ?という感じで。決して嫌いではないのです。こんなミュージアムグッズがあると知っていたら、買ってきたくらい。鉄斎の『牛図』もかわいいなあ。

 うれしいことに、長沢蘆雪は厚遇されているような気がした。個人蔵『虎図』のキャプションに「蘆雪の超絶技巧にしびれたい」って、これじゃ、ただのファンの讃辞だと思う…。『楓鹿図屏風』『朝顔に蛙図襖』もいい。雪村周継も、企画者にファンがいると見た。風を呼ぶ『琴高仙人図』は大好き。『鍾馗虎図』もいいよねえ。

 すごい!と唸ったのは、海北友松筆『南泉斬猫図屏風』(京都・妙光寺蔵)。「猫」のセクションで、この画題を選ぶのもすごいし、数ある名品(天授庵の等伯筆とか、平福百穂、下村観山の筆とか)の中から、この作品を選んだ眼力に脱帽。絶体絶命のネコは、禅僧のてのひらに抑えつけられた顔ばかりが、小さく小さく描かれている。一転して、河鍋暁斎の巨大な化け猫はいいなあ。有名なビジュアルだけど、意外と作品自体は小さいんだな。

 切りがないので、このへんにしようと思うが、あっ中国・南北朝の書物(巻子)『篆隷文体』(京都・毘沙門堂蔵、重文)に記された「亀書(きしょ)」は面白かった。「仙人書」のほうが、もっと笑えたのだが、図録に写真が収録されていないのは残念。なお、ソフトカバーで1冊800円に値段を抑えた展覧会目録はお買い得。各作品のキャプションは、複数人で担当していることが分かる。

 ところで、テーマ一覧をしみじみ見ていると、ネズミがないのが、ちょっと残念な気がする(私の干支なので)。あと、日本にはあまりないのだろうが、東アジア的には「驢馬」がほしいところだ。

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