見もの・読みもの日記

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神仏に捧げられた器/根来(大倉集古館)

2009-12-10 22:53:33 | 行ったもの(美術館・見仏)
大倉集古館 特別展『根来(ねごろ)』(2009年10月3日~12月13日)

 紀州(和歌山県)根来寺を発祥の地とする朱漆器「根来」。私がその存在を知ったのは、山下裕二先生と赤瀬川原平さんの『日本美術応援団』(2000)である。オジサン2人が、この「手擦れ」の魅力は若者には分かるまい!みたいに、熱く語り合っているのを面白いと思った。

 本展は、中世期に製作された「根来」の優品を中心に、漆絵、鎌倉彫などを交えながら「根来」の真価に光を当てようとする試み。会場に入ると、とにかく見渡すかぎり「根来」がずらり。1階は、盤、盆、菜桶、高杯(たかつき)などを揃える。平安、鎌倉と注されたものもあるが、室町時代の作がいちばん多い。ただ、様式的な変化がないので、年銘でもなければ、ほとんど見分けはつかない。現在は個人蔵でも「大神神社伝来」とか「春日神社伝来」とか、寺社に伝えられたことを示すものが多かった。平安時代の高杯(大神神社伝来)は、表面が風化(?)でぼろぼろなのに、端然とした風格を保っている。

 「二月堂練行衆盤」と題された円形の朱の盆(日の丸盆、鎌倉時代→奈良博所蔵品の画像)は、長年の使用によって縁が欠け、朱漆が剥げて、下地の黒色が不定形の星雲のように現れている。やがて観音菩薩の御姿でも浮き出してきそうだ。そういえば、朱の盆(盤)は、年を経ると妖怪(→妖怪迷画館)にもなる特別な器だった。泉鏡花の『天守物語』にも登場。畳ほどの板の上に、この朱の盆を無造作に置き、「二月堂焼経」と椿の花を配したところは、インスタレーションっぽくてよかった。そういえば、今回、1階には特設の展示ケースを入れたのかなあ。落ち着いた雰囲気で、とてもよかったと思う。

 なお、「二月堂練行衆盤」というのは、修二会に参籠する練行衆(僧侶たち)が食堂(じきどう)で用いるお盆だそうだ。後学のため、詳しく記録しておこうと思うのは、2階に展示されていた「食堂作法セット」。現在の修二会で使用されている食器である。「二月堂机」と呼ばれる小机(天板裏に「二月堂食堂」の銘あり)の上には、白木の箸と黒塗の椀が3つ載っている。椀には赤字で「禾」のワンポイント。左から、吸物椀(蓋の円周が椀より小さい、はめこむタイプ)、蓋なしの飯椀(見込みが大きく浅い)、壺椀(蓋の円周が椀より大きい、かぶせるタイプ)か。机の下に朱の盆を置き、その上に小さめの蓋なし椀と、重ねた小皿3枚が並べてあった。

 2階の展示室には、厨子、唐櫃、飾り棚など大きめの品が並ぶ。太鼓、と思ったら、これは太鼓形の酒筒だった。小さいものでは、茶入や香合にも根来があるのだな。梅文、笹文、桐文など、柄物の根来は民芸の味わい。思えば、この大倉集古館は、中国風の朱塗りの柱、門扉に黒鉄の金具が取り付けられていて、根来を飾るのに、これ以上ふさわしい舞台装置はないかもしれない。ただひとつ、展示リストを求めたら、「展示替えが非常に多いので作りませんでした」というお答え。それはちょっと、寂しいのではないか。

二月堂机の写真(個人ブログ)
脚先に畳ずりを付けているところが展示品と一致。欲しい。

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