見もの・読みもの日記

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豪腕オトコマエ茶人・根津嘉一郎/根津青山の茶の湯(根津美術館)

2009-12-09 23:47:29 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 新創記念特別展 第2部『根津青山の茶の湯:初代根津嘉一郎の人と茶と道具』(2009年11月18日~12月23日)

 根津美術館のコレクションの基礎をつくった実業家・根津嘉一郎(1860-1940)は、青山(せいざん)と号した茶人でもあった。本展は、嘉一郎が蒐集した茶道具の数々を、実際に茶会で使った取り合わせで紹介する。この「実際に使った取り合わせ」がポイント。

 展示ケースには青畳を敷き、ところによっては、モルタル壁(?)に木の柱、違い棚まで仮設して「床の間」を演出。そこに書画の軸を掛け、花生、香炉、茶碗、茶杓、水指などを並べる(小さなお道具は、必ず袱紗の上に)。解説を読めば、室町時代の布袋図に江戸時代の花生、南宋の山水図に朝鮮の井戸茶碗、ベトナムの水指、という具合で、そのバラエティに驚く。しかし、どの再現茶会も「なるほど」と思わせるスジがどこかに通っている。そして、思ったのは、どの茶会のしつらえも、総じて「男っぽい」ということ。

 私は実際にお茶をやるわけではないので、比較の対象にしているのは、三井や五島や畠山のコレクションだが、それらに比べて、嘉一郎の好みは、伊賀、備前、信楽など、ゴツくて、大胆で、ストイックなものが多い。たまたまなのかもしれないけど、染付なんて、ほとんどなくて、中国モノも、けれんや遊びのない青磁や青銅器の花生ばかりだ。実業家のタイプにもいろいろあるが、経営に行き詰まった企業を多く買収し、再建を図ったことから「火中の栗を拾う男」「ボロ買い一郎」の異名を与えられ、「鉄道王」と呼ばれた(私のイメージでは”豪腕”)嘉一郎の人となりが、茶道具の趣味にも現れているように思う。茶の湯=おばさんセレブの道楽、という通俗イメージが、かなり打ち砕かれる。

 馬麟筆『夕陽山水図』を主役とした「夕陽茶会」の再現では、赤みの濃い柱(神社か、豪奢な遊郭みたい)で囲まれた床の間がしつらえられていたが、柱の赤色と画幅に捺された朱印の色が映じ合って、華やかな雰囲気を醸し出していた。さらに画賛の墨の色は、下に置かれた古銅の黒い花生に応じ、表具の「一文字」の青色が、強いアクセントになっている。こうして、周囲との調和の中に作品を置く、複雑な鑑賞法こそ、茶の湯文化の伝統なのだろう。図録やウェブ上で「作品」だけを見ていては、この味わいは分かるまい…。

 なお、それぞれの再現茶会のセクションでは、たぶん敢えて冒頭に解説パネルを置かず、鑑賞者が先入観なく作品に向き合うことが期待されている。最後に解説を読んで、「この日の注目は茶杓の○○だった」などと書いてあると、んん?どれどれ、と戻って確かめたくなる。「解説が後にあるのは不親切だ」と不満をもらしていたお客さんもいたが、これはこれで、有りだと思う。

 新創記念特別展・第1部で「書跡(古筆)」の展示だった展示室2は、「中国の花鳥画」の特集展示になっていた。伝・李安忠筆『鶉図』(中国の高官みたいに、ふてぶてしい面構え)、伝・牧谿筆『竹雀図』(これは好きだ。愛らしい~)など、南宋から明清まで15点。この「展示室2」の特集は、メイン企画とは別に、つねに要チェックである。

 2階、展示室5は「蒔絵の調度」。国内品が多く、海外輸出用の蒔絵とは、ちょっと違う感じを受けた。柴田是真の作品もあり。展示室6は「雪見の茶」と題して、この季節にふさわしい作品を展示。冬の茶会には、手触りが温かく、見込みの深い筒型の茶碗(冷めにくい)がよいとか、蒸した饅頭が喜ばれるとか、実際的な解説を興味深く読んだ。確かに、寒い日はお茶受けもあつあつの饅頭がうれしいだろうなあ…。あと、砂張(さはり)(青銅)の花生があったが、金属製なのに温かく感じられるのが不思議だった。

 久しぶりに庭を1周してみる。カフェにも入ってみたいのだが、まだ混雑しているので、次回に持ち越し。

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