見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

絵巻の国/お伽草子(サントリー美術館)

2012-09-30 23:58:08 | 行ったもの(美術館・見仏)
サントリー美術館 『お伽草子-この国は物語にあふれている-』(2012年9月19日~11月4日)

 入ってすぐの展示ケースを見て、ぎゃっ!と叫びそうになった。永青文庫の『長谷雄草紙』が出ている(~10/8)。何だってー!! 展示替リストを見てきたつもりなのに、全然気づいていなかった。チラシを見て気になった作品、日本民藝館の名品(笑)『浦島絵巻』が10/8までなのと、真珠庵本『百鬼夜行絵巻』(2007年、京博で見て以来!)は全期展示(巻替え有)なのは、チェックを入れていたのだが、そもそも「お伽草子」と言われて、この絵巻を思い浮かべる人は少ないはず。いや、見逃さないでよかった。

 2009年に『長谷雄草紙』が永青文庫で公開されたときは、全編見るには8回通わなければならないというオニのような展示替えだった(※スケジュール表まだあり)。今回は、物語のクライマックスである(3)「長谷雄、見知らぬ男に案内されて、朱雀門に着く」~(6)「長谷雄、100日を経ずして女を抱こうとし、女、水と化して流れ去る」を一気に通覧できる。ああ、なんて贅沢なの!と感激。

 お伽草子とは、一般に「室町時代から江戸時代にかけて成立した、短編の絵入り物語」と解されており、本展のサイトやチラシも、冒頭にこの定義を掲げている。が、「お伽草子の源流」として取り上げられた『長谷雄草紙』『福富草紙』をはじめとして、けっこう文学史的な「お伽草子」の定義を逸脱した作品が目立つように思った。だいたい、展示品に絵草紙(冊子)がほとんどなくて、九割以上が絵巻の形態だったので、途中であれっ?と思ってしまった。まあ、楽しかったから、いいけど…。

 お伽草子には超時代的な(原型的な)物語が多いが、それを歴史の中に着地させた展示手法も面白いと思った。たとえば「酒呑童子」の物語を愛好した武士たち。とりわけ凛々しい武者ぶりを見せるサントリー美術館本(狩野元信画)は、北条氏綱の注文で制作されたと知って、なんとなく納得。あと『実隆公記』など、同時代の記録に、ちゃんと御伽草子に関する言及が出てくるんだな。展示では、翻刻の見せ方が分かりやすくて、ありがたかった。

 私は下手ウマ素朴絵系が好きなので、『かみ代物語』の鰐は、かなりツボ。この作品を含め、本展には、西尾市岩瀬文庫の所蔵品がかなり出ていた。同館のコレクション調査の成果が活かされているのだろう。『蛙草紙絵巻』は、さらした布を食べてしまう牛の図に笑った。根津美術館、こんな作品も持っていたのか。初見だと思う。『付喪神絵巻』(個人蔵)の、中途半端に人間化した古道具にも笑った。私だけでなく、ときどき会場で、プッと吹いている声が聞こえていたなあ。

 強烈なアイメイクの『しぐれ絵巻』は衝撃的だった(一度、見た記憶がある)。現実離れした清水寺の描写(ゴージャス感だけは出ている)など、やっぱり女性の求めるものは万古不易なんだろうか。男装の女性が恋を実らせる『新蔵人物語絵巻』も、発想が少女マンガっぽい。

 できれば、後期にもう一度行きたい。

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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-10-03 23:34:10
いつも、たのしく拝読しております。

私もこの週末に見に行きました。何回も行きたくなる展覧会ですね(この展覧会のために、ここの会員になりました)

一番うれしかったのは、2010年に徳川美術館で初公開された『法師物語絵巻』に再会できたこと。今回は、別の画面が展示されていて、会期中2回巻替えがあるらしいので、あと最低2回は行かなくては・・・。

岩瀬文庫のお伽草子は、他にも素晴らしいものが沢山ありますが、やはり『かみ代物語』は、外せませんね(笑)。それにしても、いったいどんな人が描いたのか興味がわきます。絵の顔料が高価そうなので、上流貴族か将軍家の子弟あたりではないかと思っていますが、研究者の見解はどうなっているのでしょうか?
「ささやき竹」も絵が奇抜で、隣でで見ていたカップルが「ありえね~」とか「(破戒僧の体つき?)いやらしい~」と盛り上がっていました。
あと孤本の『岩竹』も面白いですね。蟹の胸を武士が矢で射ぬく場面の詞書に「くひはちうにとひ・・・」とありますが、絵を描くように言われた絵師は、この詞書を読んで恐らく思わず「うそぉ~」と唸ったのではないかと思いました。(カタログに写真あり)

『しぐれ絵巻』の絵は本当に強烈でしたね。恐らく絵巻作品で他には例がないのでは?と思ったのですがいかがでしょうか?佐野みどり先生、徳田和夫先生の論文があるようなので、今度読んでみようと思います。
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失礼しました! (鴨脚)
2012-10-05 22:46:47
最初のコメントにハンドルネームを入れ忘れたようです。
怪しいコメントになってしまい失礼しました。

jchさんが紹介されていた、根津の展覧会は、ここで精も根も尽き果ててしまい断念しました(泣)。

あと、小浜の旅行記も楽しく拝読しました。
平成12年に定期観光バスで回ったのですが、
午前中は私1人だけだったので驚きました。
伴大納言絵巻が室町期から江戸期にかけてこの地に伝来したので、その雰囲気に浸りたいと思ったのが小浜に行った動機でしたが、レポートにもあるように素晴らしい仏像群に大満足して帰ってきました。
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鴨脚様 (jchz)
2012-10-09 00:09:51
いつもありがとうございます。世の中には博学な人が尽きないものだなーと思いながら、最初のコメントを読んでいました。

「くひはちうにとひ」→「首は宙に飛び」ですね。思わず図録を確認して、ほんとだ~と笑ってしまいました。

こういう絵巻や絵本は、やっぱりテキストが絵に先行してあるのでしょうか。テキストの作者は、化け物退治の定型的な表現をなぞろうとして、つい筆がすべったのだろうか、など考えました。

この三連休も飽きずに仏像・絵巻三昧に出かけてまいりましたので、また少しずつレポートします。では。
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