○千葉市美術館『伝説の浮世絵開祖 岩佐又兵衛-人は彼を「うきよ又兵衛」と呼んだ-』
http://www.city.chiba.jp/art/
岩佐又兵衛は「浮世絵の開祖」と呼ばれる江戸初期の画家。私が初めてこのひとを意識したのは、橋本治の『ひらがな日本美術史3』(新潮社 1999)が、伝岩佐又兵衛筆「豊国祭礼図屏風」という作品を論じているのを読んだときだと思う。
あまり上手い画家だとは思わない。描かれている人物が、どう見ても不細工なのだ。男も女も顔がデカイ。顎が長くてエラが張っていて下膨れである。それから手足が太くて長すぎる。だから、見ていてうっとりするような絵ではないのだが、ものすごくパワフルであることは認める。
岩佐又兵衛は少年ジャンプの魅力に似ている(ほら、北斗の拳の絵に似てるでしょ)。決して上手くないのに、作品のパワーに圧倒されると、不細工なヒーローも男らしくカッコよく見えてくるし、そのヒーローが惚れ込んでいるヒロインだから”絶世の美女”ということで納得してしまう...というのが、この展覧会の見るまでの、私の又兵衛に対する認識であった。
今回、虚心坦懐に又兵衛の絵を眺めてみて、実は思い込みほど下手でないと初めて気づいた。水墨画の竜虎、伝統的な画題である唐土の名勝風景、自由にアレンジされた歌仙絵や和漢故事の図など、登場人物の表情がやや下世話にすぎることを除けば、いずれも手堅い技量を感じさせ、あれっ?という印象だった。
私にとってなじみの又兵衛を強く感じたのは「山中常盤物語」「小栗判官物語」「浄瑠璃物語」「堀江物語」などの絵巻が並んだコーナーである。中でも圧巻は「小栗」だ。美少年・小栗に懸想して池の中から姿を現した龍神の、紙面を突き破るような迫力。緑の鱗と赤味がかった蛇腹が色っぽい。
小栗が人喰い馬の鬼鹿毛を乗りこなす場面では、従者たちの食い入るような視線と大仰なポーズが、絵巻を鑑賞する者の視線を、すばやく、小栗の姿に運んでいく。映画のようなスピード感。鬼鹿毛は、馬とは思えないほど巨大な姿に描かれている。後半、痩せ黒ずんだ餓鬼の姿に変えられた小栗自身も、ほかの人間よりずっと巨大に描かれており、この感覚も”少年ジャンプ”っぽい。
「浄瑠璃物語」は、御曹司・牛若と浄瑠璃姫の華麗な恋愛絵巻である。金屏風と四季の植物(本物か装飾か判然としない)に飾られた王宮の奥まった一室で、若い二人は愛を確かめあう。この世ならぬ豪奢・華麗・艶治な贅沢感が、見る者を陶然とさせる。
このほか、合戦図や各種のモブシーンがおもしろい。「きれい」な美術ではないのだが、確実に臓腑に応えるパワーがある。この展覧会でファンが増えるといいな。もっと詳しい情報は『芸術新潮』10月号(先月号)で。
http://www.shinchosha.co.jp/geishin/bn.html
http://www.city.chiba.jp/art/
岩佐又兵衛は「浮世絵の開祖」と呼ばれる江戸初期の画家。私が初めてこのひとを意識したのは、橋本治の『ひらがな日本美術史3』(新潮社 1999)が、伝岩佐又兵衛筆「豊国祭礼図屏風」という作品を論じているのを読んだときだと思う。
あまり上手い画家だとは思わない。描かれている人物が、どう見ても不細工なのだ。男も女も顔がデカイ。顎が長くてエラが張っていて下膨れである。それから手足が太くて長すぎる。だから、見ていてうっとりするような絵ではないのだが、ものすごくパワフルであることは認める。
岩佐又兵衛は少年ジャンプの魅力に似ている(ほら、北斗の拳の絵に似てるでしょ)。決して上手くないのに、作品のパワーに圧倒されると、不細工なヒーローも男らしくカッコよく見えてくるし、そのヒーローが惚れ込んでいるヒロインだから”絶世の美女”ということで納得してしまう...というのが、この展覧会の見るまでの、私の又兵衛に対する認識であった。
今回、虚心坦懐に又兵衛の絵を眺めてみて、実は思い込みほど下手でないと初めて気づいた。水墨画の竜虎、伝統的な画題である唐土の名勝風景、自由にアレンジされた歌仙絵や和漢故事の図など、登場人物の表情がやや下世話にすぎることを除けば、いずれも手堅い技量を感じさせ、あれっ?という印象だった。
私にとってなじみの又兵衛を強く感じたのは「山中常盤物語」「小栗判官物語」「浄瑠璃物語」「堀江物語」などの絵巻が並んだコーナーである。中でも圧巻は「小栗」だ。美少年・小栗に懸想して池の中から姿を現した龍神の、紙面を突き破るような迫力。緑の鱗と赤味がかった蛇腹が色っぽい。
小栗が人喰い馬の鬼鹿毛を乗りこなす場面では、従者たちの食い入るような視線と大仰なポーズが、絵巻を鑑賞する者の視線を、すばやく、小栗の姿に運んでいく。映画のようなスピード感。鬼鹿毛は、馬とは思えないほど巨大な姿に描かれている。後半、痩せ黒ずんだ餓鬼の姿に変えられた小栗自身も、ほかの人間よりずっと巨大に描かれており、この感覚も”少年ジャンプ”っぽい。
「浄瑠璃物語」は、御曹司・牛若と浄瑠璃姫の華麗な恋愛絵巻である。金屏風と四季の植物(本物か装飾か判然としない)に飾られた王宮の奥まった一室で、若い二人は愛を確かめあう。この世ならぬ豪奢・華麗・艶治な贅沢感が、見る者を陶然とさせる。
このほか、合戦図や各種のモブシーンがおもしろい。「きれい」な美術ではないのだが、確実に臓腑に応えるパワーがある。この展覧会でファンが増えるといいな。もっと詳しい情報は『芸術新潮』10月号(先月号)で。
http://www.shinchosha.co.jp/geishin/bn.html
芸術新潮で予習,辻惟雄氏の「奇想の系譜」で復習して,大満足な展覧会でした。美術の世界の奥の深さを感じますね。
TBさせて頂きましたので良かったら遊びに来てください。