現在愛用しているSPユニット「AXIOM80」(以下「80」)はスペアも含めて残念なことに2セットとも復刻版。オリジナル版と比べて音質が落ちるという話をよく聞くが、実をいうと「もうこの音で十分」という気持ちをずっと持っていた。
しかし、同じ「80」仲間のSさん(東京)から「〇〇さんは80の伝道師だと思っていますので、ぜひオリジナル版を所有して欲しいと願ってます。」という言葉には正直言って心を揺り動かされた。
別に稀代の名ユニット「80」にふさわしい繊細な耳を持っているわけでもなし、愛着とか“こだわり”にしても自分よりもずっと熱心な方々が全国に沢山いらっしゃるので、伝道師とはちょっとおこがましい気もするが、こうしてブログでその魅力をこまめに発信するという意味では少しはその資格があるのかもしれない(笑)。
そのSさんから10日ほど前にメールが入った。
「ヤフオクに第一期版80がペアで出てます。今回のはコーン紙もカンチレバーも間違いなくオリジナルです。マグネットエッジがR形状かつサブコーンが茶色ですから完璧に最初期のものです。」
ずっと以前のブログに掲載したことがあるが、「80」は製造年代によっていろんな変遷を遂げている。大まかに分けるとⅠ~Ⅳ期ぐらいに分かれていて、マグネットの磁束、カンチレバーの薄さ、コーン紙の厚さの違いなどが指摘されている。
いずれも音質を左右する重要な箇所になるが、最初期のものはマグネットがもっとも強力、カンチレバー(下記の画像で白い線で囲んだ部分)がもっとも薄い、コーン紙がもっとも軽いとされており、音声信号に対する反応がもっとも敏感で繊細とされている。
これまで沢山の「80」がオークションに出品されてきたが、いずれも「帯に短し、たすきに長し」で何らかのキズがある物ばかりだったので、今回ばかりはSさんの言葉をしっかり受け止めて大きな期待を持ってパソコンを開いた。
該当する「80」の解説文にはこうあった。
「オーディオマニアの叔父が使っていたもので定かではありませんが1940年代終わりか1950年の初めごろ購入されたと聞いております。GOODMANS社のAXIOM80の最初期タイプ保管品の出品です。目視チェックしたところコーン紙の状態は非常に良く破れや補修跡がない美品状態です。
こんな文章を読むと、つい「乃公(だいこう)出でずんば蒼生を如何せん」という気になろうというものだが(笑)、文面から推測すると、おそらくオーディオマニアだった叔父さんの遺品なのだろう。なぜならマニアが存命中にオリジナルの「80」を手放すはずがないから。
自分の機器だって、一人娘はオーディオに興味がないし、甥っ子は沢山いるしで、いずれ「叔父が使っていたもの」としてヤフオクに出品される運命にあるだろうから、ホントに身につまされる~(笑)。
「名品を手に入れようと思えば所有者が亡くなったときが狙い目」とはよくいったもので、これから最初期の「80」の所有者の寿命がボチボチ尽きる頃なので世に出回る確率が高くなるかもしれない。
それはともかく、Sさんに次のような短いメールを返信した。
「いかにも程度が良さそうですね。今度こそは内心、秘かに期するものがあります(笑)。情報提供ありがとうございます。」
ようやく本物に巡り会えた気分で今回のオークションには珍しく気合が入った。
落札期日は10月13日(月)の夜。
結果から言えば、123件もの競争をくぐり抜けて見事に落札。価格の方はヒ・ミ・ツ(笑)。
今回は極上の逸品とあって通常の2割増しほどの落札価格だったが、「鵜の目鷹の目」とはよくいったもので入札参加者の皆さんホントによくご存知でホトホト感心する。
待望の現物が到着したのは、16日(木)の午後だった。じっくりと検分したが、まさに65年間にわたって注ぎ込まれてきた愛情と熱意が伝わってくるかのような程度の良さだった。以前の持ち主に負けず劣らず大切に使わせてもらいますからね~。
すぐにでも復刻版と取り換えて試聴したかったが、翌17日(金)に試聴会を控えていたので“はやる”気持ちを抑えた。
経験上、試聴会の直前にシステムの一部でも手直しすると、碌な結果にならないことをよく知っているから(笑)。
試聴会のお客さんは真空管アンプ製作の泰山北斗「Mさん」(福岡)で、当日は朝の8時頃にお見えになって2時間ほどの試聴でいつものようにいろいろアドバイスをもらった。お帰りになる際にボツンと一言「80で聴くジャズボーカルはなかなか面白いよ」。
いやあ、Mさんから初めて褒められました!(笑)
さあ~、いよいよ10時過ぎからオリジナルの「80」の取り付け作業開始。
なにせ精密機器なので、ネジ回しのときに手が滑ってドライバーでコーン紙を突き破ろうものなら、もう自殺ものである。「半田ごて」の取り扱いにしても、細心の注意が要る。
以下、続く。