スピーカー「AXIOM80」をこよなく愛している同好の士が3名集まって毎月1回のペースで開催している「集い」も今回で11回目を迎えた。持ち回り開催なので今回の当番は我が家。
何とか“ええカッコ”しようと、ここ2週間ほど無い知恵を振り絞っていろいろ実験を繰り返したところ、どうにか収まりがついたのはギリギリの前日のことだった。
実験といっても何もご大層なことではなくスピーカーに組み合わせるアンプの選択を迷っただけの話だが、アンプ次第で音の表情がコロコロ変わるのでつくづくアンプとスピーカーは持ちつ持たれつの関係であることを再確認。それに真空管アンプなので出力管、ドライバー管、整流管の組み合わせも大切でブランドごとに挿し替えながら相性を確かめるのだから時間がいくらあっても足りない。
今回の試聴会の目的はただ一つ、大型エンクロージャーのウェストミンスターの復権に絞った。
既にAXIOM80(以下「80」)の凄さは全員の骨の髄まで沁み込んでおり、分かりきった話なので無駄な努力はよそう。むしろ「80」が苦手とするオペラや大編成のオーケストラのスケール感をいかに引き出すかに焦点を絞ったわけだが、試聴結果から言えば一応上出来の部類に入れていいだろう。
5時間にわたる試聴のうち「AXIOM80」がおよそ30分、「AXIOM300」もおよそ30分、残りの4時間はウェストミンスターの出番となった。
今回はKさんがやむを得ぬ所要のためあいにく欠席となりSさん(福岡)さんと二人での試聴となったが、お互いにクラシック一辺倒なのでジャズ系の出番は無し。
はじめにオペラ「マクベス」(ヴェルディ作曲)を聴いていただいた。指揮はガルデルリ、主人公マクベスにはフィッシャー・ディースカウ(バリトン)、その夫人にはスリオティス(ソプラノ)という黄金コンビである。ヴェルディのオペラはあまり好みではないが、このオペラだけは別格。
声量豊かな歌手たちの畳み掛けてくるような迫力が凄い、中でもスリオティスのソプラノがこの世のものとも思えないほどの超絶技巧でもって迫ってくる。極め付きの名盤だと思うが、残念なことに現在廃盤になっている。
システムはパワーアンプに「71A・PP」、スピーカーはウェストミンスター(口径30センチのダブルコーン入り)。
「これまで聴いたことがない凄い低音が出てますよ。印象がまるっきり違います。このアンプを調整した北国の真空管博士さんは凄い腕してますね。」と、Sさん。
「そうですよ。私にとっては、もう博士を通り越して神様みたいな存在です。」(笑)
ひとしきり聴いていただいてから、今度はパワーアンプを「171シングル」に交換。
「これはこれでとてもいい味を醸し出してますね。中高音域の素直な響きにはウットリさせられます。71A・PPの低音域と171シングルの中高音域が合体すると最高でしょう。」
まったく同感です!
次に、Sさんが最近ブルックナーの4番(レコード)を手に入れて、ドレスデン・シュターツカプレの重厚な響きを愉しんでおられるとのことから久しぶりにブルックナーの交響曲8番を引っ張り出した。
言わずと知れたチェリビダッケ指揮の「リスボン ライブ」の稀少盤である。チェリビダッケがリスボンで行ったコンサートをコッソリ誰かが録音したもので、HMVなどの正規ルートでは手に入らないのでオークションでしか手に入らない盤である。(チェリビダッケはコンサート至上主義で録音を許さなかった。)
このリスボンライブ盤についてネットではこういうコメントがあった。
「これはいわゆる海賊盤ですが、とてもそうは思えない素晴らしい音質です。さらにそれ以上にライブの雰囲気が実にうまく捉えられており、臨場感に満ちています。演奏は第1楽章と第2楽章も最高に素晴らしく、第3楽章と第4楽章の美しさはミュンヘン・ライブに優るとも劣らないものです。
ブルックナーのCDのなかで最高の1枚であるだけでなく、クラシックCDすべてのなかで最高の1枚にも思えます。これに匹敵するCDはとっさに思い当りませんが、ワルター指揮ウィーン・フィルのマーラー交響曲第9番あたりでしょうか。
このCDを聴かずにクラシック音楽ファンと言ってきた自分が恥ずかしいくらいです。CDを聴いて、こんなに深く感動したのは久しぶりです。この実演を聴いたら、感動して倒れてしまったかもしれません。」
クラシックファンたる者、このリスボンライブ盤を知らずして人生を終えるとなると大損すること請け合い(笑)~。
さて、三度の飯よりオーディオが好きな人間が集まると耳よりの情報が手に入る。ここでSさんから伺ったニュ-スをご紹介しよう。
オーディオ界では旧くて新しい話として次の2説が根強く存在している。
「ほんとうにいいシステムならクラシックにもジャズにも両方対応できてうまく鳴ってくれるはずだ。」
その一方では
「クラシックは教会やコンサートホールで直接音と壁や床などに反射した間接音が微妙にブレンドされた音を鑑賞するもの。しかし、それとは違ってジャズは直接音を聴くように出来ている音楽だからこの二つはまったく別物。したがってシステムも分けてそれぞれ専用にして聴く方がいい。」
どちらの説に与(くみ)しても一向に構わないし、いいも悪いもないが、いったいこの両説のどちらが正しいのか、その妥当性に一つの示唆を与えるのがスピーカーのタンノイ・オートグラフの存在ではないかと思う。
音が膨らみ過ぎてジャズはからっきし聴けないスピーカーだが、クラシックとなるとオーディオルームがたちまちコンサートホールに変身するという逸品である。わざと寝ぼけたような音を出して雰囲気感をことさらに強調するのだから、ここまで徹底するともう降参するしかない(笑)。
ただし、国内に出回っているオートグラフは大半がティアックなどの国産品の箱なのがちょっと物足りない。やはりオリジナルで聴いてみたい・・・。
オリジナルのオートグラフといえばすぐに思い浮かぶのが五味康祐さん(故人)だが、内蔵されているユニットは「レッド」だ。ところが、このたび「レッド」よりも1世代前の稀少な「シルヴァー」が内蔵されているオリジナルのオートグラフがはるばるイギリスから、とあるオーディオショップに入荷されたというのだ。
日本でも1~2台あるかないかだそうだが、たいへんな高値を呼んでいるとのことで、どのくらいの額か皆さま想像つきますか?
以下、続く。