ひとくちにオーディオマニアといっても多種多様なので分類するのはたいへん難しいが、どうも大きく二つに括られるような気がしてならない。
勝手に言わせてもらうと、「フルレンジ派 VS 3ウェイ派」、言い換えると「ハーモニー派 VS (周波数)レンジ派」ともいえる。
もちろん、どちらがいいとか悪いとかいうことではなくて各人の好みの問題だが、意識する、しないに関わらず、結果的にそれぞれのシステムが「ハーモニーを優先しているか」、それとも「低音から高音まで広い周波数レンジを優先しているか」、どちらかに区分できるようなのだ。
もちろん両方とも満足できるシステムがあれば万事解決だが、残念なことにそういうシステムはまだ聴いたことがないし、ありそうにもない。どうしてもどちらかに片寄ってしまうのが現実だ。
すると、どうしようもない悲劇が起こる(笑)。
フルレンジ派は3ウェイ派に対して「ハーモニーがおかしいので聴けない」と非難し、その一方、3ウェイ派はフルレンジ派にたいして「レンジが狭くて聴けない」と非難する。日本の津々浦々の試聴会で大なり小なりこの堂々巡りが続いている。
自分はときどき浮気心を起こしてしまうが(笑)、基本的にはフルレンジ派に組している。なぜか?
いろいろ差し障りがありそうだが、個人的に思うところを率直に述べさせてもらおう。
☆ 周波数レンジを追いかけてもキリがない
たとえば身近な例でいくとハイレゾの「SACD」と「CD」との違いだが、「SACD」を聴くとたしかに細かな音を拾い、レンジも広くなるが「それがどうした!」。ジャズは別としてクラシックを聴く限りでは音楽から受ける感銘度にさほど違いはない。
デジタル系の録音はレンジ拡大の一途を辿っているが、むしろ周波数レンジが広がれば広がるほど音楽が「薄味」になるような気がしてならない。歳を取って高音域の聴取能力が落ちたせいかもしれないが(笑)。
☆ ボーカルを聴くときは「点音源」に限る
音楽を聴くうえで「ボーカル」というジャンルは欠かせない。そもそも大好きなオペラがそうだし、ポピュラーにしろジャズにしろ「女声ボーカル」は宝の山みたいな存在だが、あれや、これやいっても「ボーカル」はフルレンジの「点音源」に限る。
そもそも人間の口は一つなのだから、当たり前である。これが3ウェイでボーカルを聴くと3つのユニットから別々に音が出てくるので不自然極まりない。たとえて言えば、顔をスピーカーのバッフルにたとえると、口からだけではなくて、鼻と目からも音が出てくる感じ。
それに3ウェイで聴くと歌手の口元がカバのように大きくなったり、ステージで足のない幽霊が唄っている印象を受ける。
したがって、オーケストラやジャズを聴くときは3ウェイでも仕方がないが、せめてボーカルを聴くときぐらいは「フルレンジにして欲しい」といつも思っている。もちろんご本人の面前で口に出せるわけがないが(笑)。
そういうわけで、身の回りにはフルレンジのユニットが増え続けるばかり。グッドマンの口径違いが7ペア、フィリップスが1ペア、タンノイさんが1ペアと百花繚乱。
この中で目下のところ一番気に入っているのがグッドマンの「AXIOM 150マークⅡ」。フルレンジでありながら、レンジの広さにも肉薄気味。このユニットが故障でもしたら絶望の淵に立たされるので、ぜひともスペアを欲しいと熱望していたところ、ようやく「北国の博士」から吉報が入り、「海外のオークションで程度極上のものが1本、また、純正のコーン紙も2枚出品されてますよ。」
何しろ60年ほど前のユニットなので、程度極上とくれば申し分なし。「即決価格で結構ですからお願いします。」
海外からの発送(イギリスとオーストリア)なので2週間ほどかかってようやく一昨日(20日)、我が家に到着した。
ほんとうに信じられないほど程度がいいですねえ。それにコーン紙が薄くて軽いこと!まるで羽毛のようだ。道理で音声信号に対する反応が早いはずで、グッドマンの秘密の一端を知る思いがした。
こういう程度のいい物をスペアにしておくのは勿体ないのでさっそく左側のユニットを入れ替えた。期待通り一点の曇りもない音に大満足。そして、取り外したユニットがこれ。
まるで満身創痍、「傷だらけの人生」ですねえ(笑)。これでもちゃんとした音が出ていたのだから驚きだが、新品同様のコーン紙が手に入ったことだし、これから修理メーカーを探して張り替えてもらうことにしよう。