「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

音楽談義~ジャズの名盤「サキソフォン・コロッサス」の呪縛~

2012年06月26日 | 音楽談義

今回のテーマはいわゆる「テスト盤」について。

年から年中、暇にまかせてオーディオ装置をいじり回していると、どこかを変えるたびに気になるのが「いったい、どういう音になったんだろう?」。

それには格好のテスト盤(CD)があってそれは(社)「日本オーディオ協会」発売元の「SOUND CHECK」。「ピンク・ノイズ」にはじまって「位相のチェック」や「スウィープ・トーン」、「楽器やボーカル」の音色が確認できるようになっており、随分重宝しているが、やはり所詮は「音」に過ぎず、仕上げとしてはやはり「音楽」として心に染み入ってくるかどうかがポイント。

先日、いつも録画している「開運!何でも鑑定団」(骨董品の鑑定をしているテレビ番組)を観ていたら、「今は亡き夫の形見です」と、クラシック・ギターを出品されている中年のご婦人がいた。運営しているダンス教室の経営の一助として活用できればという趣旨だったが、このギターは鑑定の結果、名品と分かって何と500万円の価値が付けられた。そして通常のギターと、この名品のギターの弾き比べをしていたが明らかに後者の方が響きが澄んでいて
ウットリと聞き惚れた。

それに、何といっても両者の決定的な違いは聴いているうちに、きわめて幼稚な表現になるが「胸が”キュン”となって切なくなる」とでも言えばいいのだろうか、どうもそういう感じがしてきた。

実はいつもそうで、(自分にとって)「いい音、いい音楽」を聴くと、いわく言い難いような”微妙な感情の揺れ”が必ず訪れてくるのである。たとえて言えば初恋にも似たような情動性を感じるわけで、オーディオという趣味を飽きもせずずっと続けていられるのも、原点はそこにあるのだろう。

ある程度、酸いも甘いも噛み分けた「古狸」になると、ありふれた日常生活の中で実際に「心を揺り動かしてくれる」ものは実に貴重な存在なのである。

と、いうわけでちょっと寄り道をしたが、システム改変の仕上げはいつも好きな音楽を収録しているCD盤を聴いて、胸がキュンと締め付けられるような思いをさせてくれるかどうかが決め手。

自分の経験では、ピアノ曲の再生が一番クセ者で、これをウットリと聞き惚れることができればシステムの改変は半ば目的を達成したことになる。

ほかにも、ヴァイオリンが音響空間を漂うような感じで鳴ってくれれば更にいいし、ボーカルで「ちあき なおみ」ちゃんが切なく歌ってくれればもう峠を半分以上越したようなもの。いずれも最後の判定は自分固有の「耳=脳」である。

そしていよいよ最後の関門となるのがジャズの「サキソフォン・コロッサス」(以下「サキコロ」)。

             

もう、はるか10年以上も昔から我が家のテスト盤の王様として君臨しているのがこの盤。左が特別録音の「XRCD」盤で、右がその後に発売されたもの。1曲目の「セント・トーマス」の冒頭のシンバルの響きがきれいに抜けているかどうか、やせ細っていないか、そしてサックスとドラムが力強く鳴ってくれるかどうかがハイライト。そして5曲目の「ブルーセブン」のベースの重量感・・・。

この「サキコロ」再生の重要性について改めて認識させられたのが一昨日の24日(日)のことだった。

この日は梅雨の真っ最中で一日中シトシトと雨が降り続いて外に出かける気がしないので朝からずっと家に閉じこもって室内遊戯に耽った。カミさんは「宝塚」観劇のため22日(金)から大阪にいる娘のところに行っているので、家の中でたった一人、いっさい雑音が入らなくて快適(?)そのもの。

実験用の第二システムのJBL3ウェイをいじるうちに、何となく試しに1000ヘルツ以下の低域用のアンプをトランジスターの「01-A」(ケンウッド)から、現在遊んでいる真空管の「VV52B」シングルアンプに取り替えてみた。この取り換えは初めてのケースで、低域用のアンプはDCアンプと決めているので、すぐに元に戻すつもりでの実験だったが、あまりの(音の)品位の高さに驚いた。

ヴァイオリンやボーカルの艶めかしさは言うに及ばず、総じて中域部分が実に魅力的になる。低域もそこそこ出るしクラシックだけ聴くのなら「01-A」よりも上かもしれないと思ったほど。

しかし、問題は「サキコロ」を聴いたときのベースとドラムの重量感だけ・・・。何とかこの辺がうまく鳴ってくれると「鬼に金棒」なのでいろいろやってみた。ウェスタンのアウトプット・トランスを使って低域だけを増幅してみたりしてトライするもハム音が出てあえなく討ち死。

とうとう、この真空管アンプを修繕してもらった奈良のMさんに「何とかこのアンプの低域をもっと力強く鳴らせませんかね~。一案としてインピーダンスを整合させるためにチャンデバとパワーアンプの間にプリアンプを挿入すればいかがでしょう?」と(メールで)泣きついた。

すると「入力インピーダンスに関してはこのVV52Bは150KΩありますから条件としてはトランジスタアンプの50KΩ程度よりもずっと好条件のはずです。音の馬力に関してはモノブロックのトランジスターには叶わないと思います。(真空管の)シングルアンプの貴婦人に”馬の力”を要求するのはいかがなものでしょう。」と回答があった。

Mさんは少々力感は足りないけれど、優美で繊細な音色が売り物の真空管のシングル・アンプを「貴婦人」と称されている。

やっぱり、そうでしょうねえ。オーディオ・システムに何もかも要求するのは無理ってもんでしょう。結局、あれもこれもといろいろ追いかけるよりも「何をもって良し」とするのか、これは大切な「ポリシー」の問題にも一脈相通じるものがあってオーディオという趣味における非常に重要な問いかけになる。

お金が無尽蔵にあって高級機器をジャンジャン買い漁るわけにもいかないし、どこかでそれなりに妥協というものが必要になってくるのは分かっているつもりだが、つい夢中になるとその辺がおろそかになって無い物ねだりをしてしまい、いつもの落とし穴に嵌ってしまう。その挙句が「遊軍機器の増大=無駄遣い」。

とにかく「サキコロ」の再生にはいつも苦しめられている。何せ録音の感度が非常に低い。たとえばDAコンバーターの「デジタルボリューム」(0~100:2目盛=1db)が通常のCDであれば60程度あれば十分なのに、このサキコロに限っては90程度に上げてやらないと十分な音量にならない。こういう録音は手持ちのCDの中でも2~3枚程度。

したがって「サキコロ」の再生に照準を合わせると、他の曲目とのバランスがいろいろと取れにくくなることもこれまでさんざん経験してきた事実。

どだい、クラシックもジャズも両方うまく鳴らそうなんてケチな料簡がそもそも間違いなのかもしれない。片や教会の豊かな音響空間と固い石壁の反射音の響きの中で直接音と間接音が入り混じった音楽、片や「ストリート・ジャズ」の呼称にもあるように反射音なんかを度外視した音楽なのでその成り立ちがまったく異なっている。

したがって「原音再生」といいながら、原音以上にうまく鳴らそうという”欲張り”がオーディオ・マニアなのだからクラシックとジャズを双方満足して鳴らすのは基本的に難しい。結局は「二兎を追うもの一兎を得ず」。

自分が日常聴いているのは圧倒的にクラシックなので、何も「サキコロ」に振り回されなくてもあっさり諦めれば八方うまく納まりがつくわけだが、このジャズの名盤中の名盤は簡単にそれを許してくれそうもない。

クラシックなどからは絶対に味わえない「リズム感と乗り」が”もの凄い”のである。この躍動感だけはまったく別格の存在。

そろそろ「サキソフォン・コロッサスの呪縛(じゅばく)」から解き放されたいのは山々なのだが、ちょっと無理かもねえ・・・。

最後に、5年以上も前のブログで自分の愛聴盤としてこの「サキソフォン・コロッサス」を紹介したことがあるので再度紹介させてもらおう。(抜粋)


題  名     「サキソフォン・コロッサス」(コロッサスには巨像、巨人という意味がある)(収録:1956年)

曲  名     1 セント・トーマス

          2 ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ
          3 ストロード・ロード
          4 モリタート

          5 ブルー・セヴン

演奏者      テナーサックス   ソニー・ロリンズ
           ピアノ        トミー・フラナガン
           ベース       ダグ・ワトキンス
           ドラム        マックス・ローチ
 

今更申し上げるまでもなくジャズ史に燦然と輝く名盤である。ジャズという音楽は体質的に受け付けないけれども、この盤だけは別格。まるっきり素人の自分でさえ即興性の楽しさと体が自然に反応するリズムの「乗り」が感じ取れる。

また、オーディオ試聴用としても貴重な盤になっている。システムの一部を入れ換えたときには必ずテスト用として聴くのがこの盤である。

1のセント・トーマスの冒頭のシンバルの一撃(開始後37秒)はツィーター(高域専用のユニット)のレベル測定には欠かせない。極論すればシンバルの音をきれいに聴くためにタンノイにJBLの075ツウィーター(当時)を加えているといっても過言ではない。

5曲のうちで好きなのは1の「セント・トーマス」と5の「ブルーセヴン」。複雑なデジタル処理をしたこのXRCD盤の録音の良さには十分満足しているが、何せ録音の感度が低い。通常はワディアのDAコンバーターのボリューム60/100のところを90/100で聴かねばならない。

内容の解説については自分のような門外漢の拙い解説よりも、この盤の制作に携わった当事者と関係者の貴重なコメントが的確に表現していると思うのでかいつまんで紹介しておこう。

≪当事者≫
トミー・フラナガン(ピアノ)
あっという間にレコーディングが終了した。リハーサルもなし。簡単な打ち合わせをしただけでテープが回された。録り直しもなかった。やっているときからこのレコーディングは素晴らしいものになると確信していた。
 

マックス・ローチ(ドラム)
ソニーは何も注文を出さなかった。妙な小細工を一切せずにそのときの気持ちを素直に表現しただけだ。豪快で大胆、ソニーの持ち味がこれほど理想的な形で聴ける作品はほかにない。


≪関係者≫
トム・スコット(テナー・サックス)
セント・トーマスのリズミックなフレーズこそ彼ならではのものだ。普通のスウィング感とは違う。それでいて、ありきたりのダンサブルでもない。ジャズ特有の乗りの中で、独特のビートを感じさせる。これぞ典型的なロリンズ節だ。
 

ブランフォード・マルサリス(テナー・サックス)
ロリンズのアルバムの中で一番好きなのがサキソフォン・コロッサス。ここではいつにもまして構成なんかまったく考えていない。出たとこ勝負みたいなところがある。それで終わってみれば、構成力に富んだ内容になっている。これってすごい。うらやましい才能だ。この盤は不思議な作用があって、何かに悩んだときに聴くと、必ず解決策が浮かんでくる。お守りのような作品だ。全てのテナー奏者が聴くべき作品だし教科書でもある。

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