「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

ジャズを聴いていない者は殺す

2016年06月23日 | 読書コーナー

海外ミステリー「アックスマン(斧男)のジャズ」は一風変わった小説だった。

凶器となる「斧」で惨殺を繰り広げる殺人鬼が「ジャズを聴いていない者は殺す」という奇妙なメッセージを新聞社に送りつけるのだから、それだけでもユニークだが、中身の方も舞台背景が凝っていてなかなか読み応えのある作品だった。

私感だが、ミステリーを10冊読んだとするとその中で1冊当たるか当たらないかぐらいの傑作。

                   

本書のカバーに書かれていたあらすじを紹介しよう。

1919年のニューオーリンズで斧を使って蛮行を繰り返すアックスマンと呼ばれる殺人鬼がいた。<ジャズを聴いていない者は殺す>と予告する文面はつぎのとおりだ。

<私はジャズが大いに気に入っているので、次の火曜日の零時15分にジャズバンドが演奏中の家にいる人間全員を見逃すことを地獄にいるすべての悪魔にかけて誓おう。みんながジャズバンドを演奏させれば、まあ、それは大歓迎だ。>

この奇妙な提案をする殺人鬼を懸命に追う関係者たち。


人種差別の強い街で、黒人の妻がいることを隠して困難な捜査をするタルボット警部補、ある事情から犯人を捕まえるようマフィアに依頼された元刑事ルカ、ジャズマンと共に事件の解明に挑む探偵志願の若い女性、アイダ。

彼らの執念で明かされる衝撃の真相とは?

実際に起きた未解決事件をもとに大胆な設定で描く、英国推理作家協会賞最優秀新人賞受賞作。」

以上のとおりだが、若い頃なら一気に読み上げるのだが、歳を取るとそういうわけにもいかず2~3日がかりで読了したが、無差別に繰り返されたように見える連続一家殺人事件にもチャンとした理由(動機)があり、自ずと犯人も特定されるという流れだった。

何よりも凶器が「斧」ということもあって、殺人現場の描写が身の毛もよだつ凄惨さで胆が潰れそうになるが、そこはフィクションとして割り切ったものの、真夜中に読む進むことはあまりお薦めしたくないほどだった(笑)。

本書の魅力は登場人物の多彩な人間模様にある。

舞台はおよそ100年前で、当時は人種差別がまだ色濃く残り、売春街などの利権が複雑に絡みあいマフィアが暗躍したニューオーリンズ。

黒人の妻がいることをひた隠しにする敏腕刑事、その刑事から密告を受けて刑務所に入りようやく刑期を終えて出所してきた元上司の刑事、女性の地位向上をめざしていち早く犯人を見つけようと功名心に逸るうら若き美人女性、その相棒となるのがまだ青年時代のジャズマンのルイ・アームストロングとくれば(もちろんフィクション!)、ジャズファンでなくとも興味を惹かれる。

著者はよほどのジャズ好きとみえて前述したように<ジャズを聴いていない者は殺す>とまで、新聞社に挑戦状を送りつけるのだが、事件の真相との関係は読んでのお楽しみ~(笑)。

ちなみに、ニューオーリンズは周知のとおりジャズ発祥の地として有名だが、もともとフランスの植民地として地名は貴族「オルレアン公」の名前に由来しており、フランス商人が原地人と一緒になって低湿地帯を開発したとのことで豆知識を蓄えられたのは収穫。

もし階級制度が厳然として存在するイギリスの植民地だったらどうだったんだろう。少なくとも「自由・平等・博愛」精神を掲げるフランスだったからこそジャズが勃興したのかもしれないと想像するのも面白い。

とにかく読む機会があればぜひ、とりわけジャズファンにお薦めしたくなるミステリーだった。
 


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