漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「犬ケン」と 「献ケン」 と 「獄ゴク」

2019年09月01日 | 漢字の音符
猋ヒョウを追加しました。
      ケン <いぬ>
 ケン・いぬ  犬部

解字 いぬを描いた象形。現代字は大に点がついた形になったが、点は犬の耳を表わしている。犬は犠牲(いけにえ)とされることが多い動物であった。
意味 いぬ(犬)。子犬は狗と書く。「番犬バンケン」「犬猿ケンエン
参考 犬は、部首「犬いぬ」になる。漢字の右辺について犬の意味を表す。常用漢字では、犬のほか、
状[狀]ジョウ(犬+音符「爿ショウ」)
コン(犬+南の会意)
ジュウ(単+口+犬の会意)、がある。
それ以外に、猋ヒョウ(犬+犬+犬の会意)などがある。
犬が左辺に来るとき、部首「犭けものへん」になり、犬やけものの意味を表す。常用漢字には、
ハン(犭+音符「㔾(ハン)」)
キョウ(犭+音符「往オウの略体」)
(犭+音符「且ソ」)
シュ(犭+音符「守シュ」)
独[獨]ドク(犭+音符「蜀ショク」)
狭[狹]キョウ(犭+音符「夾キョウ」)
モウ(犭+音符「孟モウ」)
猟[獵]リョウ(犭+音符「巤リョウ」)
ビョウ(犭+音符「苗ビョウ」)
ユウ(犭+音符「酋シュウ」)
エン(犭+音符「袁エン」)
ゴク(犭+言+犬の会意)
カク(犭+音符「蒦カク」)がある。この他、
(犭+音符「瓜カ」)
チョ(犭+音符「者シャ」)
ロウ(犭+音符「良リョウ」)などがあり、
約14,600字を収録する『新漢語林』では、犭部に127字が収録されている。

イメージ 
 「いぬ」
(犬・献・吠・哭・猋・飇
音の変化  ケン:犬・献  コク:哭  ハイ:吠  ヒョウ:猋・飇  

い ぬ
[獻] ケン・コン  犬部 
解字 旧字は 「 ケン(虎の模様がある煮炊きの用具。こしき)+犬」 の会意。犠牲にした犬の肉をこしきで調理し、これを相手に贈呈(献上)すること。料理を作って贈呈することから、たてまつる・ささげる意となった。新字体は、旧字の ⇒南に簡略化された献となった。
意味 (1)たてまつる。ささげる。「献上ケンジョウ」「献呈ケンテイ」(物をさしあげること)「献金ケンキン」(2)贈呈する料理。料理や酒を相手にすすめる。「献立コンダテ」(料理の種類や順序)「献酬ケンシュウ」(酒の盃をやりとりすること)「一献イッコン」(盃一杯の酒。また、小さな酒宴)
覚え方 そりをひく、なん()きょくの、いぬ()の献立、豪華です。
 ハイ・バイ  口部
解字 「口+犬(いぬ)」の会意。犬が口でほえること。犬はよくほえる動物であるから、この字はまことにうまく出来ている。
意味 ほえる(吠える)。犬がなく。「吠夜之犬ハイヤのいぬ」(一匹の犬が夜吠えると他の犬も一緒に吠える)
 コク・なく  口部         
解字 「口口(口ぐちに大声を出す)+犬(犬の犠牲)」の会意。共に埋葬する犠牲の犬で葬送の儀礼をあらわし、口口で大きな声でなくことを示す。原義は葬送の時、なくこと。口口は人が泣くのであり、犬が鳴くのではない。犬が鳴くのは吠ハイで表す。
意味 なく(哭く)。声をあげてなく。「哭泣コッキュウ」「慟哭ドウコク」(大声をあげてなげき哭くこと)
 ヒョウ  犬部
解字 「犬+犬+犬」の会意。犬3匹が群がり走るさま。転じて、つむじかぜを云う。
意味 (1)はしる。犬が群がりはしる。 (2)つむじかぜ。「猋風ヒョウフウ」(つむじかぜ)「猋迅ヒョウジン」(つむじ風のようにはやい)「猋飛ヒョウヒ」(つむじ風のように飛ぶ)
 ヒョウ・つむじかぜ  風部
解字 「風(かぜ)+猋(つむじかぜ)」 の形声。猋(つむじかぜ)の意を風をつけて確認した字。
意味 (1)つむじかぜ(飇)。「飇風ヒョウフウ」「飇回ヒョウカイ」(つむじ風が回るように荒れ狂う)「飇起ヒョウキ」(にわかに起こる)「飇塵ヒョウジン」(つむじ風の吹き上げる土埃ほこり) 


     ゴク <言い争う>
 ゴク  犭部

解字 「犭(犬)+言(いう)+犬」の会意。犬と犬が吠えあうように、人間が言葉で言い争うこと。訴えから裁判を経過して罪を得て牢屋につながれるまでの一連の流れをいう。
意味 (1)うったえる(訴)。訴え。「獄訟ゴクショウ」(訴訟) (2)さばく(裁)。「疑獄ギゴク」(真相がはっきりしない裁判)「獄辞ゴクジ」(裁判の判決文) (3)ひとや(獄)。牢屋。「獄門ゴクモン」「獄舎ゴクシャ」「獄囚ゴクシュウ」 (4)つみ(罪) (5)おきて。

イメージ 
 「言い争う」
(獄) 
 「形声字」(嶽)
音の変化  ゴク:獄  ガク:嶽

形声字
嶽[ ガク・たけ  山部     

解字 甲骨文字は山上に羊がいる山の形で山岳やその神格として記されている。殷代前期の都に近い嵩山(すうざん)とする説が有力[甲骨文字辞典]。[字統]は「この山が牧羊人である羌キョウ人の聖地であったとする伝承を字形上に存するもの」とする。しかし、羌人の歴史と分布は深く広いものがあり、この説は今後の課題であると思う。篆文は羊の部分獄ゴクに置き換わった嶽ゴク⇒ガクになった。新字体は「山+丘」の岳ガクを使うが、旧字を残した表現も多い。ガクも参照のこと。
意味 (1)たけ(嶽)。高く大きな山。「山嶽サンガク」「富嶽フガク」(富士山) (2)妻の父母の呼称。「嶽父ガクフ」「嶽母ガクボ
※五嶽ゴガクとは中国の五つの名山の総称で、東嶽(泰山)・西嶽(華山)・南嶽(衡山)・北嶽(恒山)・中嶽(嵩山)の五山をいう。いずれの山も高くけわしい岩山で信仰の対象となっている。中嶽(嵩山スウザン)の周辺はかつて羌人の居住地であったという。
<紫色は常用漢字>

      犬が大に変わる字
 犬が漢字のなかで部首や音符となって使われる字は多い。しかし、第二次大戦後誕生した新字体において、犬の点が省略され、大の字になるものがかなりある。犬⇒大になる字を調べてみると次のような法則があることがわかる。

(1)旧字で犬が字の下部につく字は、新字体で犬⇒大となる。   
   突トツ・つく    旧字は「穴+犬」であるが、新字体で突になる。
   臭シュウ・におう  旧字は「自(はな)+犬」だが、新字体で臭になる。
   戻レイ・もどる   旧字は「戸+犬」であるが、新字体では戻になる。

(2)旧字で犬が字の中に入る字は、新字体で犬⇒大となる。
   器キ・うつわ  旧字は「口四つ+犬」であるが、新字体で犬⇒大となった器になる。

(3)2010年に新指定の常用漢字は、旧字のまま使用するため、(1)(2)の法則は適用されない。   
   嗅キュウ・かぐ、は新指定の常用漢字のため旧字のまま。
   しかし、犬→大と書いても可とされている。
   覚え方 「犬は嗅覚キュウカクがするどい」と覚え、嗅の字は犬にする。

          犬が変化しない字

(1)犬が旁ツクリ(右辺)になる場合は犬のままで、変化しない。
  伏フク・ふせる、献ケン・コン、状ジョウ、獣ジュウ・けもの、黙(黒+犬)モク・だまる、など。


    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 音符「仄ソク・ショク」<体... | トップ | 音符「酉ユウ」<酒つぼ> と... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (👺)
2019-11-01 21:01:09
獣猋
強猋
和猋
近親相猋
返信する

コメントを投稿

漢字の音符」カテゴリの最新記事