白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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井山天元、王手!

2016年12月01日 23時46分34秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
女流棋聖戦決勝は、宮本千春初段牛栄子初段の顔合わせとなりました。
勝った方が、謝依旻女流棋聖に挑戦します。
初段同士の決勝というのは、過去に無いのでは?
どんな対局になるのか、楽しみですね!
決勝は12月8日(木)に行われます。
ちなみに、幽玄の間解説は私です(笑)。

さて、本日は第42期天元戦挑戦手合五番勝負第3局も行われました。
結果は、井山裕太天元一力遼七段に黒番中押し勝ちを収め、シリーズ成績を2勝1敗としました。
これで井山天元は、防衛に王手をかけました。
それでは、対局の模様を振り返っていきましょう。

なお、この対局は幽玄の間にて、松本武久七段の解説付きで中継されました。



1図(実戦黒17)
黒△まで、珍しい布石です。
黒は、右辺を大きな地にするぞと主張しています。
ここで白の立場でぱっと思い浮かぶ道は、白Aあたりに入って模様を荒らすか、白Bから左上の白模様を広げるかです。





2図(実戦白18~白22)
ところが、一力七段の選択は、白1~5!
この打ち方の意味は、左上の白模様を広げつつ、右辺の黒模様も荒らしてしまおうという事です。
「お前の物は俺の物、俺の物は俺の物」というやつですね。
頂点を争う棋士は、皆欲張りです。





3図(実戦黒23~白32)
井山天元、怒って黒1から迫りますが、白は意外にしぶといようです。
白10となり、松本七段の解説によると、簡単には死なないとの事です。
流石一力七段、凌ぎの腕も確かです。





4図(実戦黒33~白36)
黒1に白2と用心して、右辺の白は完全に生きました。
黒3から第2ラウンドです。
白4は、王座戦第3局にも表れた手ですね!
余正麒七段は黒Aでしたが・・・。





5図(実戦黒37~白44)
実戦は黒1と三々に入り、穏やかに分かれたかと思われました。
しかし・・・。





6図(実戦黒45~黒51)
井山天元、左辺の黒まで動き出しました。
隅を取り、左辺も打とうという、これまた欲張りな打ち方です。
ここで白Aと打てば穏やかですが・・・。





7図(実戦白52~白56)
実戦の白1は狭い所だけに、ちょっと気付かない手でした。
左辺、左下の黒への攻めを両睨みにした意味があります。
一力七段、相手の欲張りは許さないのです。
黒2と左辺を守ったので、白3、5と左下の黒へ迫りました。
黒は眼が無くなったので、黒Aから白を取りに行きますが・・・。





8図(実戦黒57~白68)
一本道で、白12までとなりました。
白△は取られたものの、白が外回りになり、黒3子が宙に浮いています。
白が上手く立ち回りました。





9図(実戦黒69~黒75)
黒も黙ってはいません。
黒3から、白の弱点を衝いて反撃しました!
AやBの傷があり、一見すると白が困っているようですが・・・。





10図(実戦白76~白80)
白1~5まで、冷静に対処しました。
白△は逃げにくくなりましたが、差し上げるつもりです。
白5まで、黒△が動けない形になりました。
この状況は、白が大優勢と感じました。





11図(実戦黒81~白90)
ひとまず、黒は隅を荒らしに出ました。
白10に対して、黒A、白B、黒Cと打っていれば簡単に生きます。
しかし、中央の白地がまとまっては、黒に勝ち目はありません。
そこで黒は・・・。





12図(実戦黒91~黒99)
黒1から、中央で暴れ始めました!
左上の隅の黒は、まだ生きていませんが・・・。





13図(実戦白100~黒111)
白1で左上黒の眼が無くなりましたが、黒は中央を荒らしてしまえば、十分に元は取れるとみています。
黒12となると、心細かった中央の黒が、いつの間にか形になってきました。
これが井山マジックです。





14図(実戦黒125)
黒△まで、黒は生き形になりました。
また、左上の黒も簡単に取られません。
白の圧倒的な勢力圏の中、大威張りで捌いてしまいました。





15図(終局図)
その後黒△と打たれた所で、一力七段は投了しました。
ここで投了というのはピンと来ないかもしれませんが、止むを得ません。
白は、黒6子を取らなければいけない状況なのですが・・・。





16図(終局図・その後)
白1には黒2と逃げられ、捕まりません。
以下黒16までは一例ですが、逆に白が取られてしまいます。


かつて井山天元は年下の立場で、多くの強敵を撃破してトップにのし上がりました。
年下の怖さは、誰よりも知っているでしょう。
ですから今は年下の一力七段を、全力で叩きにかかっています。
苦しい碁だったと思いますが、流石の底力でしたね。

一力七段としても、1勝2敗となったものの、井山天元と互角に戦えるという手応えは感じているでしょう。
第4局も、思い切った戦いを見せてくれそうです。

第4局は、12月12日(月)に兵庫県洲本市の「ホテルニューアワジ」で行われます。
お楽しみに!