白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

棋士の採用について・その1

2019年01月08日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
本日は有楽町囲碁センターにて指導碁を行いました。
お越し頂いた皆様、ありがとうございました。
最近は「ブログを見ています」「NHK囲碁講座別冊付録を見ています」などと声をかけて頂くことが多く、嬉しい限りです。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
最近話題の仲邑菫さんは、新たな棋士採用枠で入段しました。
良い機会なので、本日は棋士の採用についてお話ししたいと思います。
もっとも、大半の情報は公開されているので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

まず、採用と名前が付いていますが、はっきり言って棋士になっただけでは生活は全く保障されません。
安定してプロの棋戦に参加する権利を得たと考えて頂くべきでしょう。
後は好成績を上げるなり、アマチュア指導に力を入れるなりして、各自頑張ってくださいというところです。

また、日本には日本棋院と関西棋院という2つのプロ組織があります。
別組織なので、棋士の採用方法は別々ですし、昇段条件や棋士としての待遇なども別です。
昔から、日本棋院と関西棋院を統合すべきという意見はしばしば耳にします。
その是非には議論があるでしょうが、少なくとも実現が簡単ではないということの理由の最も大きなものでしょう。

さて、今回お話しするのは日本棋院棋士の採用方法についてです。
まず、前提知識となることを説明しておきましょう。
日本棋院には東京本院(市ヶ谷)、中部総本部(名古屋)、関西総本部(大阪)があり、棋士はそのいずれかに所属しています。
棋戦での対局も、多くはそれぞれの地域内で行われます。
本戦など、上の方では無差別に当たるようになりますが。
これは当然ながら経費削減のためですね。
いずれネット対局を活用し、所属関係無しに対局する時代が来るのではないか・・・。
数年前まではそう思っていましたが、今となっては難しいでしょうか。

それでは、棋士の採用方法について説明していきましょう。
なお、採用方法は今まで何度も変わっており、現在はヒカルの碁が連載されていた時代とは大きく異なっています。

<注意事項>
これは私個人の記事です。
しっかり確認しながら書いているつもりですが、間違いが無いとも限りません。
正確な情報が必要な方は、公式の情報をご覧ください。


<東京本院・夏季採用>
東京本院の入段枠は毎年3つです。
そのうちの1つは院生枠となっており、4~6月の院生研修の総合成績1位が入段します。

<東京本院・冬季採用>
東京本院の枠の残り2つは、いわゆる「一般枠」です。
年齢制限などはありますが、基本的には誰でも受けられると言っても良いでしょう。
棋譜審査などがあるので、明らかに棋力が低いと落ちるでしょうが・・・。

特別枠で入段した棋士なども、多くは先にこちらの試験を受けています。
謝依旻六段のように、そのまま入段してしまう女流棋士もいますね。

試験はまず、外来予選が行われます。
ただ、外来と言っても年齢制限で卒業した元院生などが多く参加しており、レベルは高いです。
次に、外来予選通過者と院生の一部が参加する合同予選が行われます。
そして最後に、合同予選通過者と院生上位が参加する本戦が行われ、上位2名が晴れて入段となります。

ちなみに私はこの冬季採用試験で入段しました。
私の頃は今よりずっと年齢制限が緩く、外来受験者が29名と非常に多かったです。
それで総当りのリーグ戦を打つのですから大変でした。
外来予選で28局、合同予選で18局、本戦で17局と、計63局です。
長丁場の戦いの中、途中で調子を落としてしまった人もいたでしょうね。

ちなみに、私の各予選の成績は24勝4敗、15勝3敗、14勝3敗でした。
あの頃の私は結構強かったですね(笑)。

<中部総本部採用>
採用枠は1つです。
今年は一般枠ですが、来年は院生枠、再来年は一般枠・・・と交互になっています。

<関西総本部採用>
中部総本部と同様に枠は1つで、一般枠と院生枠が交互になっています。
ただしサイクルは中部総本部と反対になっており、中部総本部が一般枠採用の時は関西総本部は院生枠採用、中部総本部が院生枠採用の時は関西総本部は一般枠採用です。

以上の枠で採用された5名が「正棋士」となります。
正棋士とは何かということや、他の採用方法については次回以降にお話しします。
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囲碁との付き合い方

2018年08月27日 23時58分25秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
自動運転の実用化が、着々と近付いてきているようですね。
既に技術よりも、文化やリテラシーの問題がクリアできるかどうかの段階になっていると思います。
人間よりずっと確率が低くても、AIが人を殺してしまうことを世の中は受け入られるのでしょうか?


皆様こんばんは。
本日はアマチュアの方のある悩みにお答えしたいと思います。
それは、「棋力が停滞していて、勉強が楽しめなくなってきた」というものです。

そもそも、囲碁とは何でしょうか?
ある人は「ゲーム」と答えるでしょう。
対局すること、あるいは観戦すること自体を楽しんでいます。

しかし、もう1つの面もあって、それは「競技」です。
技術というものがはっきり存在するゲームですから、自分の能力を高めることには喜びを感じる人もいるでしょう。

多くの人は、両方の面を楽しんでいると思います。
対局や観戦を楽しむ一方で、棋力が上がればそれもまた嬉しいものです。
しかし、どちらを重視しているかは人それぞれです。
対局さえできれば幸せという人は、熱心に詰碁を解くようなことはないでしょう。
棋力向上を第一に考えている人は、対局しながらも常に上達方法を探っているでしょう。
正しい楽しみ方というものは無く、どちらを選ぶべきかはその人の価値観によるでしょう。

ただ、対局を楽しむということに関しては級位者も高段者もあまり変わりないでしょうが、棋力向上という面では大きな違いがあります。
棋力が上がる度に、上達のペースが遅くなっていってしまうのですね。
私の例で言えば、覚えてから1年で3段になったのに、今は1年でコミ1目強くなることにすら苦労しているわけです(笑)。
まあ、それは極端な例としても、強くなればなるほど自身の上達を実感する機会は減っていくことは間違いありません。
これは囲碁の上達を目指す時、必ずついて回る問題です。

対局や観戦を楽しむことがメインという方は、さほど困らないのです。
棋力が上がらなくても、十分楽しめるのですから。
しかし、囲碁を競技として考えている方には重大な問題です。
段々楽しみが減っていくのですから・・・。

この問題を、こうすれば必ず解決できると言える方法はありません。
なにしろ、その人の価値観の問題です。
ただ、私は競技の道をずっと歩いてきたので、この問題にも長く向き合ってきました。
私なりの答えは、「新たな楽しみを見付ける」ということになります。
実際に私が採用してきた方法をいくつかお伝えしましょう。

①勉強自体に楽しみを見出す
この勉強をしなければいけない、と思って取り組むと楽しくないものです。
この際、バランスなどは考えず、これなら楽しめると思える勉強方法だけを選んで取り組むのも1つの方法だと思います。

②勉強を休んでみる
目標も目先の勝ち負けも全て忘れ、ただひたすら対局に明け暮れてみます。
勝たなくて良いのですから、やりたい放題です。
束縛から解放された時、囲碁の楽しさを再確認できるかもしれません。

③しばらく囲碁から離れてみる
最終手段ですが、これも1つの方法です。
無理に苦しみに耐える必要はありません。
しばらく休んで、またやりたくなった時に始めれば良いのです。
久しぶりに囲碁に触れた時、やっぱり楽しいと思えるようになっているかもしれません。

いずれの方法も、それなりに効果があったと思います。
皆様が実践して上手くいくかは保証できませんが、何かの参考になれば幸いです。
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棋力と上達

2018年08月26日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
暑い日が続きますね。
外出すると、自分の感じている以上に汗をかいているようです。
水分補給を怠らないように気を付けたいですね。


皆様こんばんは。
昨日は久しぶりにお休みしました。
お休みする際にはFaceBook、Twitterでお知らせしようと思っていたのですが、家に帰ったらバタンキュー(死語)でした。

さて、本日のテーマは棋力と上達です。
上達すればその分だけ棋力も上がるのか、ということについてお話ししたいと思います。

ただ、その前に棋力の定義をはっきりさせておきましょう。
私は、棋力とはその人が平均的にどれだけの勝率を期待できるかを示すものと定義しています。
別の言葉を使うなら、期待値や相場ですね。

単純にランダム性だけ考えても、5連勝したり5連敗することは当たり前に起こることです。
また、囲碁は人間が打つものですから、その時々の体調、心理状態などによって調子の良し悪しも変わります。
ただ、何百回、何千回も打てばほぼ収束するはずですね。
長期的にみて、その人がどれぐらいの段位級位で打てば勝率が丁度良くなるかを判断して棋力が決まっているわけです。
この判断は主観的に行われることもあり、システム的に行われることもあります。
前者は、例えば指導者が生徒と対局して棋力を決めるケース、後者はレーティングや勝敗によって段級位が変わるネット対局などがありますね。
実際には数百局打った結果ようやく段位が決まるようなことは無いので、正確な評価ができるとは限りませんが。

さて、前置きが長くなりましたが本題に入りたいと思います。
上達した分、そのまま棋力は上がるかどうか?
つまり、成績が真っ直ぐの右肩上がりで上がっていくかどうか?
その答えはです。

棋力向上のためには、正しい考え方を知り、それを実践することが欠かせません。
しかし、それですぐに結果が付いてくるとは限りません。
何故なら、それは今まで用いてきた方法を修正したり、捨てたりすることでもあるからです。
それが間違った考え方であっても、今まで練習してきたわけです。

例えば、最高でも50点しか得られない考え方をしていて、その習熟度が7割という方がいたとします。
その方が100点の考え方を学び始め、その習熟度がまだ2割だとします。
その場合、短期的には勝率が上がらなかったり、場合によっては下がってしまうこともあるでしょう。
(他には技術全体のバランスという問題もありますが、今回は割愛します。)

例え話ばかりで恐縮ですが、料理では猫の手というものがありますね。
始めて包丁を握った人があの方法で食材を切ろうとすると、確実に遅くなりますし、かえって危なくなることもあるでしょう。
自己流でもなんでも、持ちやすい方法で切りたいと感じるはずです。
少なくとも私はそうでした。
ただ、正しい方法を学んでいけば、一時的にやりにくくとも、長い目で見れば料理の上達につながるということでしょう。
ちなみに、私自身は猫の手習得を早々に放棄しました(笑)。
自身の食事作りでは、火が通っていてまずくなければ良いと思っているからです。
つまり上達自体を放棄したわけですね。

まあ私の料理の腕はさておき、囲碁の上達に関しても同じようなイメージを持っているわけです。
ですから、付け焼刃の段階ではすぐに結果が出るとは限りません。
でも、技術が向上していれば、いつか必ず棋力も向上し、結果が出るようになるはずです。
停滞期間がある分、その上昇幅は非常に大きく、別人の碁のように見られることもあるでしょう。
個人的にも、定期的に指導している方がある日を境に急に強くなった経験は珍しくありません。

ただし、注意点があります。
目先の勝敗にこだわる必要はありませんが、正しく上達できているかどうかは常に確認しておくべきです。
成績が停滞しているのを一時的なことだと思っていたら、実は学んでいることや理解の方法が間違っていて、後ろ向きに進んでしまっていることもあるのです。
指導碁を受ける際には、そのあたりを確認して頂くと効果的です。

ちなみに、死活や手筋、攻め合いなどの基礎分野を学んでいる限り、効率の良し悪しはあっても、後ろ向きに進んでしまうことは少ないです。
それは皆無ではなく、例えば死活を意識するあまり隅で小さく生きようとしてしまうケースがありますが、これも一時的なものです。
死活の力が上がれば自然と改善しますし、改めて正しい考え方を教えても良いでしょう。
基本的に、基礎分野は裏切らないと思って良いです。

このような理由もあり、棋力向上のためには、まず基礎分野を学習することが推奨されています。
長年棋力が向上しないという方のほとんどは、基礎分野を学習していなかったり、学習していてもかける時間が極めて少ないです。
基礎の力が上がれば、棋力は確実に向上します。

とは言え、ほとんどの方にとって囲碁は楽しむことが第一だと思います。
無理に嫌いな分野に取り組み、囲碁が苦痛になっては本末転倒というものです。
ご自身のペースで、楽しめる範囲で取り組んで頂けば十分でしょう。


ところで、あれこれ考えながら書いていた結果、1時間半以上経過したことに気が付きました。
文章力も向上させたいものです。
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囲碁と年齢

2018年08月24日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
大統領経験者が皆不幸になるというのは凄い話ですね。
なり手がいなくなると思いますが・・・。


皆様こんばんは。
本日は囲碁と年齢についてお話しします。

「子供の頃から囲碁をやっている人にはかなわない」
このようなことを仰る方は多いです。
これ自体は正しい面もありますが、誤解を含んでいることも多いです。

そもそも、棋力向上を目的とする場合、幼少期から囲碁を始めることのメリットは何でしょうか?
これを、語学や音楽の例に当てはめて考えている方が結構多いように思いますが、それは間違っていると思います。
私は、幼少期ならではの特別な学習能力というものは、囲碁においてはほとんど無いと考えています。
幼少期から囲碁を始めて有利な点は、人より多くの時間が使えるということでしかないのではないでしょうか。

4歳、5歳で碁を覚えたプロは珍しくありませんが、それから1年や2年で高段者になるケースは極めて稀です。
ですが、碁を10歳前後で覚えたプロの大半は、あっという間に有段者、高段者になっています。
上達速度に関して言えば、ピークは幼少期ではないということです。
むしろ10歳よりももっと上ではないかと思っています。

これは大人が碁を覚えたり、上達を目指す際にも意識しておくべきことだと思います。
上達のピークが10代だとすれば、20歳を過ぎたあたりから段々学習効率は落ちてくるでしょう。
しかし、身に付けられなくなるものは無いのです。

上達したいという意思を持ち、正しい努力をしているならば、どれだけ年齢を重ねていても囲碁は上達できます。
ぜひ諦めずに頑張って頂きたいですね。
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子供の指導方針

2018年08月19日 23時22分21秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
大谷翔平選手、凄いですね。
世界レベルのパワーの持ち主なんて、ハンマー投げのあの人ぐらいかと思っていましたが。


皆様こんばんは。
最近、子供に囲碁を教える機会が増えています。
1つは学校などでの回数限定の入門教室です。
もう1つは、個人的な指導です。
後者の方は、ある程度長い期間に渡っての指導なので、人間的にも色々と変化を感じます。
ある時は、数カ月会わなかっただけなのに、大きく背が伸びて雰囲気が変わった子にビックリしました。
またある時は、幼い雰囲気だった子に急に大人びた印象を受けました。
他にも、いつも自信無さそうにつぶやいていた子が、急にはきはきと喋るようになっていたということもありました。
皆しっかりと成長してくれていて嬉しいですね。
育てたのは私ではありませんが(笑)。

さて、今回は子供たちへの囲碁の指導方針についてのお話ししたいと思います。
まず結論から言ってしまいますと、「なるべく教えない」ということになります。
これは囲碁に限らずあらゆる分野に言えることだと思いますが、人に教えられたことより、自分で気が付いたり身に付けたことの方が、遥かに自分のものになりやすいのです。
ですから、私はなるべく子供たちに答えを教えません。
では何をやっているかというと、「気付き」の機会を提供するということになります。
単純な言い方をすれば、「ここでこう打てば良かった」と教えるのではなく、「ここでどう打てば良かったと思う?」といった問いかけをしています。
究極的には、私が一切口出しをせず、子供たちが全て自力で答えに辿り着いてくれるのが理想ですが、それは現実的には不可能なので多少の手助けをするということです。

これは指導法の基本ですから、多くの方が理解していることでしょう。
ところが、実際にはついあれはダメ、これはダメと教えてしまう方も多いようです。
気持ちは分かりますが、これは逆効果になってしまいます。
こうしろああしろと言われて、その通りに打つのでは自分で考える機会、学ぶ機会を失ってしまうのです。
良い手を打つにしても悪い手を打つにしても、全て自らの意思で決定するべきです。
そうでなければ、上達の問題だけでなく、対局も楽しくなくなってしまうでしょう。

ところで、棋士は自分の子供に強くなって欲しい時、どうしているかご存知ですか?
あれこれ教えてはいけないことは分かっています。
でも自分の子供である以上、囲碁の才能がある可能性が高いので、期待してつい口を出したくなる・・・。
そんな時、多くの棋士は自分以外の棋士の元に子供を預けます(笑)。
そうすれば自分が余計なことをする心配も無く、子供ものびのびと囲碁に取り組めると考えているのでしょう。

もちろん、全ての棋士がそうしているわけではありません。
中には自分で囲碁を教えて成功している人もいます。
ただ、それにはかなりの忍耐力が必要になるということなのでしょう。
親子ですと反抗期の問題もありますから、相性もあるでしょうか。

さて、今まで子供の話をしてきましたが、これは大人を指導する場合でも全く同じだと思います。
ただ、大人の場合、教わる側が答えを欲してしまいがちです。
その原因としては、教われば強くなると勘違いしている、分からない状態が恥ずかしい、講師を待たせては申し訳ないと思っている、などといったことがありますね。
しかし、それは上達に大きくブレーキをかけてしまう原因になると考えています。
あれこれ考え過ぎず、子供のように純粋に囲碁に取り組んで頂くと良いでしょう。

話が脱線し始めたので、本日はこれぐらいにしたいと思います。
大人も子供も、楽しみながら自然に上達して頂きたいですね。
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