忘備録の泉

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なぜ哲学は、「死なないほうが良い」ことを論証できないのか③

2020-08-23 10:31:57 | Library
しばらくの間、存在していないよりも悪くなるが、回復するケースもある。
自殺しない限り、送る価値のある人生へと戻れるし、その人生をたっぷり送れる可能性もある。



人生がとても順調だったのに、あるときから人生最悪の期間を過ごし、その後回復するが価値のレベルは低いし、その期間も少ないケースもあるだろう。
このケースでB点で自殺したとしたらどうだろうか。
第Ⅲ幕の価値の低さと短さゆえに自殺した方がよかったと考えるのか、それとも長い間の苦しみから解放されたという喜びに包まれるほうを選択するのだろうか。

自殺を考えている多くの人にとって、より正確なグラフは下図のようになるのではないか。
失恋した。失業した。受験に失敗した。事故にあい車椅子生活になった…etc
そこで以前の人生と比べたり、夢見ていた人生と比べたり、周りの人の人生と比べたりして、今の人生は生きる価値がないと思いこむ。
だが、事実はそうではないことがよくある。
期待していた人生ほど生きる価値がなかったとしても、やはり存在しないよりは良いのだ。

いろいろな線を引き、このケースやあのケースでは未来がこうなると予測して自殺は理にかなっている、と断言するのはたやすいかもしれない。
だが実生活では、物事がたしかにこのようになるという保証などない。

この本では、生と死にまつわる事実について自ら考えるように、読者を促している。
死とは何か、私たちには魂があるのか、死は悪いものなのか、永遠に生きるのは良いことなのか、死ぬという事実をどう受け止めるべきか、死ぬという事実を踏まえてどう生きるべきか、自殺は許されるのか、など、死について考えるときに避けて通れない具体的で大切な問題をていねいに取り上げている。

「死にたい」「生きていることが辛い」「生きている価値が私にはない」などという悩みの声を聴くことがある。
そういう人に「死んではいけない。生きるべきだ」と諭すことはたやすいが、究極に追い込まれている相手の心に響いていく言葉がまだ見つからない。
哲学的に考えれば考えるほど難しいという意味がよく分かった。

(参考文献「DEATH」シェリー・ケーガン著)



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