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日常よく使われる英語表現を毎日紹介します。毎日日本時間の午前9時までに更新します。英文執筆・翻訳・構成・管理:上杉隼人

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『桐生タイムス』連載「永遠の英語学習者の仕事録」【37】(2024/4/30)

2024-05-02 06:08:46 | 桐生タイムス
最高の教養

 今月は4月8日に刊行されたばかりのジョー・ノーマン『英国エリート名門校が教える最高の教養』(上杉隼人訳、文芸春秋)を紹介する。
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 本書の著者ジョー・ノーマン(Joe Norman)は、2000年からイートン、ウィンチェスター・カレッジ、ウェストミンスターといったイギリスの名門校(パブリックスクール)への進学を望む10歳から13歳の生徒たちを学習指導し、何人も志望校に送り込んできたThe Super Tutor(最高の受験指導教師)だ。 
 著者はイギリスの名門校進学を希望する生徒たちに、「何を読むか」(What to Read)、「どう読むか」(How to Read)だけでなく、「どう書くか」(How to Write)、「エッセイをどう構成するか」(How to Structure an Essay)、「ストーリーをどう語るか」(How to Tell a Story)について教えてくれる。
 内容についてはすでに文芸春秋のサイトに特別記事や担当編集者の衣川理花さんのポッドキャストなどが上がっていて、どれもとても興味深いので、ぜひチェックしてみてほしい。
   

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「永遠の英語学習者の仕事録」も4年目に入ったが、筆者はエリートどころか、いつまで経っても文字通りの英語学習者なので、今月も気になる英語とその訳し方を確認する。
 本書198ページのある「おわりに 囚人のジレンマを超えて―未来のエリートに求められるもの」は楽しく訳すことができた。

 さて、きみは銀行強盗で、捕まってしまった。きみの仲間も捕まった。ついてないな。
 きみたちふたりが口裏を合わせられないようにそれぞれ別々の部屋に入れられてしまったが、仲間もこの署内のどこかにいる、ときみはわかっている。すると、尋問中に刑事に取引を持ちかけられた。仲間を売れば、きみは晴れて自由、仲間は10年の懲役を受ける。何も言わなければ、きみは1年の懲役だ。どちらを選ぶ? 仲間を売って、無罪放免? それとも何も言わずに1年服役するか? きみはその仲間をどれだけ好きだろうか? 忠誠心にどれだけ価値がある?

以下、英語とあわせて見てみよう。

Then it occurs to you. Your buddy is somewhere in the same police station, being offered the same deal. If he turns you in, he goes free. If he stays quiet, he gets a year of jail time. So you’re pretty sure your buddy is having the same thought. Does he turn you in and go free? Or does he keep quiet and do a year in jail? 
 そこできみは思う。仲間も同じ署内のどこかで、同じ取引を持ちかけられたはずだ。あいつが僕を裏切って僕を売れば、あいつは自由だ。黙っていれば、1年臭い飯を食う。そうだ、まちがいなく向こうも同じことを考えているはずだ。さて、仲間はきみを裏切って自由を手に入れるか、それとも口をつぐんで一年ムショにいるか? 

it occurs to you: それであなたは思い浮かぶ。occur to ....で、「~に思い浮かぶ」。occur to A that...(Aに思い浮かぶ)の形でもよく使われる。It didn't occur to him that his wife was having an affair.(妻が浮気をしているとは思わなかった。Oxford Advanced Learner's Dictionary) 
turn ... in: 〈犯人・容疑者などを〉引き渡す (hand over); 〈犯人の居所・正体などを〉内報する (inform on)[『研究社英和大辞典』]

次のように続く。
There’s one more thing. If you both turn each other in, you both get ten years. That’s what your interrogators are hoping – that there’s no honour among thieves, as the saying goes. So what do you do? Do you keep quiet, hoping he does too, and you both do a year inside? A year isn’t that long, is it? Or do you rat on the guy, hoping he doesn’t do the same, and go free that day? Unless he has the same idea, in which case you’re both looking down the barrel of ten years’ hard time
 What do you do?
 もうひとつ考えられる。もしきみたちがふたりともおたがいを裏切れば、ふたりとも10年の刑だ。きみたちの取り調べにあたっている者たちは、実はそれを願っている。ことわざにあるとおり、「盗人には仁義などない」と思っているのだ。で、きみはどうする? 自分は黙秘し、彼も同じように黙秘し、ふたりで1年刑務所で過ごすのを望むか? 1年なんてすぐじゃないか。それとも、仲間はきっと黙っていてくれるから、その仲間を裏切って、自由の身になることを選ぶか? 仲間も同じように考えれば、きみたちふたりとも10年ブタ箱入りだ。
 さてどうする?

looking down the barrel of ten years’ hard time: 10年のきびしい時間が詰め込まれた銃身をのぞき込む。このbarrelはtheがあることから、a barrel of(たくさんの~)ではなく、「銃身、砲身」。銃身を覗き込むというのは非常に危険な状況であり、今はきびしい状況や避けられない苦境にあることを比喩的に表現している。
 
 本書は何と言っても「最高の教養」が問われる1冊なので、教養とは無縁のわたしに果たして対応できるのかという大いなる不安があったが、担当編集者の衣川さんのほか、フリー編集者の上原昌弘さんや英語講師/ライター/オンライン英会話A&A English経営者の品川暁子さんに助けられて、どうにかやり遂げることができた。衣川さん、上原さん、品川さんにこの場をお借りして、厚くお礼を申し上げる。
 本書を皮切りに話題作も含めて翻訳刊行が続くので、本欄で随時ご紹介します。どうか「永遠の英語学習者の仕事録」を引き続きよろしくお願いします。

ジョー・ノーマン『英国エリート名門校が教える最高の教養』(上杉隼人訳、文芸春秋)

上杉隼人(うえすぎはやと)
編集者、翻訳者(英日、日英)、英文ライター・インタビュアー、英語・翻訳講師。桐生高校卒業、早稲田大学教育学部英語英文学科卒業、同専攻科(現在の大学院の前身)修了。訳書にマーク・トウェーン『ハックルベリー・フィンの冒険』(上・下、講談社)、ジョリー・フレミング『「普通」ってなんなのかな 自閉症の僕が案内するこの世界の歩き方』(文芸春秋)など多数(日英翻訳をあわせて90冊以上)。2024年はジョー・ノーマン『英国エリート名門校が教える最高の教養』以降、話題書を含めて英日翻訳6冊刊行予定、日英翻訳も1点。


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