【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「春との旅」:亀沢四丁目バス停付近の会話

2010-06-23 | ★業10系統(新橋~業平橋)

家庭センターかあ。一緒に暮らすことを兄弟に拒否された老人の相談にも乗ってくれるのかなあ。
ここは、子どもに関する相談に乗るところみたいよ。
じゃあ、「春との旅」に出てくるような老人は、身の振り方をどこに相談すればいいんだ?
小林政広監督の「春との旅」は、19歳の孫娘と北海道の漁村で暮らす老人が、孫娘を独り立ちさせるために、自分は兄弟のところに身を寄せようと道内や東北を回るが、行く先々で煙たがられるという話。
そりゃそうだよなあ。なにしろ、老人ていうのが、あの仲代達矢なんだぜ。あんなリア王みたいなじっちゃんが突然やってきていきなり「一緒に暮らしたい」なんて言われたら、血を分けた兄弟だって拒絶反応を起こすぜ。
その兄弟や家族たちを演じるのが、大滝秀治、菅井きん、田中裕子、淡島千影、柄本明といったベテラン俳優の面々。
見た目にも、仲代達矢と一緒に暮らせるとは思えない。
それぞれ出番は少ないのに、存在感を示して、登場シーンではみんながみんな場面をさらっていく。
大滝秀治が妻役の菅井きんの肩を抱き寄せる。それだけでもう、万感の思いがこもったシーンになっちゃうんだもんねえ。
淡島千景なんて、近頃とんとご無沙汰だから引退でもしたのかと思ってたら、矍鑠たるおばあちゃんを全然ブランクなく演じて、あの仲代達矢がタジタジになるんだから見ものだわ。
そういうひとくせもふたくせもある連中の中でひとり、孫娘役の徳永えりだけがまっすぐな演技で映画を支えている。
ほんと、加齢臭プンプンの中で、彼女の清潔感は、文字通り一服の清涼剤よね。
小柄な徳永えりが両腕を開いてがにまたでチョコチョコ走っていく姿は、なにやらアニメの登場人物みたいに見えなくもないんだけど、どっしり構えた老人たちの演技合戦の中で絶妙なアクセントになっていて、映画がじじくさくなるのを救っている。
どんな名演より、実はあの走りがいちばん映画の質感を決めているのかもしれないわね。
まあ、暑苦しい連中ばかりの中で、撮影中は徳永えりも相当プレッシャーを受けていたと思うけど、いままでどちらかといえば脇役が多かった彼女も、これで脚光を浴びるようになると嬉しいな。
結局、仲代達矢に「一緒に暮らさないか」って声をかけるのが血のつながっていない人物だったなんて、小津安二郎の「東京物語」みたいな展開だけどね。
でも、主演の仲代達矢が笠智衆みたいに枯れていないっていうのがミソでね。
笠智衆なら一緒に暮らしてもいいかもしれないけど、仲代達矢じゃちょっとねえ。
やっぱり、家庭センターに相談するしかないかな。
だから、家庭センターは子どもの相談を受けるところなんだって言ったじゃない。あなたもそろそろボケが始まったんじゃないの?
やばっ。





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