【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「3時10分、決断のとき」:北砂四丁目バス停付近の会話

2009-08-08 | ★亀29系統(なぎさニュータウン~亀戸駅)

あ、交番、交番。
なに、ほっとしてるんだ?
あなたにいじめられたら駆け込めばいいな、と思って。
なーに、言ってるんだよ。いつもいじめられてるのは、俺のほうだろ。第一、お巡りさんとか保安官とか、市民を守ってくれる存在だと思ったら大間違いだぞ。
保安官?
ああ、保安官。お前も観たろ、「3時10分、決断のとき」のだらしない保安官たち。
うん、形勢が不利だと思ったらみんな逃げちゃった。
「3時10分、決断のとき」は、生活にあえぐアリゾナの牧場主が金のために強盗団ボスの護送役を志願する西部劇。
ユマへ行く列車に乗せる駅まで護送しなくちゃならないんだけど、ボス奪還を狙う一味に追いかけられる。
ようやく駅のある町にたどりついたのに、応援に来た保安官は怖がってみんな逃げちゃう。
結局、敵に囲まれた中、牧場主だけがボスを駅まで連れていかざるを得なくなる。
そんな中で、身の上話を交わすうち、この二人に淡い連帯感が生まれてくる。
ここからよね、次から次へ怒涛のように映画の見どころが現れる。
降り注ぐ敵の銃弾をかくぐって駅へ急ぐ二人を延々と追うカメラ!
なんと流麗な横移動!
この牧場主、南北戦争で片足を失っているんだけど、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、屋根から屋根に飛び移る。
まるで、「明日に向って撃て!」のロバート・レッドフォードが、泳げないのに思い切って川へ飛び込んだように。
そして命からがら駅舎にたどりついた二人は列車が来るのを身を縮めて待つ。
まるで「明日に向って撃て!」のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが敵に囲まれたラストシーンのように。
って、お前、この映画がまるで「明日に向って撃て!」に並ぶ名作みたいな話しぶりだな。
少なくとも21世紀に入ってからの西部劇の中では1、2を争う名画だと思うわよ。二人がいつ、駅舎の中から飛び出してきてストップモーションになるのかと、ドキドキしちゃったわよ。
ところがこの二人は護送する側とされる側だからそうはならない。
ならないけど、別の意味ですばらしいラストが用意されている。
牧場主を演じるのが、クリスチャン・ベール。
強盗団のボスを演じるのがラッセル・クロウ。
クリスチャン・ベールって、「ダーク・ナイト」とか「ターミネーター4」でヒーローを張っているんだけど、どういうわけか、脇役のほうが目立って、主役のクリスチャン・ベールのほうが脇役みたいな役回りになってた。
この映画でも、主役ではあるんだけど、明らかにラッセル・クロウのほうが堂々とした魅力を振りまいている。
でも、俺は、今回ばかりはクリスチャン・ベールにまいったな。
牧場の経営がうまくいかず、妻からも子どもからも愛想を尽かされている存在だもんね。他人ごととは思えないんでしょ。
思わず彼が漏らすひとこと。人生の半分を過ぎた男だったら、あれにはこたえるぜ。
そういえば、カテゴリーの違う映画だけど「ミルク」の中でもショーン・ペンが同じようなセリフを吐いていたわね。
男としてここで自分の存在を証明しないでいつ証明するんだよ、っていう状況。人生最大の決断。
その男気に、悪党のラッセル・クロウもほだされるってわけね。
片足を失った理由がまた、ここで生きてくる。憎らしいほどよくできた脚本だ。
そして、懐かしや、ピーター・フォンダも出ている。
賞金稼ぎの役で出てくるんだけど、途中であっさり消えちゃう。
あれだけの大物をあんな形で消すとは意外だったわ。
しかし、この映画、今や消えゆくジャンルと化した西部劇と見せかけておいて、「グラン・トリノ」や「レスラー」に連なる、男のおとしまえ映画になっていたなんて、したたかとしか言いようがない。
監督は、ジェームズ・マンゴールド。
「3時10分、決断のとき」って、何で3時10分なんだ?と思っていたけど、映画を観るとよくわかる。
ユマへ行く列車の出る時間が3時10分なんでしょ?
いや、人生の午後3時10分なんだよ。もはや最盛期を過ぎ、陰り始めた時間を知った男の決断、最後の輝きを描いた映画。だから「グラン・トリノ」や「レスラー」に負けず劣らず感動的なんだ。
こんなおもしろい映画が、東京では1館でしか上映されていないなんて信じられないわね。
関係者にも決断をお願いしたかったな。



この記事、まあまあかなと思ったら、クリックをお願いします。



ふたりが乗ったのは、都バス<亀29系統>
なぎさニュータウン⇒南葛西小学校前⇒堀江団地⇒堀江団地入口⇒葛西南高校前⇒新田⇒第四葛西小学校前⇒葛西駅通り⇒中葛西五丁目⇒西葛西六丁目⇒西葛西駅前⇒スポーツセンター前⇒宇喜田⇒葛西橋東詰⇒東砂六丁目⇒旧葛西橋⇒東砂四丁目⇒亀高橋⇒北砂四丁目⇒境川⇒北砂二丁目⇒北砂三丁目⇒大島一丁目⇒西大島駅前⇒五ノ橋⇒亀戸駅通り⇒亀戸駅前