【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ザ・マジックアワー」:豊海水産埠頭バス停付近の会話

2008-06-07 | ★門33系統(豊海水産埠頭~亀戸駅)

こういう波止場が、ギャングたちの抗争の場になるんだろうな。
そう?いまどき、そんなこと、映画の中くらいしかないんじゃないの?
「ザ・マジックアワー」とか?
うん。港町のギャングどおしの抗争に巻き込まれる売れない俳優の物語。
映画の撮影だと思って殺し屋の役を演じる役者が佐藤浩市。本物の殺し屋だと思ってしまうギャングの親分が西田敏行。間でこの策略を仕切るのが、妻夫木聡。
それぞれの勘違いから生まれるトンチンカンなやりとりが、まあ、おかしい、おかしい。
脚本・監督が三谷幸喜だから、おもしろいのは折り紙つきなんだけど、今回はとにかく、佐藤浩市の怪演に尽きる。
いつもクールな二枚目の佐藤浩市が、ここまではじけた演技をしたのは初めて見たわね。
ナイフをなめるだけで、あそこまで笑わせてくれるとは、まあ、ユカイ、ユカイ。
覆面を取ろうとするシーンの顔の演技も最高だったわよ。
指の二丁拳銃だって、負けず劣らずの怪シーンだ。
名俳優が役柄上、大根役者がやる演技をしているところが、なんとも錯倒的な感じがして、オーバーでなく、おなかの皮がねじれちゃうわよね。
受ける西田敏行は、いつもどおり、余裕しゃくしゃくで、これまたユカイ、ユカイ。
妻夫木聡は「憑神」を観たときには、本格的なコメディはちょっと難しいかなあと思ったんだけど、今回はどちらかというと狂言回しに回って、思いの他、気にならなかった。
しかも、三谷幸喜の前作「THE 有頂天ホテル」は観ているときは笑えるんだけど、終わってしまえば余韻の残らない映画だったのに対して、今回はちゃんと余韻の残るところが凄い。
タイトルからして、「THE 有頂天ホテル」っていうのは、深い意味がない身も蓋もないタイトルだったけど、「ザ・マジックアワー」っていうのは、結構ホロリとさせる意味合いを含んでいて、案外侮れない。
前回はホテルという人間臭い場所を舞台にしたわりに、ギャグが細切れで血の通った人間味を感じさせる人物があまりいなかったけど、今回はギャングと映画俳優の世界という、見るからにフィクションに徹したことで、逆に主役の佐藤浩市に人間的な心情を感じさせる結果になったんだから、おもしろい。
売れない映画俳優の悲哀が生きた。
「THE 有頂天ホテル」より、これまでの三谷幸喜の最高傑作「ラヂオの時間」に近い印象だよな。
あれも、抱腹絶倒の中に、右往左往するラジオマンの心情が浮かんでただの喜劇になっていなかったもんね。
最初の撮影所のシーンがちょっと長いかな、と思ったらちゃんとラストシーンに生かされていたし、生前の市川崑が見られたのも映画ファンとしては感慨深いものがある。
年老いた俳優をやる柳沢慎一だって、ほんとうに設定どおりに昔の白黒映画で活躍していた俳優なのよ。
え、そうなのか。お前もさすがにむだに年はとってないな。
あ、誤解しないでよ。リアルタイムで彼の映画を観ているわけじゃないんだから。
しかし、あの年であのピストルさばきが出てくるとは思わなかった。
きっと、波止場での抗争シーンをいくつもこなしてきたんでしょうね。
もし、この波止場で映画の撮影があったら、いちど観に来たいな。
マジックアワーにね。



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ふたりが乗ったのは、都バス<門33系統>
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