団塊的“It's me”

コキロク(古稀+6歳)からコキシチ(古稀+7歳)への道草随筆 2週間ごとの月・水・金・火・木に更新。土日祭日休み

頻尿

2023年01月17日 | Weblog

  妻の旧ユーゴスラビアからチュニジアへの転勤は、所有していた2台の車で移動した。家財道具の多くを運送業者に委託した。到着したらすぐに必要な身の回りの物と飼っていたシェパードを乗せた。1台は、私が妻と犬を乗せて運転した。もう1台は、アルバイトを雇って、チュニジア行きのフェリーが出る、イタリアのジェノヴァまで運転して運んでもらった。ジェノヴァでチュニジア船籍のフェリーに乗り込もうとした。フェリーの車を積み込む狭い開口部に、チュニジアに帰る出稼ぎの人たちの、屋根にまで荷物を積んだ車が、一斉に我先にと動き出した。カオス!まったく動きが取れない。早速、アラブ社会のカオスの洗礼を受けた。こういうカオスもいつしか不思議に収まる。2台の車を無事積み込んだ。犬は部屋が決まってから連れてゆくことにして、そのまま車に残した。フェリーの受付で、チュニジア行きの手配を頼んだ旅行社から受け取った、船室の予約が記載されたチケットを提示した。予約チケットの部屋番号と違う部屋の鍵を渡された。船室をやっと探し当てて鍵を開けようした。鍵はすでに開いていて、中に人がいた。受付に戻った。また違う部屋の鍵を渡された。その部屋にも先客が陣取っていた。同じことを4,5回繰り返した。先に取った者が勝ちは、当たり前のことだと、後にチュニジアで暮らしてわかった。フェリーはすでに出向していた。部屋が決まったので犬を迎えに行った。客室から車のある甲板へのドアは、到着するまでロックされるということで、犬は、そのまま車に置かざるをえなかった。フェリーは夕方にイタリアを出て、翌日の昼近くチュニジアに到着した。

 私たちは、きっと車の中は犬の排泄物で大変なことになっていると思った。犬は、私たちを見て、狂ったようになって喜んだ。じっと荷物でいっぱいのシートの片隅に臥せっていたのだ。排泄物もなかった。もともと犬は、マーキングをするので尿は、小出しに調節することができる。

 私は、塾で教えていた頃、一度午後4時に机に座ると、最後の生徒が帰宅する9時までトイレに行かなかった。そういう生活が、20年以上続いた。おそらく膀胱がそういう生活で、鍛えられたのかもしれない。そのお陰か、私は、夜中に尿意で起きることはなかった。芸者さんも私と同じように強靭な膀胱でなければ、勤まらない仕事だと聞いた。

 ところが60歳を過ぎてから、糖尿病治療のために新しく開発された薬を服用することになった。主治医に「この薬は、糖を尿と排出するため、頻尿の傾向がみられます」と言われた。この薬のお陰で、血糖値に大きな改善があった。主治医が言った通り、頻尿になった。

 以前、妻の両親をディズニーランドへ連れて行った。妻の父親は、高速道路のサービスエリアが来ると、「悪いが止めてくれ」と言ってトイレに行っていた。義父は、糖尿病でなかったが、年齢による頻尿だったようだ。

 年齢を重ねることによって、体のあちこちに不具合が増える。若かった頃、あんなに我慢できたのに、薬のせいとはいえ、トイレに駆け込む回数が増えた。

  ディズニーランドへ行く途中の今は亡き義父を想う。フェリーの中の狭い車内に、一晩閉じ込められながら空腹と排出を我慢できた犬を想う。


  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする