Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/28(金)小林沙羅ソプラノ・リサイタル/CD発売記念/花がテーマの歌曲で春らしいプログラムを可憐に

2014年03月31日 00時09分20秒 | クラシックコンサート
小林沙羅 ソプラノ・リサイタル

2014年3月28日(金)19:00~ 紀尾井ホール S席 1階 3列 7番 4,000円
ソプラノ: 小林沙羅
ピアノ: 森島英子
【曲目】
シューマン: きみは花のよう/ジャスミンの茂み/私の庭/蓮の花/春が来た
シューベルト: 野ばら
モーツァルト: すみれ
グリーグ: バラの時
J.マルクス: そしてきのう彼は私にバラをくれた
R.シュトラウス:『乙女の花』
        1.矢車菊 2.けしの花 3.きづた 4.睡蓮
山田耕筰: この道/からたちの花/曼珠沙華
中田喜直: さくら横ちょう
別宮貞雄: さくら横ちょう
ベッリーニ: 行け、幸せなバラよ
トスティ: バラ
レスピーギ: 最後の陶酔
《アンコール》
 マスカーニ: 花占い
 小林沙羅: えがおの花

 ただ今絶好調、ライジング・スター小林沙羅さんのリサイタルを聴く。何度も聴いているイメージであったが、ピアノ伴奏によるソロのリサイタルは、2012年12月の紀尾井ホール以来、聴くのは2回目である。今回は、めでたくCDデビューを果たし、それを記念してのリサイタルなので、プログラムの構成も新譜のCDとほぼ同じ。CDのタイトルは「La musica dei fiori ~花のしらべ~」ということで、「花」をテーマにした内外の歌曲を集めている。したがってオペラのアリアなどは含まれていない。

 沙羅さんの歌唱を聴くのは今年に入ってからでも今日で既に4回目となる。1月にはバリトンの河野克典さんとのデュオ・リサイタルでシューベルトの『冬の旅』全曲を日本語訳詞で歌い2月には東京芸術劇場のシアター・オペラ『こうもり』でアデーレを歌い3月に入ってカウンター・テナーの藤木大地さんとのデュオ・リサイタルを開いている。これらは東京周辺なので聴きに行くことができているが、これら以外にも山梨県で新作オペラ『MABOROSHI』の初演に出演したり、オーケストラ・アンサンブル金沢に客演したりと、練習とリハーサルなどを入れれば休む間もないほど忙しいに違いない。

 プログラムの前半は、髪をアップにして、フレアのいっぱい付いた淡い水色のドレスで登場。
 まずはシューマンの歌曲を5曲続けて。春の花にちなんだ曲がいくつかの歌曲集の中から選ばれている。「きみは花のよう」でいきなりシューマンらしい抒情性をしっとりと歌い上げる。「ジャスミンの茂み」はとても短い曲。「私の庭」はCDには収録されていないので、会場に来た人しか聴くことができなかったはず。花を歌ってはいるが、短調で哀しみの歌らしい。「蓮の花」は中間部にクライマックスがあり伸びのある歌唱が印象に残る。「春が来た」では、華やぎ弾む心を歌うのは、声自体に若さがあることも重要な要素だ。ピアノ伴奏の方が歌唱の自由度が高いらしく、伸び伸びとした歌声が爽やかに響く。透明感のある華やいだ声質は、春のイメージにもよく似合っている。
 続けて、シューベルトの「野ばら」。これはもう誰でも知っている曲だ。弾む声、伸びやかな抒情性、細やかにニュアンスの表現も含めて、小学校で習った曲が、素晴らしい表現藝術としてよみがえる。
 モーツァルトの「すみれ」。短い歌曲の中で、詞の内容(すみれの気持ち)の変化に従って曲想が変化する。当時としては新機軸を打ち出した曲だという。沙羅さんの歌唱も、明るく嬉しい気持を表すのはオペラのアリアのような伸びやかさ、レチタティーヴォ風の哀しみの表現など、幅広い描写力を見せた。
 グリーグの「バラの時」は、ゲーテの詩に曲を付けたものでドイツ語歌唱によるもの悲しさが漂っている。グリーグの抒情性もまた、濁りのない美しさがある。
 ヨーゼフ・マルクス(1882-1964)の「そしてきのう彼は私にバラをくれた」は、1909年の作品で、管弦楽伴奏の歌曲だとのこと。ロマン派後期の旋律と和声が濃厚な味わいを見せる。沙羅さんの歌唱の素晴らしい点のひとつに感情移入の深さがある。オペラでの経験なども活きているのだと思う。物語性のある歌曲、主人公の心情を歌った曲の表現力に、一段と光るものが感じられる。
 前半の最後は、リヒャルト・シュトラウスの『乙女の花』。4曲からなる歌曲の小品集である。「矢車菊」は清らかな乙女が歌われ、ロマン情緒に溢れる美しい曲。「けしの花」は快活で情熱的に女性が描かれている。「きづた」は落ち着いた雰囲気の中で静かに燃える情熱が描かれる。「睡蓮」は幻想的な女性が描かれる。シュトラウスのロマン主義は華麗だが濃厚で雄弁である。沙羅さんの歌唱も、シュトラウスの時は大人の雰囲気を前面に押し出してきて、低い声も良く出ているし、もちろん高音域は伸びやか。オペラの方でも『ばらの騎士』のゾフィーなどにピッタリだろう。是非聴いてみたいものだ。

 後半は、ローズ・ゴールド(?)のドレスに着替え、髪を下ろして登場すると、会場の女性客から「かわいい・・・」と溜息混じりの声が聞こえた。CDのジャケット写真に合わせてだろうか、髪を下ろすと雰囲気がガラリと変わる。お姫様からお嬢様へのイメージ・チェンジといった感じだ。もとより「花(と愛情)」をテーマにした曲を集めているので、前半はどの曲も似たような調子だったキライがある。後半は日本の歌曲からのスタートなので、雰囲気が変わりアクセントになって良かった。
 まず山田耕筰の有名な歌曲を3曲。何だかんだといって、日本の曲は言葉が100%分かるだけで受け止め方にも違いが生じる。北原白秋と山田耕筰の組み合わせは、日本の近代歌曲の金字塔だと思う。「この道」は誰でも知っている曲で小学校唱歌みたいなものだが、このクラスの歌手が歌うとまったく印象の違う優れた芸術作品に変わってしまう。この曲もCDには収録されていない。「からたちの花」は私の大好きな歌曲のひとつ。CDではかなり遅いテンポで歌っているが、今日はそれよりは少し速く、普通のテンポに近い。しっとりした歌唱はお見事であった。「曼珠沙華」は死んだ女性への哀歌であろうか。悲痛な心の叫びのような、胸に染み入る歌唱であった。
 加藤周一の詩に曲を付けた「さくら横ちょう」には中田喜直作曲のものと別宮貞雄のものがあり、それぞれよく採り上げられる。今日は2曲を続けての演奏である。中田作品は日本的な哀愁の表現で、桜の咲く様子と過ぎ去った恋を描き出す。別宮作品の方がより切ない思いが強く押し出されているようである。沙羅さんの歌い分けは、中田作品の方が空気感が温かく感じられ、情景描写的。対する別宮作品の方が内向的で観念的な歌い方がなされていたように思う。
 後半の部、これ以降はイタリアの歌曲が歌われた。オペラ作曲家として名高いベッリーニを採り上げながら、敢えて歌曲「行け、幸せなバラよ」を選ぶ辺りは徹底している。オペラのアリアとはまた違った魅力があり、オペラのようにドラマティックにはならずに抑制的ではあるが、明るく伸びやかな美しい旋律はベッリーニらしい。イタリアものになると、また沙羅さんの別の魅力が出てくるようだ。母音の多いイタリア語は旋律を大きく歌わせることができるため、伸び伸びとした美声をたっぷりと聴かせることができる。明るい声質の伸びやかな歌唱であった。
 続いて、トスティの「バラ」。トスティは、ロマン派後期のイタリアの中で、オペラではなく歌曲の分野に優れた作品を残した。「バラ」もとても美しい曲だ。沙羅さんの明るい声はイタリア音楽によく似合っている。
 プログラムの最後はレスピーギの「最後の陶酔」。交響詩「ローマ三部作」のレスピーギがこんな歌曲を作っているとは知らなかった。器楽や管弦楽と違って、イタリアはやばり歌の国なのだと思う。とても素敵な曲だ。

 今回は沙羅さんのCDリリースに合わせた内容のプログラムだったが、前半がドイツの歌曲、後半が日本とイタリアの歌曲という風にうまく配分されていて、聴き終えてみると、CDよりは構成が良かったのではないかと思う。CDは特等席の最良の音質で聴くことができるが、やはりライブの臨場感の方が、心の琴線に触れるものが強い。今回はとくに曲目がほとんど同じだっただけに、よりリアルな存在感のあるライブの方が数段良かったと思う。何よりも紀尾井ホール800席ほぼ満席の人たちと、音楽で同じ空間と時間を共有できることが嬉しい。音楽も一期一会。今日は3月の末にしては温かく晴れて、四ッ谷駅から紀尾井ホールまでのお堀端の道も桜が咲き始めている。「春の宵」という言葉がぴったりの、素敵なリサイタルであった。

 アンコールは2曲。マスカーニの「花占い」。小道具(?)の花1輪を持ってきて、「M'ama,non m'ama(愛してる、愛してない)」と花びらを1枚ずつむしりながら、茶目っ気たっぷりに歌ってくれた。会場も大喝采である。
 最後は、小林沙羅作詞・作曲の「えがおの花」。一度聴いただけで旋律が耳に残る、覚えやすい曲。世界にえがおの花を咲かせたい、という沙羅さんからのメッセージであった。

 終演後は、もちろんサイン会。デビューCDリリース直後ということで、やはり長蛇の列ができた。先日の神奈川県立音楽堂でのコンサートの時の写真(ちょっと加工)をプレゼントし、サインしていただいた(画像はサイン会の様子も)。この後、沙羅さんはストアイベントなどがあるだけで3ヶ月ほどお休みとか。ウィーンに戻ってまた研鑽を積んでくるとのことらしい。次にお会いできるのは7月。フィリアホールの「女神との出逢い」シリーズで、ギターの荘村清志さんとのデュオがある。もちろん最前列のチケット確保済み。楽しみは尽きない・・・・。



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