Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/20(木)芸劇シアターオペラ『こうもり』/東京が舞台の読み替え演出/メラニー・ホリディがゲスト出演

2014年02月22日 03時26分17秒 | 劇場でオペラ鑑賞
東京芸術劇場 シアターオペラ Vol.7
ヨハン・シュトラウスII 喜歌劇『こうもり』全3幕


2014年2月20日(木)18:30~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 F列 18番 10,000円
指 揮: ハンス・リヒター
管弦楽: 東京交響楽団
合 唱: 武蔵野音楽大学
演 出: 佐藤美晴
脚 本: アンティ・キャロン
芸術アドヴァイザー: メラニー・ホリディ
【出演】
アイゼンシュタイン(証券ディーラー): ペーター・ボーディング(バリトン)
ロザリンデ(日本人の妻): 小川里美(ソプラノ)
アデーレ(家政婦): 小林沙羅(ソプラノ)
ファルケ(証券デイーラー): セバスティアン・ハウプマン(バリトン)
ブリント(日本人の弁護士): 新海康仁(テノール)
フランク(国際派の警部): 妻屋秀和(バス)
オルロフスキー(イベント・プロデューサー): タマラ・グーラ(メゾ・ソプラノ)
アルフレード(ファッション・デザイナー): ジョン・健・ヌッツォ(テノール)
フロッシュ(警部補): 西村雅彦(俳優)
スペシャルゲスト: メラニー・ホリディ(ソプラノ)

 東京芸術劇場の「シアターオペラ Vol.7」は石川県立音楽堂との共同制作で、ヨハン・シュトラウスIIのオペレッタ『こうもり』。理屈抜きに楽しめる演目なので機会があるたびに観ることにしている『こうもり』だが、今日の目玉は大胆な読み替えを行った新演出だ。何しろ、物語の舞台は2014年2月20日の東京(つまり今日!!)なのである。そのための仕掛けはちゃんと用意されていた。

 さて、「シアターオペラ」であるが、ご存じの通り東京芸術劇場はステージ後方にパイプオルガンを備えたコンサートホールであり、舞台装置を必要とするオペラを上演できる場所ではない。そこで敢えて舞台付きのオペラを上演するという。以前サントリーホールでやっていた「ホールオペラ」に対して、こちらは名称が劇場なので「シアターオペラ」というわけだ。
 実際には、ステージ寄りの客席A列からE列までを取り払い、そこを仮設のオーケストラ・ピットとした。もちろん椅子を取り去っただけだから、厳密にはピットではなく、客席と同じフロアである。私の席は最前列の真ん中、指揮者の真後ろになり、立って指揮をする大柄なハンス・リヒターさんが目の前1メートルのところでさかんに腕を振り回しているものだから、肝心の舞台が観にくいことと行ったら! 最高の席を取っていたと思っていたのに、とんでもないことになってしまった。やれやれ。
 ステージには、壁面を模した簡単なセットが組んであり、簡素だが今風の洒落た舞台を創り出している。ステージ上方には横書きの字幕装置が下がっていた。てっきり日本語上演だと思い込んでいたのだが、考えてみれば主役の何名かは海外から呼んでいるので、実際にはドイツ語歌唱であった。台本はオーストリアで活躍しているアンティ・キャロンさんのドイツ語のものを使い、部分的に日本語に変え、追加もしているようだ。
 佐藤美晴さんによる新演出は、物語の舞台を現代の東京に置き換える。アイゼンシュタイン(ペーター・ボーディングさん)と悪友のファルケ(セバスティアン・ハウプマンさん)はオーストリア人の証券ディーラーで東京に長期出張中という設定。アイゼンシュタインの妻(小川里美さん)は日本人の元ファッション・モデルで、芸名をロザリンデという。家政婦のアデーレ(小林沙羅さん)は仕事はできないがモデル志望で、ウィーン暮らしが長かったのでドイツ語が堪能だとか(これは楽屋落ち)。オルロフスキー(タマラ・グーラさん)は外国から来ているイベント・プロデューサーでパーティを主催する。アルフレードは国際的なファッション・デザイナー(ジョン・健・ヌッツォさん)でロザリンデの元カレである。フランクはインターポール帰りの国際派警部なのでドイツ語ができる。ブリント(新海康仁さん)とフロッシュ(俳優の西村雅彦さん)は日本人なので台詞は日本語だ。とまあ、こんな具合にうまい設定を考えたもので、歌唱はドイツ語のままだが、台詞はドイツ語と日本語が設定通りに入り乱れる。
 とはいえ、ストーリーはあくまで『こうもり』のままなので、初めの方は読み替えがうまく機能していたが、物語が進行するにつれてだんだん曖昧になっていき、少々混沌としてしまった感がある。まあ、『こうもり』に固いことをいっても始まらないので、面白かったからそれで良しとしよう。読み替えの演出は、観る人が原作を十分に知っていることが前提になるので、その意味では『こうもり』なら人気の高いオペレッタなので問題はないだろう。たとえば、ファルケがアイゼンシュタインに「こうもりの仕返し」をする理由の説明がなかったが、観客はその理由を知っているはずだから・・・省略したのだろう。

 アイゼンシュタイン役のボーディングさんは、どちらかといえば『メリー・ウィドウ』のダニロの方が似合っている感じの人で、アイゼンシュタインのとぼけたキャラクタを演ずるには格好良すぎ。歌もまあまあといったところだ。ファルケ役のハウプマンさんはウィーン風のインテリっぽさに雰囲気があった。ロザリンデ役の小川里美さんは、昨年2013年11月、日生劇場の『フィデリオ』でのレオノーレ役での熱演が記憶に新しいが、今日はまた正反対のキャラクタである。スラリとした細身のスタイルが元ファッション・モデルという役柄にピッタリで、それっぽい衣装も素敵だった。アデーレ役の小林沙羅さんはコケティッシュな役柄を元気いっぱいに演じていたし、2つのアリアは技巧的にも声量も素晴らしかった。オルロフスキー役のグーラさんはあまり目立たなかったようだ。演出的にもキャラクタがあまり強くなかったようである。アルフレード役のジョン・健・ヌッツォさんは、この脳天気な役柄をもう少し楽しげに演じて欲しかったところだ。ちょっと真面目すぎたかもしれない。フランク役の妻屋秀和さんは、とぼけた役柄を表情豊かに演じていて、抜群の存在感を発揮していた。もちろん歌唱もうまい。
 フロッシュ役の西村雅彦さんは、通常の酔っぱらいの看守という路線とは一線を画したキャラクタほ創り出した。第3幕冒頭の一人舞台では、デスクの横に可動式のホワイトボードが置いてあり、そこには今日の新聞の切り抜きが数点張り出してある。「消費税率が上がって景気はどうなる」とか「ソチ・オリンピックで竹内智香選手が銀メダル」とか、「佐村河内問題」とか・・・。まさに今日の話題でトークを作っていく。なかなか粋な演出ではある。ただし、本編とは関係が薄いので、ちょっと浮いた存在になってしまった。
 極めつけは第2幕、パーティのスペシャル・ゲストにメラニー・ホリディさんが実名でご本人が登場。歌ったり踊ったりと元気なところを見せてくれた。オールド・ファンたち(?)は拍手大喝采である。

 演奏は東京交響楽団。指揮のハンス・リヒターさんワーグナーの『ニーベルングの指輪』を初演した19世紀の大指揮者ハンス・リヒターの曾孫にあたるのだとか。今日の演奏は良かったのか、悪かったのか、正直に言うとよく分からない。というのも、指揮者の真後ろで聴くのは何度もあるが、同じ目の高さでオーケストラを聴くのは初めての経験だったからだ。コンサートマスターのグレブ・ニキティンさんとヴィオラ・トップの西村眞紀さんとの距離がわずか1.5メートルしかない。弓が弦をこする音が直接聞こえてくる距離感だ。そしてピットと同じように横長に展開しているオーケストラの音が、左右から生々しく迫ってくる。響く前にナマの音が聞こえてしまうのだ。もちろん音量はマキシマム。オーケストラの中で聴いているような感じで、指揮者はいつもこういう音を聴いているのか、非常に貴重な体験となった。その代わり、かえって演奏全体がよく分からないのである。これでは指揮者なんてできっこないな・・・・。

 終わってみれば午後9時半過ぎ。たっぷり楽しんだ『こうもり』であった。出演者は、日本からはかなりの主演クラスを揃えていたので、歌唱も演技も全体のクオリティは高く、意外に本格派(?)のオペレッタであった。読み替えの新演出については、金沢との2回公演だけなので、細部に至るまで行き届いていたとは言えない部分もあった。この手の試みは、回数を経て修正していくことができれば、もっともっと面白いものになっていくに違いない。わが国のオペラ事情では、2回公演しかできないのが残念である。
 私の率直な感想(単なる思いつき)では、日本を舞台にした物語にするなら、登場人物も全部日本人で、役名も日本人名に変えてしまって、もちろん日本語の歌唱で、くらいにメチャクチャにしてしまっても良かったのではないかなどと、過激なことを考えた。オペラではテキストを変えることは慎まなければならないだろうが、ドタバタ喜劇のオペレッタなら、それもありかな、と。時代を描くとか、社会を映す鏡であるとか、難しい芸術論で描くよりは、すべてを笑い飛ばしてしまうだけの方が楽しくて良いではないか。すべてはシャンペンのせい、一夜限りのうたかたの夢なのだから。

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