Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/13(木)小林沙羅&藤木大地「スプリングコンサート」爽やかさいっぱいの春の歌声

2014年03月16日 02時36分24秒 | クラシックコンサート
音楽堂マチネーコンサート「スプリングコンサート」

2014年3月13日(木)13:00~ 神奈川県立音楽堂 S席 1列 21番 3,000円
ソプラノ: 小林沙羅♥
カウンターテナー:藤木大地♠
室内管弦楽: 新ヴィヴァルディ合奏団★
ピアノ&チェンバロ: 河原忠之
【曲目】
モンテヴェルディ: あなたを見つめ♥♠
グルック: ああ私のやさしい情熱が♠
シューベルト: アヴェ・マリア♠
グリーグ: ソルヴェイグの歌♥
マスカーニ: アヴェ・マリア♥
ロイド・ウェッバー: ビエ・イェズ♥♠
早川正昭:「日本の四季」より「春」/「花」「さくらさくら」「春が来た」★
山田耕筰: からたちの花♥
越谷達之助: 初 恋♠
ヘンデル: 私を泣かせてください♠
ヘンデル:オンブラ・マイ・フ♥
モンテヴェルディ: 西風は戻り♥♠
《アンコール》
 オッフェンバック: ホフマンの舟歌♥♠
 武満 徹: 小さな空♥♠

 昨年から今年にかけて、ふたりの沙羅さんが大活躍だ。ひとりはスキー・ジャンプ女子の高梨沙羅さんで、ワールドカップ今季13勝目、個人総合2連覇の大活躍。ソチ・オリンピックは残念だったが、日本中を虜にしたことは間違いない。
もうひとりは、ソプラノ歌手の小林沙羅さん。2012年にソフィア国立歌劇場の「ジャンニ・スキッキ」でヨーロッパ・オペラ・デビューしてからは、同歌劇場の日本公演ツアーに参加し、全国でラウレッタを歌った。その後、紀尾井ホールでリサイタル・デビューフルートとのデュオ新作オペラ「万葉集」や「KAMIKAZE -神風-」の初演に主役級で参加、「NHKニューイヤーコンサート2013」に出演「ラ・フォル・ジュルネ2013」に参加、オペラでは「ヘンゼルとグレーテル」のグレーテル「こうもり」のアデーレを歌い東京文化会館小ホールで「冬の旅」を全曲日本語歌唱で、そしてついにCDデビュー。今やクラシック音楽界でも「時の人」である。
 そういうわけで昨年来の注目株の「小林」沙羅さんは、最優先で聴きに行くアーティストのひとりに位置づけられることになている。そんな中、どこかの会場でもらったチラシを見たのか、プレイガイドからのお知らせメールで知ったのかは忘れたが、プチ(というよりは完全に)追っかけ対象の小林沙羅さんのコンサートが神奈川県立音楽堂であるということを知った。そのホールで「音楽堂マチネーコンサート」というシリーズがあるらしい。そして発売日に最前列のセンターを確保した次第である。

 実は神奈川県立音楽堂に来るのは初めてであった。どういうわけか、このホールには今まで縁がなかった。従って、雨の降る中、知らない坂道を登って無事着いた時はホッとしたものである。平日の午後なのが幸いした(いったいいつ仕事をしているのやら・・・・)。このホールは何と60年前の1954年に音楽専用ホールとして開館したのだという。座席数1,054席(固定席966席、可動席88席)で、客席フロア全体が階段状になっていて後方に行くに従って高くなっていく。後方の通路からは2階フロアへの出入り口があるという作りだ。壁面が木材でできていて、やさしい響きのホールである。

 今日の「スプリングコンサート」は、ソプラノの小林沙羅さんとカウンターテナーの藤木大地さんによる歌曲のデュオ・コンサートである。藤木さんは、一昨年2012年の第81回日本音楽コンクールの声楽部門で優勝したことで一躍注目を集めた。コンクールの方は聴かなかったが、昨年3月に行われた同コンクールの「受章者発表演奏会」で初めて聴かせていただき今年の「NHKニューイヤーオペラコンサート」にも出演されたので、会場でも聴いている。カウンターテナーというちょっと変わった立ち位置だが、実力派であることは間違いなく、今後もバロック・オペラなどで活躍されていくことだろう。
 そして、演奏は新ヴィヴァルディ合奏団。1979年に指揮者の早川正昭さんを中心に結成された室内合奏団ということだが、第1ヴァイオリン3、第2ヴァイオリン3、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1、という編成で、主要オーケストラの首席級やソリスト級のメンバーで構成されている。いつも定期演奏会でお見かけする顔ぶれもあり、なかなかスゴイメンバーだ。さらに今日のコンサートでは、チェンバロとピアノが河原忠之さん。なんだか凄いことになってきた・・・。

 前置きが大変長くなってしまった・・・・。そろそろ本題へ。
 1曲目はモンテヴェルディの「あなたを見つめ」を沙羅さんと藤木さんのデュオで。伴奏はチェンバロとチェロのみだった。沙羅さんのバロックを聴くのは初めてだ。澄んだ声質なのはいつもの通りだが、強く声を出さずに抑制的に切々と歌うのもよく似合っている。藤木さんの声もバラツキがなく均質で、とても美しい。彼の声域はメゾ・ソプラノくらいに相当するので、ふたりの歌唱は女声二部のような美しいハーモニーを聴かせてくれた。

 2曲目は藤木さんのソロで、グルックの「ああ私のやさしい情熱が」。ここから伴奏は新ヴィヴァルディ合奏団と河原さんの全員が揃う。藤木さんはソロになると、やや強めに押し出してきた。メゾの声域で男声の力強い歌唱は、聴き慣れないと異質な感じがしてしまうが、藤木さんを聴くのも3度目なので、こちらも慣れてきた。そうなると、細やかなニュアンスの表現も含めて、数々の実績が物語るように、実力は一級品である。

 3曲目も藤木さんのソロで、有名なシューベルトの「アヴェ・マリア」。目をつぶって聴いていれば、メゾにしか聞こえないが、やはり背景にある力感が滲み出てきて、女声との違いを見せつける。

 4曲目は沙羅さんのソロで、グリーグの「ソルヴェイグの歌」。有名な『ペールギュント』の中の1曲である。恋人ソルヴェイグが切々と歌う悲しい恋歌だ。沙羅さんの歌唱はバロックとはまた全然違った趣となり、歌曲というよりはオペラのアリアに近づいた印象で、ロマン派的な感情表現の表出と、声の立ち上げ方が伸びやかで素敵だ。1,000名のホールではそれほど大きな声を出さなくても良いので、無理がない分、声のゆとりがあって、高音部も十分に伸びていたし、透明感がいっそう際立っていた。

 5曲目はマスカーニの「アヴェ・マリア」。歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』の有名な間奏曲に歌詞がつけられた演奏会用歌曲である。オペラの方は過激な要素のあるシリアスなヴェリズモだが、間奏曲はガラリと様相が変わってひたすら美しい。沙羅さんの歌唱は完全にイタリア・オペラのアリア風になり、息の長い旋律が澄んだ声によって伸びやかに歌われていく。切々とした表現の中にも芯の強さがあり、訴求力の強い歌唱であった。

 前半の最後はデュオで、ロイド・ウェッバーの「ビエ・イェズ」。アンドリュー・ロイド・ウェッバーは『オペラ座の怪人』や『ジーザス・クライスト・スーバースター』をはじめとするミュージカルの作曲者として名高い。この曲は「レクイエム」の中の1曲で、キリスト教の祈りの曲。オリジナルはソプラノとボーイ・ソプラノのデュオということだ。沙羅さんと藤木さんの歌唱はことのほかハーモニーが美しく響き、その清冽な歌声には心が洗われるようであった。ただ歌が上手いだけでは、このように心に沁みてくるような表現はできないであろう。素敵な歌唱であった。

 後半は、まず早川正昭さんの作曲による「日本の四季」より「春」が、新ヴィヴァルディ合奏団により演奏された。これは大変素敵な曲で、ヴィヴァルディの「四季」を模したようなバロック調の合奏曲で、急-緩-急の3つの楽章からなっている。それぞれの楽章には「花」「さくらさくら」「春が来た」という日本の代表的な「春」をテーマにした曲の主題が盛り込まれている。今日が雨でなかったら・・・・。4月の初めの桜のシーズンに聴いたら、雰囲気満点の曲である。演奏も、軽やかで春爛漫の音色であった。

 後半の2曲目は、沙羅さんのソロで山田耕筰の「からたちの花」。日本の歌曲ではリサイタルなどで頻繁に採り上げられる曲である。ソプラノさんが歌う時は、高音部の透明感が状況的な雰囲気を、心情表現を描き出すものだが、もちろん今日の沙羅さんは素晴らしい。

 続いては藤木さんのソロで、越谷達之助の「初恋」。この曲の日本人歌手のリサイタルでよく歌われるが、これまでに聴いた極めつけは、デジレ・ランカトーレさんがリサイタルのアンコールで歌ってくれたもの。ゆったりしたテンポのカウンターテナーで聴く「初恋」もまた、印象に残るものには違いない。

 続いて藤木さんのソロでヘンデルの「私を泣かせてください」。歌劇『リナルド』の中のアリアで、「涙の流れるままに」という標題でも知られているる。こちらもソプラノのレパートリーとしての定番だが、今日はカウンターテナーだ。切々と哀しみを歌うのにも、力強さが感じられるのは男声ならではの雰囲気である。

 次は沙羅さんのソロで、ヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」。こちらは歌劇『セルセ』の中でセルセ王が歌うアリアであるが、オペラの上演はほとんどなく、このアリアだけが現在ではソプラノの定番となっている。本来は男性の役なので、カストラートの歌手が歌うこともあったらしい。むしろこちらの曲を藤木さんが歌った方が面白かったのでは・・・・、などと思った。とはいえ、沙羅さんの素直な歌声は、この曲にもよく似合っている。高音もキレイに伸びていた。

 後半の最後はデュオで、モンテヴェルディの「西風は戻り」。プログラム・ノートによれば、この曲は「マドリガーレ」と呼ばれる当時の世俗的な歌曲で、モンテヴェルディは沢山のヒット曲を作ったのだという。確かに庶民的な感じのする楽しげな舞曲風で、ふたりの掛け合いのような歌唱が会話をしているような活き活きとしたものだった。珍しい曲を聴かせていただき、とても嬉しかった。Bravi!!

 アンコールは2曲。まず二人がステージから下がったところで合奏団が演奏を始めたので、何かと思ったらオッフェンバックの「ホフマンの舟歌」であった。なるほど、ソプラノとメゾ・ソプラノのデュオの名曲だ。再登場したふたりのハーモニーの美しさは格別で、もともとよく響き合う声質なのか、それとも二人の歌唱技術が上手いのか、とにかく素敵である。
 最後はまた意外なことに武満 徹の「小さな空」。歌詞の1番は藤木さんが、2番は転調して沙羅さんが、3番はデュオでまた美しいハーモニーを聴かせてくれた。

 終わってみれば、全曲を通してとても爽やかな印象を残したコンサートであった。お二人のキャラクタによるところもその理由だと思うし、また選曲も良かったように思う。このような素敵なコンサートが横浜で平日のマチネーという、普段の私たちが聴きに行くにはちょっと難しい形態で開催されたのが惜しい(事実、空席が多かった)。企画も演奏も素晴らしいものだったので、聴くことができた私は良かったのだが・・・・・。


 終演後は、沙羅さんのCDデビューに伴うサイン会。正式なサイン会は今回が初めてだ。新譜のCDは「La musica dei fiori(花のしらべ)」というタイトルで、東西の花にまつわる曲を集めたもの。普通盤とブックレット(写真集)と特典CD付きの初回限定盤の2種類が発売されたばかりだ。ちょっと高かったけれど限定版の方を購入してジャケットにサインをいただいた。また、昨年の「ラ・フォル・ジュルネ2013」に出演されたときの写真をプレゼントし、ついでにサインもいただいた。最初は写真はNGのサイン会であったが、・・・・お願いして、最後は撮影会みたいになってしまった。ファンの方々との交流する様子も、気さくで、礼儀正しくて、とても爽やかな印象を残すことになった。
 この後、沙羅さんの活躍の場は続く。3月28日には紀尾井ホールでリサイタルがある。7月26日にはフィリアホールでギターの荘村清志さんとのデュオ・リサイタルがある(昨年の「ラ・フォル・ジュルネ2013」と同様)。まだまだ目がはなせない・・・・。

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