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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/29(土)東京交響楽団/第618回定期演奏会/スダーンの有終の美を飾るシューベルトとオピッツとの「皇帝」

2014年04月04日 00時27分43秒 | クラシックコンサート
東京交響楽団 第618回定期演奏会

2014年3月29日(土)18:00~ サントリーホール B席 1階 1列 21番 3,500円
指 揮: ユベール・スダーン
ピアノ: ゲルハルト・オピッツ
管弦楽: 東京交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
シューベルト: 交響曲 第2番 変ロ長調 D.125
《アンコール》
 シューベルト:『キプロスの女王ロザムンデ』から第3幕 間奏曲

 突然友人に誘われて、予定していなかった東京交響楽団の定期演奏会を聴くことになった。
 東響は、今月1日にミューザ川崎シンフォニーホールでの「名曲全集 第95回」をイレギュラーで聴いたが、会員になっている「オペラシティシリーズ」は他のコンサートと重なったために今月はパスしてしまった。今月は年間シーズンの最終月にあたるため、今期限りで10年にわたって務めた音楽監督を勇退されるユベール・スダーンさんの最終公演が、今日の「第618回 定期演奏会」と明日の「川崎定期演奏会 第44回」ということになる。音楽監督して最後に選んだプログラムは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」とシューベルトの交響曲第2番という、スダーンさんならではのものであった。

 プログラムの前半はゲルハルト・オピッツさんを招いてのベートーヴェンの「皇帝」。オピッツさんは、昨年2013年11月にも来日され、読売日本交響楽団に客演してブラームスのピアノ協奏曲第1番を演奏したのを聴いている
 今日の席は最前列のセンター。ビアノの真下である。協奏曲好きの私は最前列のソリスト正面がお気に入り席ではあるが、ピアノ協奏曲の時は、実際に音質を考慮するなら読響の時のように3列目くらいまでは下がった方が良い。ピアノの底部から出る雑味のある音が強く聞こえてしまうし、リサイタルよりも大きな音を出すので、さらに強調されてしまうからだ。とはいえ、与えられた席から動くわけにはいかないので、まあ、いつものことながら、最前列で豪快なピアノの音を体感しよう。
 オピッツさんのピアノは、ドイツの伝統を受け継ぐ正統派と呼ばれるだけあって、自信と確信に満ちた「皇帝」であった。初めのカデンツァから、重厚で揺るぎない構造感を打ち出してくる。協奏曲なので打鍵は強めだが、決して派手なパフォーマンスにはせずに、抑制的ではある。かといって内にこもっているわけでもなく、「皇帝」らしい躍動感や推進力もある。ピアノの真下で聴いているので、金属音が強く、ここでは判断しにくいが、おそらく少し離れた席で聴いていれば、やや渋めに音色でガッチリとした構造の音楽が展開されていたことは想像に難くない。
 第1楽章は、東響の緻密なアンサンブルの上に、ゆったりとしたテンポでスダーンさんが主題提示部を堂々たる風情で築いていく。オピッツさんのピアノが加わると、明瞭でありながら微妙な陰影を帯びたピアノと響きを十分に効かせたオーケストラが対話していく。二人の音楽作りは、派手さはないが、巨匠同士の創り出す風格というか、多くは語らないけれども、「聴けば分かるでしょ」といわんばかりの堂々としたもの。
 第2楽章は、オーケストラの主部が美しいアンサンブルを聴かせ、その悠然とした佇まいは、スダーンさんならではの抑制されたロマンティシズムといったところか。ピアノも淡々としていながら、細やかな抑揚が、若手のピアニストとは違った落ち着いたロマンを紡いで行く。ピアノがふと途切れたときの、オーケストラの柔らかなアンサンブルが泣かせること。
 第3楽章は、意外と骨太なピアノが主題を力強く押し出すと、オーケストラが呼応して躍動的に押し返して来る。とはいっても、スダーンさんはオーケストラを十分に響かせる。キレ味は鈍く感じるかもしれないが、豊かな響きと独特の柔らかいタッチで、ウィーン風にも似た豊潤な音色だ。オピッツさんの暖色系の音色といい、何とも「本格派」といえるような「皇帝」であった。

 後半は、シューベルトの交響曲第2番。会場で友人たちと話していたのは、「2番なんて聴いたことがないなァ」という話題。たしかに珍しい。シューベルトの交響曲ツィクルスでもやらない限り、あまり一般のコンサートのプログラムでお目にかかることはないだろう。第2番は作曲された年代が1814年~1815年頃とされている。シューベルトが17~18歳頃の作品ということになる。同時代のウィーンでは、ベートーヴェンが交響曲第7番・第8番を初演している。ふたりはこの時期にはまだ知り合っていないとしても、ベートーヴェンの音楽に影響を受けたと考えるのは自然なことだ。作風は古典的な形式を踏襲していて、後期の「未完成」や「ザ・グレイト」などに見られるようなシューベルトの個性はあまり明瞭になっていないと言われている。公式な初演は、死後だいぶ時を経て1877年にロンドンで行われた。
 第1楽章は、比較的長い序奏を経て、提示部が軽快な第1主題で始まる。主題の音型がしつこく繰り返されていくのは、シューベルトらしさが既に現れていると思う。ヴァイオリンによる第2主題を経て、主題提示が繰り返されるため、かなり長くなる。スダーンさんの演奏は、さすがに得意の分野だけに、非常に活き活きとしていて、瑞々しい。東響の演奏も、本来の濁りのない音色がよく似合っていて、しなやかで柔らかい演奏で、ウィーンの古典的な雰囲気をうまく出していた。第1主題による短い展開部を経て再現部、コーダも第1主題が使われているので、この第1主題が耳について離れなくなる。
 第2楽章は緩徐楽章で変奏曲形式。こちらも主題をはじめ古典的な雰囲気である。スダーンさんの演奏は、テンポはやや早めに採り、曲をだらけさせないように緊張感をもたらしていた。東響の演奏は弦楽も美しいし、木管群のクオリティが高く、素晴らしい。
 第3楽章はメヌエット。アレグロ・ヴィヴァーチェのハ短調で書かれているので、イメージ的にはスケルツォに近い。三分形式のトリオ部分は長調に転じて、逆にメヌエットらしい優雅な曲想になる。
 第4楽章は躍動的な主題で軽快に始まるソナタ形式。最初の主題提示をコンサートマスターのグレブ・ニキティンさんのヴァイオリンのソロで演奏したのは、スダーン流らしい。タンタカ・タンタカと繰り返されるリズムが特徴的で、弱奏の部分と強奏が交互に出てくるのが、演奏上も明瞭なメリハリとなっていた。曲全体が第1主題の繰り返しと同じリズム型でできているので、いささかしつこく感じるのは、いかにもシューベルトらしいと思うのだが・・・・。ただ、そのような曲を緊張感を保ちながら、適度のメリハリを効かせて飽きさせずに聴かせるのは、スダーンさんの妙技である。メリハリを効かせながらも、優雅さを失わない柔らかな演奏は、なかなか見事なものであった。

 アンコールは予想していた通り『ロザムンデ』の間奏曲だった。ところが、この日に先立つこと3月26日の早朝、東響のチェロ奏者、井伊 準(いい ひとし)さんが、27歳の若さで急逝されたとの説明が、スダーンさんによって語られた。アンコールは井伊さんへの追悼となった。出だしの主題をニキティンさんのヴァイオリンのソロが弾き、弦楽が合わさって厚みが増してくる。この曲がこれほど悲しげに聞こえたことはなかった。慎んでご冥福をお祈りいたします。

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