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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/22(木)東京フィル/佐渡 裕 指揮「第九特別演奏会」/熱い指揮が生み出す濃厚な音色と劇的な演奏

2011年12月24日 03時10分40秒 | クラシックコンサート
創立100周年 東京フィルハーモニー交響楽団
佐渡 裕 指揮 ベートーヴェン「第九」特別演奏会


2011年12月22日(木)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 3列 15番(最前列) 9,000円(会員割引)
指 揮: 佐渡 裕
ソプラノ: 横山恵子
アルト: 谷口睦美
テノール: 西村 悟
バリトン: 甲斐栄次郎
合 唱: 東京オペラシンガーズ
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン: 交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」

 年末恒例の「第九」のラッシュもすでに佳境に入っている時期になるが、私は今年はじめての「第九」である。最近お気に入りの東京フィルハーモニー交響楽団のことしの「第九特別演奏会」は、佐渡 裕さんを招いて、東京近郊で7回開催される。毎日のように会場を変えての演奏会は、指揮者や4名のソリストだけでなく、オーケストラや合唱団も大変なことだと思う。ちなみに今日の東京フィルは東京オペラシティコンサートホールだが、同日同時刻、サントリーホールでは日本フィルハーモニー交響楽団が、NHKホールではNHK交響楽団が、それぞれ第九演奏会を行っている。このような状況が年内いっぱい続くのだ。それだけ多くの第九演奏会が開かれているにもかかわらず、今日の東京フィルのコンサートも完売、東京オペラシティコンサートホールも見事にいっぱい入っていた。佐渡さんの人気もあるのかもしれないが、それにしても日本人は第九が大好きだ。別に悪いことではない。私もその一人なので…。

 さて今日は、せっかく佐渡裕さんの指揮できけるので、何と最前列、指揮者のすぐ後ろの席を取っておいた。オペラシティはステージが低いので、最前列でもそれほど見上げるようにはならない。むしろ、ステージも客席も平らなので、音響の一番良いとされる真ん中付近の席でもステージが見やすくはない。だからいつも通りに前の方、しかも最前列ならば、とりあえず指揮者もコンサートマスターも目の前だし、音よりも視覚を優先させてしまった。ところが第九の場合は、4名のソリストが、多くの場合はオーケストラと合唱団の間に位置する。さすがに最前列からだと良くは見えなかったのが残念といえば残念だった。
 東京フィルのWebサイトでスケジュールを見ると、12月25日のサントリーホールでの第九演奏会で今年のコンサートは終了になっている。最後のお仕事ということで、ソロ・コンサートマスターの荒井英治さんをはじめとして精鋭揃いの編成だった。また、合唱の東京オペラシンガーズは声楽家たちのプロ集団。今日も人数は少ないものの、圧倒的な声量とキレの鋭いハーモニーを聴かせてくれた。


こんな感じで熱演。汗が飛んでこなかったのは残念だったが…。

 合唱団が入場、オーケストラが続き、チューニングが終わると、ちょっとスマートに引き締まった(?)佐渡さんが登場、颯爽と指揮台に登った。会場が静まり緊張感が高まるのを待って、第1楽章が始まる。やや遅めのテンポで、動機から第1主題が提示されて行く。地響きするような、それでいて重々しくなりすぎずに、押し出しの強い演奏である。遅めとはいえ、ほとんどイン・テンポのまま、一音一音の強弱による抑揚で旋律を命を吹き込んで行く。ダイナミックレンジを広く採った演奏スタイルと東京フィルの濃厚な音色が合わさって、重厚だが推進力が漲り、描かれる苦悩の中にもひたむきさが感じられて、なかなか素晴らしい演奏だ。

 第2楽章のスケルツォは、何といってもリズム感が良かった。ここでもイン・テンポが活きていて、流れが途切れないために推進力が出てくる。トリオ部分では、ホルンやオーボエがリズムにうまく乗って、なかなか素敵な味わいだった。
 第2楽章が終わると、4名のソリストが入場してくる。

 緩徐楽章の第3楽章になると、佐渡さんは指揮棒を置いて、両手の手のひらを使って、オーケストラから柔らかい旋律美を引き出している。永遠に続くかのような、夢見心地のような美しい旋律を、各楽器がまろやかな音色で演奏して行く。しかも、ゆったりした「遅さ」の中でもアンサンブルがしっかりしているので、聴いていて心地よかった。

 そしていよいよ第4楽章。怒濤のような推進力で力強く始まる。第1~3楽章を振り返って、独唱の登場となる。バリトンの甲斐栄次郎さんは、ウィーンで活躍するだけあってキレイなドイツ語の発音で、立ち上がりの鋭い声。力のある声質だ。ちょうど佐渡さんの股の間から甲斐さんの顔だけが見えた。見えるのだから、声は直接届いているわけだ。テノールの西村 悟さんは、やや硬質の声で、軽くならずに、むしろ力強い歌唱を聴かせてくれた。西村さんはつい先日の第80回日本音楽コンクールで第1位になったばかり。ベテランの甲斐さんにも負けていなかった。西村さんもちょうど良く顔が見える位置だったので、声がよく通ってきていた。逆に、ソプラノの横山恵子さんとアルトの谷口睦美さんはオーケストラの奏者たちに隠れてしまっている状態。従って「声はすれども姿は見えず」で、声もくぐもりがちでやや聴き取りにくい感じになってしまった。
 合唱の東京オペラシンガーズは、少人数ながら圧倒的な声量で、ppからffまでのダイナミックレンジが広く、アンサンブル(ハーモニー)が正確。鋭い印象の合唱であった。オーケストラとの音量バランスもピッタリとコントロールされていて、見事だった。女声陣がやや弱く感じられたのが唯一残念だったが、これは4列に展開した合唱団が前2列に女性を配置したため、オーケストラに遮られる格好になってしまったからだと思われる。もっと後ろの方の席で聴いていればおそらく完璧だったのではないだろうか。

 オーケストラの方も、ヴァイオリンだけのppの部分から全合奏のffまで、終始素晴らしい演奏を聴かせてくれた。見事なアンサンブルを聴かせた弦楽5部。中でも主席の須田祥子さんの率いるヴィオラが人肌を感じさせる暖かい音色で、厚みのある弦楽に潤いを与えていたように思う。管楽器群も全体に潤いがある音色で、豊かな色彩感を描き出していた。とくに要所でホルンが良い音色を聴かせていた。全体に硬さがなく、濃厚な音色の東京フィルらしい演奏だったとは思うが、そこからさらに一層の表現力の豊かさを引き出していたのは、やはり佐渡さんの手腕なのだろう。
 基本的にはイン・テンポをベースに、個々の旋律、個々の楽器に強弱による抑揚を持たせることによって、一本調子にならなとどころか、音楽自体が豊かに歌っているように聞こえた。第1楽章と第4楽章は、やや遅めのテンポで、安定感のある流れを構築しながら、要所要所をダイナミックに仕上げて行く。全合奏+合唱のクライマックスでは爆発的なエネルギーを感じさせる熱演。佐渡さんの「熱い演奏」は、人によっては好みの違いもあるかもしれないが、少なくとも今日の演奏を聴く限り、とても素晴らしい第九だったことは確かで、東京オペラシティコンサートホールに来られた1500人以上の聴衆を魅了したことは間違いない。

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