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松山冴花&津田裕也 デュオ・リサイタル
~午後のうるおいコンサート~
2013年2月20日(水)14:00~ グリーホール相模大野・大ホール 指定 1階 1列 27番 1,000円
ヴァイオリン: 松山冴花
ピアノ: 津田裕也
【曲目】
ストラヴィンスキー: イタリア組曲
武満徹: 妖精の距離
チャイコフスキー: なつかしい土地の思い出 作品42
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78「雨の歌」
マスネ: タイスの瞑想曲
パガニーニ/クライスラー編: ラ・カンパネラ
サン=サーンス: 序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
《アンコール》
アルベニス/クライスラー編: タンゴ
グラナドス: スペイン舞曲集より
サラサーテ: 序奏とタランテッラ 作品43
お馴染みの松山冴花さんと津田裕也さんのデュオ・リサイタルだが、ちょっと久しぶりの感じがしたので、過去を振り返ってみたら、最後に聴いたのは2011年11月の津田ホールでのことだった。およそ15ヵ月ぶりになる。このお二人によるデュオは、自由奔放な松山さんのヴァイオリンと律儀な津田さんのピアノの駆け引きが面白く、お互いの長所を引き出し合って、ライブの楽しさを伝えてくれる。どんな曲でも魅力いっぱいに描かれるので、最強のデュオだと思っている。
ということで、平日マチネーの地方公演まで追いかけてきてしまった。相模原市に来るのは35年ぶりくらいだが、昔の面影はなく、今や政令指定都市へと変貌し、小田急線相模大野の駅にも大きなショッピングモールがあり、駅前には伊勢丹(これが後で話題になる)、その中を抜けると「グリーホール相模大野」がある。どこの自治体にもある、クラシック音楽の演奏会もできる多目的ホールで、大ホールは2階席を含めて1790席と、かなり立派なホールである。もちろん来るのは初めてだ。
今日のコンサートの主催は、公益財団法人相模原市民文化財団。それにしても、全指定席で1,000円というお値段には驚きだ。往復交通費の方がよっぽど高かった。でもこのお二人のデュオ・リサイタルを1,000円で聴けるのなら、遠くまで足を伸ばす価値もあろうというものだ。リサイタルの内容は名曲中心のものとはいえ、2時間を超える本格的なプログラムである。
自治体主催のコンサートはあまり宣伝もされないし、東京でチラシが配られることもないので、なかなか知る機会がないのだが、このコンサートに関しては、「ぴあ」からのお知らせで知った。平日のこともあり来られるかどうかは分からなかったが、発売日にアクセスしたら、何と最前列の真正面がヒットしてしまった。わずか1,000円だったのでとりあえず買っておいた、というのが真相である。しかしこの席が取れてしまった以上、万難を排して聴きに来る、という選択肢以外はなくなってしまった。
さて1曲目はストラヴィンスキーの「イタリア組曲」。最近ちょっと流行っているらしく、多くのヴァイオリニストがリサイタルで採り上げているような気がする。バレエ音楽『プルチネルラ』からの編曲で、新古典主義時代の1933年の作。美しく明快な旋律と和声に彩られた古典的風合いの舞曲を中心とした6曲の組曲。とても素敵な曲である。
いきなり松山節炸裂…かと思ったら、何となくいつもと雰囲気が違う。松山さん特有の豊かな音量が出ていないように聞こえる。大体いつもと同じ最前列で聴いているので、違いがよく分かるのである。理由は、演奏の方ではなく、ホールのせいのようだ。オーケストラが余裕でおさまる大きなステージと、反響板に囲われた上方にひろがる大きな空間に音が拡散してしまっている。音響も良くないようだ、
演奏自体は、豊かな表情に彩られ、フレーズごとに独特のリズム感で旋律を歌わせる松山節である。音が十分に響かないもどかしさからか、最初の方は強めに弾いていたように感じられたが、途中からはマイペースに戻ったようだ。音は響かなくても、表現力の豊かさには変わりはない。
2曲目は思い切った選曲(?)で、武満 徹の「妖精の距離」。ヴァイオリン曲の少ない武満だが、瀧口修造の同名詩『妖精の距離』に着想を得て作曲されたもの。ピアノが弾く不協和音が意外にも美しく幻想的な響きを持ち、調性の定まらないヴァイオリンの旋律が夢の中を彷徨うように流れる。考えてみれば、松山さんの現代曲はあまり聴いたことがなかったようだが、どのような旋律であっても、質感の高い音色と、歌うようなフレージングで描かれれば、音楽自体は分かりやすくなるというものだ。
3曲目はチャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」。3曲の組曲だが、第3曲の「メロディ」はとくに有名だ。甘く感傷的な旋律を、松山さんは濃厚な音色で思い入れたっぷりに描いていくが、感傷に浸りすぎない大らかさがあり、曲を骨太なものにしていく。第2曲の「スケルツォ」は立ち上がりの明瞭なボウイングで激しいリズムを刻むが、中間部のロマンティックな旋律は踊るような、回るようなリズム感が瑞々しい。「メロディ」は感性の趣くままにテンポが自由に揺れる。津田さんのピアノが寄り添うようにフォローしていった。
後半はブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第1番」から。いわゆる「雨の歌」である。
第1楽章は、比較的ゆっくりした序奏でスケール感豊かに始まった。内省的な「陰」を持つ第1主題を暗くならないような色彩感で演奏し、軽やかに流れるような大らかさで歌う第2主題はいかにも松山さんらしい。バックに津田さんの重厚なピアノがしっかりと土台を築いていて安定感があるからこそ、ヴァイオリンが大らかに歌えるのだ。ヒラメキに溢れるようなヴァイオリンとピアノの対話も、このお二人ならでは。煌めくような瞬間の連続なのに、しっかりと計算されたような構造感を持っている。
第2楽章は緩徐楽章。津田さんの重厚にして抒情的な序奏が美しく、そこに松山さんのヴァイオリンが官能的に被さってくる。悲しげではあっても寂しげに感じられないのは、豊潤で濃厚な音色のためだろうか。中間部の美しさと抒情性は、松山さんの表現力が、実はかなり繊細なニュアンスを持っているからだ。とくにこの楽章では、重音が濃厚な美しさを描き出していた。
「雨の歌」という呼び名の元になる旋律を主題とするロンドの第3楽章。元が歌曲だけに歌謡的な単旋律と伴奏的なピアノのロンド主題に対して、その他の部分が器楽的に雄弁になり、面白い対比を描き出す。津田さんのピアノはその気になるとかなり雄弁で、特折り、強く前面に押し出てくる。そのタイミングが松山さんの隙をうかがっているようで、またスリリングでもあった。
次はマスネの「タイスの瞑想曲」。限りなく甘く切ないこの名曲は、あまり松山さんのイメージに合うとは思えないが(失礼)、聴いてみればやはり松山節。ゆったりと抒情的に歌うヴァイオリンは、思い入れたっぷりにテンポを揺らせていく。後を引くようなヴィブラートが美しい。ぴったりと寄り添うように付いていく津田さんのピアノがあればこその、美しい演奏であった。
続いて、パガニーニ/クライスラー編の「ラ・カンパネラ」。時代は異なるとはいえ、何しろパガニーニとクライスラーの共作だから、超絶技巧の展覧会のような曲である。そんな曲を正確無比の技巧でサラリと弾きこなす辺りは、松山さんの本領発揮である。彼女の技巧は昔から折り紙付きなのだが、普段はそれょ感じさせないくらいに、表現力の豊かさが勝っているからなのである。
最後は、サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」。この曲はサラサーテに献呈されている(またまたヴァイオリンのビッグ・ネームが登場した)。やはり超絶技巧曲である。立ち上がりが鋭いのに音が豊かで尖っていない松山さんのヴァイオリンでこの曲を弾くと、曲全体がふっくらと膨らんだ柔らかさに包まれたように聞こえる。超絶技巧に頼っていると、攻撃的になってしまいかねない曲なので、本来の「カプリチオーソ」らしく、自由度が高く振れ幅の大きい松山さんの演奏は、この曲の本質を捉えた素晴らしい演奏だといえそうだ。
アンコールは3曲続けて、どういう訳か、スペイン系でまとめた。アルベニス/クライスラー編の「タンゴ」は、異国情緒に溢れるロマンティックな曲。やはり舞曲のリズム感は松山さんが得意とするところらしく、踊り出したくなるような楽しさがある。2曲目はグラナドスの「スペイン舞曲集」より。この曲については詳細不明だ。3曲目は、サラサーテの「序奏とタランテッラ」。美しくロマンティックな序奏と超絶技巧の「タランテッラ」の対比がスゴイ曲だ。そいう意味では、松山さんの持つ様々な要素を余すところなく表現できる小品かもしれない。圧倒的な存在感を見せつけるような演奏であった。Brava!!
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ところで今日のリサイタルでは、前半の1曲目の後と、後半もブラームスの後に、マイクを取り出して、お二人のトークがあった。といってもほとんど喋っているのは松山さんで、前半ではニューヨークでのご主人との暮らしぶりを関西弁でニコニコ笑いながら愚痴る愚痴る。後半では楽屋に用意されていたお弁当を食べずに、隣の伊勢丹のデパ地下でいっぱい試食してきた話で会場を盛り上げる。ご当地ウケのネタでトークも上手い。…結局音楽の話はほとんどなく、真面目な津田さんは毒気に当てられっぱなしであった。松山さんが伊勢丹で試食しまくっている間も津田さんは練習していたとか。このお二人のキャラクターの違いがうまく噛み合って、あの素晴らしい演奏を生み出すのかと思うと、つくづく音楽の奥の深さを感じるのである。
終演後は恒例のサイン会。私と同様に平日マチネーにもかかわらず駆け付けた友人のYさんも、松山さんとはすっかりお馴染みなので、例によって記念写真を撮ったりして、楽しい一時を。今日は津田さんにもサインをいただき、お二人のツーショットもお願いして撮らせていただいた。松山さんのサイン入りの写真は、先月の東京ヴィヴァルディ合奏団の演奏会(2013年1月、第一生命ホール)の時のもの。偶然、今日と同じお衣装であったが、日付は今日になっている。Feb.20.13とさりげなく書いてしまうのは、アメリカ生活が長いからだろう。何しろジュリアードに17年間も通っていたそうだから…。
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~午後のうるおいコンサート~
2013年2月20日(水)14:00~ グリーホール相模大野・大ホール 指定 1階 1列 27番 1,000円
ヴァイオリン: 松山冴花
ピアノ: 津田裕也
【曲目】
ストラヴィンスキー: イタリア組曲
武満徹: 妖精の距離
チャイコフスキー: なつかしい土地の思い出 作品42
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78「雨の歌」
マスネ: タイスの瞑想曲
パガニーニ/クライスラー編: ラ・カンパネラ
サン=サーンス: 序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
《アンコール》
アルベニス/クライスラー編: タンゴ
グラナドス: スペイン舞曲集より
サラサーテ: 序奏とタランテッラ 作品43
お馴染みの松山冴花さんと津田裕也さんのデュオ・リサイタルだが、ちょっと久しぶりの感じがしたので、過去を振り返ってみたら、最後に聴いたのは2011年11月の津田ホールでのことだった。およそ15ヵ月ぶりになる。このお二人によるデュオは、自由奔放な松山さんのヴァイオリンと律儀な津田さんのピアノの駆け引きが面白く、お互いの長所を引き出し合って、ライブの楽しさを伝えてくれる。どんな曲でも魅力いっぱいに描かれるので、最強のデュオだと思っている。
ということで、平日マチネーの地方公演まで追いかけてきてしまった。相模原市に来るのは35年ぶりくらいだが、昔の面影はなく、今や政令指定都市へと変貌し、小田急線相模大野の駅にも大きなショッピングモールがあり、駅前には伊勢丹(これが後で話題になる)、その中を抜けると「グリーホール相模大野」がある。どこの自治体にもある、クラシック音楽の演奏会もできる多目的ホールで、大ホールは2階席を含めて1790席と、かなり立派なホールである。もちろん来るのは初めてだ。
今日のコンサートの主催は、公益財団法人相模原市民文化財団。それにしても、全指定席で1,000円というお値段には驚きだ。往復交通費の方がよっぽど高かった。でもこのお二人のデュオ・リサイタルを1,000円で聴けるのなら、遠くまで足を伸ばす価値もあろうというものだ。リサイタルの内容は名曲中心のものとはいえ、2時間を超える本格的なプログラムである。
自治体主催のコンサートはあまり宣伝もされないし、東京でチラシが配られることもないので、なかなか知る機会がないのだが、このコンサートに関しては、「ぴあ」からのお知らせで知った。平日のこともあり来られるかどうかは分からなかったが、発売日にアクセスしたら、何と最前列の真正面がヒットしてしまった。わずか1,000円だったのでとりあえず買っておいた、というのが真相である。しかしこの席が取れてしまった以上、万難を排して聴きに来る、という選択肢以外はなくなってしまった。
さて1曲目はストラヴィンスキーの「イタリア組曲」。最近ちょっと流行っているらしく、多くのヴァイオリニストがリサイタルで採り上げているような気がする。バレエ音楽『プルチネルラ』からの編曲で、新古典主義時代の1933年の作。美しく明快な旋律と和声に彩られた古典的風合いの舞曲を中心とした6曲の組曲。とても素敵な曲である。
いきなり松山節炸裂…かと思ったら、何となくいつもと雰囲気が違う。松山さん特有の豊かな音量が出ていないように聞こえる。大体いつもと同じ最前列で聴いているので、違いがよく分かるのである。理由は、演奏の方ではなく、ホールのせいのようだ。オーケストラが余裕でおさまる大きなステージと、反響板に囲われた上方にひろがる大きな空間に音が拡散してしまっている。音響も良くないようだ、
演奏自体は、豊かな表情に彩られ、フレーズごとに独特のリズム感で旋律を歌わせる松山節である。音が十分に響かないもどかしさからか、最初の方は強めに弾いていたように感じられたが、途中からはマイペースに戻ったようだ。音は響かなくても、表現力の豊かさには変わりはない。
2曲目は思い切った選曲(?)で、武満 徹の「妖精の距離」。ヴァイオリン曲の少ない武満だが、瀧口修造の同名詩『妖精の距離』に着想を得て作曲されたもの。ピアノが弾く不協和音が意外にも美しく幻想的な響きを持ち、調性の定まらないヴァイオリンの旋律が夢の中を彷徨うように流れる。考えてみれば、松山さんの現代曲はあまり聴いたことがなかったようだが、どのような旋律であっても、質感の高い音色と、歌うようなフレージングで描かれれば、音楽自体は分かりやすくなるというものだ。
3曲目はチャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」。3曲の組曲だが、第3曲の「メロディ」はとくに有名だ。甘く感傷的な旋律を、松山さんは濃厚な音色で思い入れたっぷりに描いていくが、感傷に浸りすぎない大らかさがあり、曲を骨太なものにしていく。第2曲の「スケルツォ」は立ち上がりの明瞭なボウイングで激しいリズムを刻むが、中間部のロマンティックな旋律は踊るような、回るようなリズム感が瑞々しい。「メロディ」は感性の趣くままにテンポが自由に揺れる。津田さんのピアノが寄り添うようにフォローしていった。
後半はブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第1番」から。いわゆる「雨の歌」である。
第1楽章は、比較的ゆっくりした序奏でスケール感豊かに始まった。内省的な「陰」を持つ第1主題を暗くならないような色彩感で演奏し、軽やかに流れるような大らかさで歌う第2主題はいかにも松山さんらしい。バックに津田さんの重厚なピアノがしっかりと土台を築いていて安定感があるからこそ、ヴァイオリンが大らかに歌えるのだ。ヒラメキに溢れるようなヴァイオリンとピアノの対話も、このお二人ならでは。煌めくような瞬間の連続なのに、しっかりと計算されたような構造感を持っている。
第2楽章は緩徐楽章。津田さんの重厚にして抒情的な序奏が美しく、そこに松山さんのヴァイオリンが官能的に被さってくる。悲しげではあっても寂しげに感じられないのは、豊潤で濃厚な音色のためだろうか。中間部の美しさと抒情性は、松山さんの表現力が、実はかなり繊細なニュアンスを持っているからだ。とくにこの楽章では、重音が濃厚な美しさを描き出していた。
「雨の歌」という呼び名の元になる旋律を主題とするロンドの第3楽章。元が歌曲だけに歌謡的な単旋律と伴奏的なピアノのロンド主題に対して、その他の部分が器楽的に雄弁になり、面白い対比を描き出す。津田さんのピアノはその気になるとかなり雄弁で、特折り、強く前面に押し出てくる。そのタイミングが松山さんの隙をうかがっているようで、またスリリングでもあった。
次はマスネの「タイスの瞑想曲」。限りなく甘く切ないこの名曲は、あまり松山さんのイメージに合うとは思えないが(失礼)、聴いてみればやはり松山節。ゆったりと抒情的に歌うヴァイオリンは、思い入れたっぷりにテンポを揺らせていく。後を引くようなヴィブラートが美しい。ぴったりと寄り添うように付いていく津田さんのピアノがあればこその、美しい演奏であった。
続いて、パガニーニ/クライスラー編の「ラ・カンパネラ」。時代は異なるとはいえ、何しろパガニーニとクライスラーの共作だから、超絶技巧の展覧会のような曲である。そんな曲を正確無比の技巧でサラリと弾きこなす辺りは、松山さんの本領発揮である。彼女の技巧は昔から折り紙付きなのだが、普段はそれょ感じさせないくらいに、表現力の豊かさが勝っているからなのである。
最後は、サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」。この曲はサラサーテに献呈されている(またまたヴァイオリンのビッグ・ネームが登場した)。やはり超絶技巧曲である。立ち上がりが鋭いのに音が豊かで尖っていない松山さんのヴァイオリンでこの曲を弾くと、曲全体がふっくらと膨らんだ柔らかさに包まれたように聞こえる。超絶技巧に頼っていると、攻撃的になってしまいかねない曲なので、本来の「カプリチオーソ」らしく、自由度が高く振れ幅の大きい松山さんの演奏は、この曲の本質を捉えた素晴らしい演奏だといえそうだ。
アンコールは3曲続けて、どういう訳か、スペイン系でまとめた。アルベニス/クライスラー編の「タンゴ」は、異国情緒に溢れるロマンティックな曲。やはり舞曲のリズム感は松山さんが得意とするところらしく、踊り出したくなるような楽しさがある。2曲目はグラナドスの「スペイン舞曲集」より。この曲については詳細不明だ。3曲目は、サラサーテの「序奏とタランテッラ」。美しくロマンティックな序奏と超絶技巧の「タランテッラ」の対比がスゴイ曲だ。そいう意味では、松山さんの持つ様々な要素を余すところなく表現できる小品かもしれない。圧倒的な存在感を見せつけるような演奏であった。Brava!!
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ところで今日のリサイタルでは、前半の1曲目の後と、後半もブラームスの後に、マイクを取り出して、お二人のトークがあった。といってもほとんど喋っているのは松山さんで、前半ではニューヨークでのご主人との暮らしぶりを関西弁でニコニコ笑いながら愚痴る愚痴る。後半では楽屋に用意されていたお弁当を食べずに、隣の伊勢丹のデパ地下でいっぱい試食してきた話で会場を盛り上げる。ご当地ウケのネタでトークも上手い。…結局音楽の話はほとんどなく、真面目な津田さんは毒気に当てられっぱなしであった。松山さんが伊勢丹で試食しまくっている間も津田さんは練習していたとか。このお二人のキャラクターの違いがうまく噛み合って、あの素晴らしい演奏を生み出すのかと思うと、つくづく音楽の奥の深さを感じるのである。
終演後は恒例のサイン会。私と同様に平日マチネーにもかかわらず駆け付けた友人のYさんも、松山さんとはすっかりお馴染みなので、例によって記念写真を撮ったりして、楽しい一時を。今日は津田さんにもサインをいただき、お二人のツーショットもお願いして撮らせていただいた。松山さんのサイン入りの写真は、先月の東京ヴィヴァルディ合奏団の演奏会(2013年1月、第一生命ホール)の時のもの。偶然、今日と同じお衣装であったが、日付は今日になっている。Feb.20.13とさりげなく書いてしまうのは、アメリカ生活が長いからだろう。何しろジュリアードに17年間も通っていたそうだから…。
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