Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/23(木)小林沙羅リサイタル/子守歌とアヴェ・マリアと日本の歌曲も織り交ぜて母性の情感を歌う

2017年03月23日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
小林沙羅 ソプラノ・リサイタル
この世でいちばん優しい歌


2017年3月23日(木)19:00〜 紀尾井ホール 指定席 1階 1列 12番 5,000円(会員割引)
ソプラノ:小林沙羅 ♥
ピアノ:河野紘子 ♦
チェロ:高木慶太 ♠
児童合唱:明星学園小学校の子どもたち ♣
【曲目】
不詳/中村裕美編:お江戸子守歌 ♥♦♠
中村裕美/中原中也:子守唄よ ♥♦♠♣
シューベルト:子守歌 ♥♦
ブラームス:子守歌 ♥♦
フリース:モーツァルトの子守歌 ♥♦
プッチーニ:そして小鳥は(子守歌)♥♦
山本正美/美智子皇后陛下:ねむの木の子もり歌 ♥♦
池辺晋一郎/別役 実:風の子守歌 ♥♦♣
ロジャース:My Favorite things(私のお気に入り)♥♦♣
平吉毅州/東 龍男:気球に乗ってどこまでも ♣(ピアノ:小林沙羅)
小林沙羅:子守歌 ♥♣
シャーマン:Stay awake 〜映画『メリーポピンズ』より ♥
草川 信/北原白秋:揺籠のうた ♥♦
R.シュトラウス:子守歌 ♥♦
池辺晋一郎/新川和江:歌 ♥♦
カッチーニ:アヴェ・マリア ♥♦♠
ウェーバー:ピエ・イエズ ♥♦♠
レーガー:マリアの子守歌 ♥♦♠
バッハ=グノー:アヴェ・マリア ♥♦
マスカーニ:アヴェ・マリア ♥♦
池辺晋一郎/谷川俊太郎:歌 ♥♦
《アンコール》
 小林沙羅:えがおの花 ♥♦
 小林沙羅:子守歌 ♥

 ソプラノ歌手の小林沙羅さんが昨年2016年11月に2枚目のCDアルバムをリリースした。タイトルは「この世でいちばん優しい歌」。母親となった沙羅さんが、古今東西の「子守歌」や聖母を称える複数の「アヴェ・マリア」を収録したものである。今日は、そのCDリリース記念のリサイタルであり、曲目はほぼCDと同じだが、曲順を変えたり、一部の曲は編曲を変えて児童合唱を加えたりもしている。ピアノ伴奏は河野紘子さん。一部の曲にはチェロの高木慶太さん(読売日本交響楽団チェロ奏者)が参加しているのはCDと同様である。


 1曲目は「お江戸子守歌」。チェロの独奏で始まり、非常にゆったりとテンポでお馴染みの子守歌が歌われていく。ピアノが入ってくると現代風の編曲で斬新な印象を創り出している。
 トークを挟んでの2曲目は、中村裕美作曲/中原中也作詞の「子守唄よ」。この曲には児童合唱として明星学園小学校の子どもたち8名が加わる。子供たちといっても小学校の2〜3年生で、かなり緊張した様子であったが、素朴で清らかな歌声で、けっこう上手い。2部合唱になっていて、沙羅さんと3つの声部を作る。ピアノの伴奏にチェロが深みのある低音を提供し、厚みのある和声を構築し、子守歌を歌う母親の姿を描いた中也の詩の世界を描き出していた。

 ここからは西洋の有名な子守歌。といっても芸術的な表現による歌曲の世界である。原典に従ってピアノ伴奏で歌われた。
 シューベルトの「子守歌」もブラームスの「子守歌」も小学校で習う曲だが、芸術的歌曲として捉えても素晴らしい曲だ。ドイツ語の発音や原語の持つ響きを特に大切にしている沙羅さんの歌唱は、子守歌のレベルを遥かに凌駕する藝術の領域だ。美しい発音による細やかなニュアンスの表現、しっとりとした情感がとても優しく伝わって来る。
 いわゆる「モーツァルトの子守歌」として知られる曲は、実はベルンハルト・フリースという人が作曲したものである。まあ、誰が作ったとしても美しい曲には違いなく、沙羅さんの歌唱も優しい。
 そしてちょっと毛色が変わって、プッチーニの「そして小鳥は」という子守歌。珍しいプッチーニの歌曲だが、軽妙な旋律はやはりプッチーニ節である。イタリア語の歌唱は母音が多く、長く伸ばされるので、ドイツ語とはまったく違った抑揚になる。沙羅さんはイタリア語の発音もとても綺麗で、明瞭だけれども優しく響く。

 「ねむの木の子もり歌」は、美智子皇后陛下が高校生の頃に書かかれた詩に山本正美さんが作曲したもの。歌詞自体が柔らかく聞こえる音で構成されていて、濁音もほとんどなく、例えば詩を音読してみるとその美しい日本語の響きが分かる。歌になったときには更にその優しい日本語の響きが生きてくるのである。沙羅さんの声も優しく清冽に届く。

 ここから再び児童合唱が加わる。池辺晋一郎さん作曲、別役実さん作詞の「風の子守歌」は合唱曲としても有名な、とても素敵な曲である。合唱が2部に分かれ、沙羅さんと美しいハーモニーを作り出す。河野さんのピアノも優しく包む込むような柔らかさがある。

 ここで雷の効果音が轟き、子供たちが怖がって叫ぶ。沙羅さんは(母親というよりは幼稚園の先生のように)子供たちに怖いときは好きなもののことをことを考えるといいよ、君たちの好きなものは何? と尋ねる。子供たちが口々に答える「好きなもの」を綴って、ロジャースの「My Favorite things(私のお気に入り)」を歌う、という趣向だ。これはミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の1場面である。この曲はJR東海のCM「そうだ、京都へ行こう」でも使われた曲。今日は沙羅さんの訳詞による日本語歌唱で、子供たちの合唱も加わると、ミュージカル風の楽しい世界が描かれる。

 次は、子供たちの合唱だけで「気球に乗ってどこまでも」。特別サービスで沙羅さんが伴奏のピアノを弾いてくれた。声楽家としてデビューとして依頼、人前でピアノを弾くのは始めてなのだという(これがけっこう上手い!!)。子供たちの合唱には、見栄や打算がないから、聴いていてもすがすがしい思いになる。小学校低学年で8名だけという割りには、けっこうというか、かなり上手いと思う。たまにはこういう合唱曲も良いものである。

 前半の最後は、沙羅さんの作詞作曲による「子守歌」。もちろん、新しいCDにも収録されている。本来はア・カペラの独唱曲だが、今日は特別編曲版の児童2部合唱付き。この曲は今後も聴く機会が多いとは思うが、合唱付きはもう二度とないかも。貴重な演奏になったかも。

 休憩を挟んで後半は、映画『メリーポピンズ』より「Stay awake」。ア・カペラで歌われた。子供たちに「眠らないで」と歌う子守歌だ。

 草川 信作曲/北原白秋作詞の「揺籠のうた」は誰でも知っている日本の近代の子守歌としては代表格であろう。ピアノ伴奏で歌う沙羅さんの歌唱は、優しい情感と芸術的な表現力とが適度にバランスされていて、とても素敵だ。

 リヒャルト・シュトラウスの「子守歌」は爛熟期のロマン派後期の芸術歌曲としての曲。描き出される濃厚なロマンティシズム。沙羅さんの歌唱は、切々とだが訴える力が強く、オペラ・アリアのような劇的な盛り上がりを見せる。さすがシュトラウスという感じ。ロマン派の巨人は、子守歌を作っても格調高い芸術性を発揮している。

 池辺晋一郎さん作曲/新川和江さん作詞の「歌」はとても美しい歌曲。もちろん沙羅さんのCDにも収録されていて、この歌詞の中に「この世でいちばん優しい歌」という1フレーズがあり、アルバムのタイトルになっているのである。沙羅さんのわが子への思いが込められているように、やや強い意志のチカラが感じられた。

 ここから再び高木さんのチェロが加わる。ソプラノとチェロとピアノの三重奏はあまり聴く機会がなかったが、考えてみれば、ピアノ・トリオがヴァイオリンと同じ高音域のソプラノに代わるのだから、各声部のバランスは良いはずだ。
 カッチーニの「アヴェ・マリア」は、すでに旧ソ連の作曲家ヴァヴァイロフによる偽作であることが判明しているが、カッチーニ風のバロック調の造形の上にロマン主義的な音楽が載せられているとても美しい曲。沙羅さんの清冽な声質とチェロの抒情的な旋律がとても素敵だ。
 「ピエ・イエズ」は、『オペラ座の怪人』などのミュージカル作曲家として知られるアンドリュー・ロイド・ウェーバーの書いた宗教曲「レクイエム」の中の1曲。清らかな曲だ。
 レーガーの「マリアの子守歌」は聖母マリアがイエスをあやす子守歌。宗教曲の一種だが、むしろ母性の情感がほのぼのと描かれている。
 続いては有名なバッハ=グノーの「アヴェ・マリア」。流れるようなピアノの分散和音に乗せて、息の長いゆったりとした旋律が、沙羅さんの濁りのない歌声で大らかに伝わって来る。
 続いても有名なマスカーニの「アヴェ・マリア」。オペラ『カヴァレリア・スルティカーナ』の余りにも美しい間奏曲に「アヴェ・マリア」の歌詞を付けたもの。位置づけとしては宗教曲だが、オペラのアリアのような豊かな表情が他の曲とは一線を画している。沙羅さんの歌唱は、やはりオペラ歌手としての一面が垣間見え、情感の表現に心を打つものがある。先日観た『カルメン』の中のミカエラのアリアを思い出した

 プログラムの最後は、新作「歌」という曲の初演。沙羅さんが大好きな谷川俊太郎さんの詩に池辺晋一郎さんに作曲をお願いしたものだという。さりげない日常を「歌」が様々に彩っていると歌う。とても優しい旋律と美しい和声で、自然体よりちょっと力んだ感じの沙羅さんの歌唱が印象的だった。

 アンコールは2曲。両方とも沙羅さんの作詞・作曲によるオリジナル曲だ。1曲目はお馴染みの「えがおの花」。今日はチェロが加わり、抒情的なイメージが一段と深まっている。
 最後の最後は「子守歌」。プログラム本編の前半で歌ったときには児童合唱を交えてだったが、アンコールでは本来のア・カペラ。短い曲の中にも万感の思いが込められているようで、心に染み入る感じがした。

 終演後は恒例のサイン会。今日はセカンド・アルバムの発売記念を兼ねてのリサイタルということなので、CDも飛ぶように売れて、会場には長い行列ができていた。
 沙羅さんのファースト・アルバム『花しらべ』に収録されている曲で、沙羅さんご自信が作詞作曲した「えがおの花」は今日もアンコールで歌ってくれるたし、ファンの間ではすっかりお馴染みになっているが、要望が多かったということで2017年4月1日付で楽譜が出版されることになった。まだ発売前だったが、会場で先行発売としていたので、早速購入。サイン会では表紙にサインをいただいた。


 サイン会は長く続き、やがて紀尾井ホールの撤収の時刻が迫っているということで、最後の方は慌ただしくなってしまい、いつものように記念写真を、というわけにはいかなかったのが、ちょっと残念。
 しかし、リサイタルは大成功たったといえる。CDに収録された曲をただ歌うだけではなく、児童合唱を交えるなどの企画も加わり、ほのぼのとした世界を創り出していた。沙羅さんの人柄と、プロデュース力によるところが大きい。今後のますますの活躍が期待できそうだ。

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【お勧め楽譜のご紹介】
 本文でも紹介させていただいた、小林沙羅さんの作詞作曲による「えがおの花」の楽譜です。ピアノ譜(中村裕美編曲)付き。2017年4月1日 第1刷発行。発行/小林沙羅。制作/カワイ出版。日本音楽著作権協会(出)1702258-701号。定価/本体463円+税。amazon.co.jpでは取り扱いがないので、ご希望の方はカワイ出版 ON LINE まで直接どうぞ。


【お勧めCDのご紹介】
 小林沙羅さんのセカンド・アルバムCDは、今日のリサイタルとほぼ同じ内容の「この世でいちばん優しい歌」。全17曲を収録している。共演は、ピアノが河野紘子さん、チェロが高木慶太さん。2016年11月2日のリリース。
この世でいちばん優しい歌
日本コロムビア
日本コロムビア



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