Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/22(水)Ensemble Old-Fashion/若い力が輝く石原悠企・大江馨・田原綾子のオール・モーツァルト・プロ

2017年03月22日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
Ensemble Old-Fashion Vol.5

2017年3月22日(水)19:00〜 四谷区民ホール 自由席 1階 A列 11番 2,000円
指揮・ヴァイオリン:石原悠企*
ヴァイオリン:大江 馨**
ヴィオラ:田原綾子***
管弦楽:Ensemble Old-Fashion
【曲目】
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調 K.219「トルコ風」*
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364** ***
《アンコール》
 モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第1番 K.423より 第2楽章** ***

 Ensemble Old-Fashionは2014年に慶應義塾大学の学生有志により結成された弦楽合奏アンサンブル。今回で5回目のコンサートとのことだ。一般の学生さん達によるアマチュアの団体ということなので、正直言ってあまり期待はしていなかったのだが、演奏を聴いてビックリ。意外(といっては失礼だが)なくらい、けっこう上手い。しかもモーツァルトの名曲が揃っていたので、かなり楽しむことができたのである。アマチュアとはいえ、2,000円でこれだけの演奏を聴かせていただけるのであれば、文句の付けようもない。

 弦楽合奏は、メンバー表によると第1と第2合わせてヴァイオリン11、ヴィオラ4、チェロ2、コントラバス1の弦楽5部となっている。本日のプログラムでは、「ヴァイオリン協奏曲」と「協奏交響曲」には各曲の編成に従って、ホルン2とオーボエ2が加わる。
 ゲスト指揮者はヴァイオリニストの石原悠企さん。「ディヴェルティメント」では指揮を、「ヴァイオリン協奏曲」ではソリストとして弾き振りをし、「協奏交響曲」では再び指揮に専念した。
 「協奏交響曲」のソリストは、ヴァイオリンが大江馨さん、ヴィオラが田原綾子さん。大江さんは2013年の「第82回 日本音楽コンクール」のヴァイオリン部門で第1位と増沢賞、田原さんは同年の「第11回 東京音楽コンクール」の弦楽部門で第1位と聴衆賞を獲得している。20歳代前半というこの世代ではトップクラスの演奏家であることは間違いない。また大江さんと田原さんは「ラ・ルーチェ弦楽八重奏団」のメンバーとして一緒に活動していることもあり、息の合った演奏が期待される。そんな彼らの演奏を聴きたくてやって来たのである。

 会場の「四谷区民ホール」は今回が初めてであった。新宿区立の3つある区民センターの1つで、東京メトロ・丸ノ内線「新宿御苑」の駅から徒歩5分くらい。区の総合施設の9階にあるホールは2階構造になっていて、1階334席、2階118席、合わせて452席と、規模としては小ホールだが天井が高く、また空間がシンメトリーでないこともあってか、けっこう音響が良い。客席も緩やかな階段状になっているので、どの席からも見やすそうである。ただし、ステージがちょっと高めであったため、最前列では立って演奏するソリスト達を見上げるようになり少々首が疲れた。今日は自由席であったため、18時30分開場/19時開演に対して、18時に会場入りしたら列の5番目くらいだった。おかげで最前列のセンターを確保できたわけだが、都内で仕事を持つ身にとっては、19時開演の自由席だとかなりツライものがある。

 さて今回はオール・モーツァルト・プログラム。1曲目は有名な「ディヴェルティメント ニ長調 K.136」だ。弦楽5部合奏のみで、石原さんの指揮による。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを対向に配置し、第1の後ろにヴィオラ、第2の後ろにチェロとコントラバス。椅子に腰掛けての演奏である。
 第1楽章は軽快なテンポで、リズム感も良く、主題を提示するヴァイオリンのアンサンブルも素敵だ。内声部と低音部が刻むリズムも推進力のある息遣いが感じられて、なかなか快調な滑り出しだ。時折縦の線が乱れたりもするが、立ち上がりの緊張もあるだろうし、ご愛敬といったレベルだ。
 第2楽章の緩徐楽章は、やや速めのテンポだろうか。けっこうメリハリを効かせている。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの各声部が比較的明瞭に分離していて、造形がはっきりしている。フレッシュで瑞々しい雰囲気がいっぱいである。
 第3楽章はPrestoで一段と軽快感を増す。やや前のめりの感じのするテンポが、音楽に生命力を漲らせている。演奏には若干の緊張感があり、固さが感じられる部分もあったが、全体的にはなかなか素敵な演奏だったと思う。コントラバスが加わっているため低音部が増強されてアンサンブルのバランスに深みが増しているのも良かった。

 2曲目は、「ヴァイオリン協奏曲 第5番『トルコ風』」。弦楽の後方にホルンとオーボエが加わった。ソリストである石原さんは、扇の要の位置に立ち、客席側を向いての「弾き振り」である。
 第1楽章は、序奏部分から石原さんは第1ヴァイオリンのパートを弾いている。目の前で聴いていたせいもあるが、その音がやけに明瞭に聞こえてしまった。ソナタ形式の主部に入り、独奏ヴァイオリンが抜け出すと、オーケストラと対話するようにバランス良く展開する。石原さんのヴァイオリンは鮮やかな音色を持ち、思いの外派手な感じで、音楽を煌びやかに彩っていく。カデンツァではさらに華麗な技巧を披露した。
 第2楽章はAdagioだがやはりやや速めであろうか。石原さんのヴァイオリンが鮮やかな色彩で、主題をロマンティックに歌っていく。
 第3楽章はロンド。ただし主部はTempo di Minuettoで古典的な典雅な舞曲風で、そこにさらに優雅に独奏ヴァイオリンが乗る。石原さんの鮮やかな音色は、この典雅な音楽に合っている。中間部がAllegroとなり「トルコ風」と呼ばれるようになったエキゾチックな主題が登場する。石原さんのヴァイオリンもこの部分ではやや翳りのある音色に変わる。このような極端な曲想の変化がこの楽章の特徴だ。モーツァルトは若干19歳でこのような複雑な内容を持つ協奏曲を見事に創り上げているのである。

 後半は本日の目玉である「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」。やはり注目すべきは田原さんのヴィオラだ。というのも、そもそもヴィオラには協奏曲としての名曲が極めて少ない。ところが、モーツァルト自身がヴィオラを好んだということもありこの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」では、ヴァイオリンとヴィオラが完全に対等に扱われている。本来は内声部を受け持つヴィオラを表舞台に引っ張り出してスポットを当てたのがこの曲だといえる。だからヴィオリストにとっては最も重要な協奏曲だと捉えることもできる作品なのだ。
 そのような名曲には違いないが、だからといってオーケストラのコンサートのプログラムに載せられることが多い訳ではない。だからヴイオリストにとっても実際に演奏する機会は滅多にないというのが現実だろう。ところが、田原さんは、昨年2016年の1年間にこの曲を4回も本番演奏している。2016年1月7日には彼女の師匠である藤原浜雄さんとの共演で(小林研一郎さん指揮/読売日本交響楽団)、11月5日にはCHANEL Pigmalion Daysの土岐祐奈さんのリサイタルにゲスト参加してピアノ伴奏で全楽章を演奏、そして12月30日に毛利文香さんとの共演で(坂入健司郎さん指揮/川﨑室内管弦楽団)昼・夜2回公演で演奏しているのである。これだけの演奏機会に恵まれるということはそうあることではないはず。
 そして今日は大江さんとの共演。毎回ヴァイオリンの共演者も違い、指揮者もオーケストラも違うというのは大いに刺激になることだろうと思う。
 第1楽章。協奏風ソナタ形式は、まずオーケストラのみで主題の提示部が演奏されるが、大江さんも田原さんも第1ヴァイオリンとヴィオラのパートを一緒に弾いている。やはり二人のソリストの音は際立っていて、アンサンブルからちょっと浮き上がっている。ソロのヴァイオリンとヴィオラが独立して主題を繰り返し始めると、協奏曲らしい華やかな楽想に変わる。大江さんのヴァイオリンはやや硬質な冷たい感じのする音色と緊張感の高い張り詰めたイメージ。対して田原さんのヴィオラは柔らかく暖色系で大らかに響き渡る。二人の質感の違いが鮮やかな対比を描き出していて面白い。カデンツァでは息はピタリと合っているが音質の違いが広がりのある響きを創り出していた。また、石原さんの指揮するEnsemble Old-Fashionは、ここでは中庸なテンポであったが、リズム感が躍動的であるため推進力もあるしダイナミックレンジも広い。前半の演奏よりも明らかにノリが良く、溌剌としていたのは、二人のソリストのエネルギーに触発されたのだろう。
 第2楽章は、平行調のハ短調の緩徐楽章で、憂いと悲哀に満ちたとても美しい曲想である。独奏の二人はけっこう音量も出して、主題を明瞭に描き出している。ここでは大江さんのヴァイオリンは繊細なイメージを創り出し、すすり泣くような音色の場面もあった。対して田原さんのヴィオラは深みがあり包み込むイメージだろうか。やはり対比は鮮やかであった。
 第3楽章はPrestoのロンド。軽快に疾走するようなリズム感が心地よく響き渡る。オーケストラ側の躍動的なエネルギーがグイグイと前に出てくる。独奏のヴァイオリンとヴィオラがロンド主題を弾き出すと、同じ旋律や音形を対話するように交互に弾いていく。主題を両者がキャッチボールをしているようにリズム感良く受け渡していくのだ。その息の合った掛け合いの様子は、聴いていても心が躍るような、音楽の喜びに溢れているように感じた。大江さんのヴァイオリンも田原さんのヴィオラも、そしてオーケストラの演奏も素晴らしい。瑞々しく、溌剌としていて、若い演奏家たちならではの生命力がある。聴く者を元気にしてくれる演奏であった。Bravi!!

アンコールは、二人のソリストによるもののみで、モーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第1番」の第2楽章であった。緩徐楽章で、低音域のヴィオラの伴奏の上にヴァイオリンのもの悲しげな抒情的な旋律が乗る。ここでも二人の音質の違いが明瞭で、これはこれで美しいハーモニーを生み出していた。


 終演後のロビーは出演者の皆さんと関係者の皆さんの歓談の場となる。主役はあくまでEnsemble Old-Fashionに皆さんなので、あちこちに人の輪ができていて賑やかだった。演奏者だけでなく運営のスタッフさんたちも皆、明るい表情。演奏会は大成功だったと思う。素晴らしい演奏を心から堪能することができたからだ。石原さん、大江さん、田原さんの3名のゲストも、それぞれファンの方々や関係者の方々に囲まれて楽しい一時であった。

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