犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

徴用工問題「解決策」、韓国メディアの反応

2023-03-08 23:51:29 | 近現代史

写真:韓国政府の「解決案」を発表するパク・チン外交部長官

 3月6日、韓国政府は、2018年秋の大法院判決以来、日韓間の最大の懸案になっていた、いわゆる元徴用工問題に、韓国としての「解決策」を公表しました。

 大法院から日本企業に命じられた賠償金の支払いを、韓国政府傘下の財団が「肩代わり」する案です。

 日本政府はこれを評価し、歴代内閣の「反省とおわび」を含む歴史認識を継承すると表明。

 4年以上に渡って日韓関係を冷え込ませていた懸案を「政治決着」しました。

 当然ながら、「被害者支援団体」と韓国野党は猛然と抗議。

 最大野党の共に民主党は「第2の庚戌(キョンスル)国恥」、「三田渡(サムジョンド)恥辱」と批判したそうです。

 庚戌国恥とは、「1910年(干支で庚戌)に日韓併合条約を結んだ」という「国家の恥」を、 三田渡恥辱とは、1637年、清による李氏朝鮮への侵略(丙子の乱)の末に、講和条約が李氏朝鮮の首都漢城郊外の三田渡で締結された恥辱を指します。この後、日清戦争後の下関条約(1895年4月17日)で独立するまで、朝鮮は清の属国の地位にありました。

 なんとも大げさです。

 韓国メディアの反応は、保守系か、進歩系かによって、多少、温度差があります。

 保守系の「中央日報」は、

 まず、「韓国政府が昨日、強制徴用問題の解決策を発表すると、これまで消極的だった日本側が一つずつ呼応する姿を見せたのはひとまず前向きだ」と評価。

 しかし「日本徴用企業が被害者支援のための財団への出捐に直接参加しないこと」について、「残念な解決策というほかない」、「今回の解決策は、国内法(大法院判決)と国際法(請求権協定)を同時に尊重しながらも、安全保障と経済のために至急に韓日関係を改善すべきという政府の苦衷が反映された苦肉の策と書きました(3月7日、社説)。

 やはり保守系の「朝鮮日報」は、6日の社説で、この問題について、かなり正確に伝えています。

 今回の問題は2018年に大法院で強制徴用被害者への日本企業の賠償責任を認める判決が確定したことから始まった。判決通り日本企業から賠償を受け取るべきと主張する国民も少なくないだろう。しかし日本側は個人への賠償を含む徴用問題は1965年の韓日請求権協定で完全に解決したとの立場だ。判決に従って強制処分が行われた場合、韓日関係は崖っぷちに追い込まれる。また日本企業が韓国国内に持つ資産を処分しても賠償額には遠く及ばない。さらに日本が判決に応じず国際訴訟となった場合、専門家は韓国が勝つことを期待するのは難しいと口をそろえる。問題となった大法院判決が「外交政策に影響する判決は控える」とする「司法自制の原則」というグローバルスタンダードに反するためだ。

 さらに7日の社説では、「金大中・小渕宣言」を紹介。

 故・金大中(キム・デジュン)元大統領が1998年に日本を訪問した際、「日本は韓国などアジアに大きな犠牲と苦痛を与えたが、今は経済大国としてアジアの諸国民に無限の可能性と希望の道を示した」との考えも示し、これに日本の小渕恵三首相は「兄と考えたい」と述べ、直後に日本は「痛切な反省」と「心からの謝罪」を表明した。

 両首脳はこの宣言で「20世紀の韓日関係を終わらせ、21世紀の新たなパートナーシップを構築し自由民主主義、市場経済という普遍的な理念に立脚して政治・安全保障・経済・文化など幅広い分野で協力関係を発展させよう」と呼びかけた。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権も「韓日請求権協定により日本に再び賠償を要求することはできない」との結論が下した。

 そして、今回、日本政府は「1998年の(金大中・小渕)韓日共同宣言を含む歴史認識に対する歴代内閣の立場を継承する」との考えを示した。

 これを「第2の庚戌国恥であり対日屈従外交」、「三田渡の屈辱に匹敵する恥辱」と主張する共に民主党が、「金大中・小渕宣言」に従う決定を「親日」「屈辱」と言うなら、金大中元大統領こそ親日であり土着倭寇(わこう)ということになる。

 この論調を見ると、「朝鮮日報」は尹政府の今回の「解決案」について、心から賛成しているわけではないけれど、やむを得ない案として容認しているようです。

 一方、左派、反政府系の「ハンギョレ」は、社説で最大級の非難をしています。

 韓国政府は6日、日帝強占期の強制動員被害者が受け取るべき賠償金を韓国企業の寄付金で支給するという方策を「解決策」として発表した。日本の加害企業の賠償への参加や謝罪はない。日本の外相は「過去の談話を継承する」と冷ややかに発言しただけで、「謝罪と反省」さえ口にしなかった。被害者の数十年の苦しい闘いとその成果である最高裁判決などを全て後退させた、みじめで屈辱的な「解決策」だ。

 「賠償問題は韓日請求権協定ですべて解決済み」とする日本の主張をそのまま受け入れた「完敗外交」だ。「植民地支配の不法性と加害企業の賠償」を明示した韓国最高裁の判決は無視された

 1997年から25年以上にわたって闘ってきた強制動員の被害者と韓日市民社会の努力を踏みにじるものだ。日本政府が責任を認め基金に拠出したものの、被害者中心主義を無視したことで座礁した2015年12月の韓日慰安婦合意よりも、はるかに後退した外交惨事だ。

 尹錫悦大統領は、閉塞した日韓関係を打開し、安保・経済面で韓日米の結束を強めるため、強い意志で今回の「解決案」を発表したと思われます。

 被害者、野党、左派メディアの反対派は織り込み済み。

 次の政権が左派・反日に変わったとき、今回の「解決案」が反故にされる恐れはあるものの、尹政権が世論を説得し、今回の解決案を堅持してくれることを望みます。


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