犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国人よ、あなたたちは何者か?

2015-09-04 23:56:26 | 近現代史


 コメンテイターの方に教えていただいた、李栄薫教授による「日韓首脳の70年談話批判」を、以下に訳出してみました。

【精密分析】安倍総理の「戦後70年談話」と朴槿恵大統領の光復節慶祝辞
(→リンク

韓国人よ、あなたたちは何者か?


 8月14日、日本の安倍晋三総理が発表した「戦後70年談話」は、韓国政府と韓国人に問いかける。「あなたたちは何者か?」 と。安倍談話を繰り返し精読した末、私はこのような問いに逢着した。安倍談話は形式的には1995年の村山談話、2005年の小泉談話を継承している。言葉の使い方にしても、文章の流れにしても、過去の談話を底本にしている。しかし、三倍にふくらんだ談話のここかしこで、過去の談話の重要な部分を打ち消した。

 安倍談話は、19世紀の帝国主義の時代に対する回顧から始まる。西洋は、圧倒的な技術力と軍事力により、全世界を植民地として分割した。植民地化の危機感から、日本はアジアで唯一、立憲政治を確立し、独立を保つことに成功した。日露戦争で日本が勝利したことは、アジアとアフリカの人々に勇気を与えた。このように、安倍談話は日本の韓国併合を、歴史の不可避な選択だったと正当化している。

 日露戦争後、日本はロシアと英国から韓国に対する宗主権を認められた。米国は、日本がフィリピンを攻撃しないという条件で、日本の韓国に対する権利を了解した。こうして日本の韓国併合は、帝国主義列強の共助体制の下で行われた。安倍談話は、その点を想起することで、韓国併合に米国をはじめとした列強にも責任があることを指摘している。

 安倍談話が認める日本の誤りは、1930年代以降の事変、侵略、戦争だ。すなわち満州事変(1931)、中日戦争(1937)、太平洋戦争(1941)である。第一次世界大戦後、国際連盟の創設を通じて、戦争を犯罪視する新しい国際潮流が現れた。日本はそうした潮流に逆らい、力で自国に有利な国際秩序を作ろうとした。

 それが誤りだった。しかし日本を苦境に追い込んだのは大恐慌以後、列強のブロック化政策だった。安倍談話は、それも忘れずに指摘し、日本の誤りには列強の責任もあることを喚起している。

 戦争は、数百万の無辜の人々の命と幸福を破壊した。安倍談話は、戦場に散った日本の軍人たち、戦火に巻き込まれた民間人の犠牲、敗戦後に復員した者たちの苦痛、日本の敵として熾烈に戦った米国、豪州、欧米諸国の軍人たち、過酷な扱いを受けた戦争捕虜の痛み、人格と名誉を深く傷つけられた女性たちに対し、痛切な哀悼の意を表している。

 「連合国の寛大さ」に対する感謝の言葉

 談話は実にすぐれた文章だ。上記に加え、日本の誤りを許し、国際社会への復帰を支援してくれた連合国の寛大さに対する感謝の言葉を述べる。

 戦後70年の日本は、平和国家として、武力で国際紛争を解決してはならないという原則を堅持してきた。植民地支配に永遠の別れを告げ、すべての民族が自決の権利を持つ世界を指向した。

 こうした戦後70年に誇りを感じる。今後もそれを不動の方針として守り、日本は平和の国際秩序、女性の人権の保護、自由な国際経済、開発途上国支援に土台を置いた世界の建設に寄与して行くだろう。以上が安倍談話の要旨だ。

 結果的に安倍談話は、1995年の村山談話が示した「植民地支配と侵略」に対する「痛切な反省」を打ち消したわけだ。形式的には、以前の政府の談話を継承するといっているが、内容は以前の談話を取り消した。

 なにをかいわんや。日本の外務省のホームページには、アジアの歴史問題に対するこれまでの立場を取り下げ、総理の談話に基づいて改訂作業を進めている旨の告示がある。安倍は、1910年の韓国併合は日本が謝るべき問題でないことを明確にした。

 安倍談話の最後の文章により、私は鈍器で頭をなぐられたように感じた。日本は自由、民主主義、人権の基本的価値を共有する国と手を握って、平和と繁栄の世界を建設して行くという大きな課題だ。少し前に、日本政府は韓国を、自由、民主主義、人権の基本的価値を共有する国の名簿から外した。

 「韓国政府のわがままは、これ以上聞かない。わが日本の、20世紀の歴史に対する認識は、この通りだ。あなたたちの歴史的アイデンティティーは何なのか。はたしてわれわれとともに自由、民主主義、人権の基本的価値を共有する国なのか」

 韓国人のはらわたに突き刺さり、太いうめき声を吐かせるような、真っ正面からの問いかけだ。

 安倍談話の翌日、朴槿恵大統領の光復70年の演説があった。そこにおいて、大統領が安倍談話について、批判的に言及したことは、適切でなかった。談話文を正確に読み、これまでの談話との連続性と断絶を理解し、専門家の意見を聞いて、新しい談話に含まれている幾重にも重なる示唆を、総合的に把握するには、少なくとも数日を要する。

 それなのに、大統領は、待っていましたとばかりに、たった一日後に、感情的かつ不正確なコメントを発した。安倍談話をさして「生き証人がいるのに歴史を隠す」と批判したのは、一国の総帥が口にするには、あまりにも感情的な修辞だった。残念ながら、歴代総理の談話を継承しているのは幸いだ、という趣旨の発言は、誤読だ。

朴槿恵大統領の演説:夢幻の当惑 

 私は、大統領とその取り巻きが、安倍談話をどれほど真剣に読んだのか、あの複雑な文脈の中から韓国に投げかけられたメッセージを正しく読み取ったのか、それだけの知力があるのか、疑わしく思う。

 朴槿恵大統領の演説を繰り返し読んだ私の所感をひと言でいえば、夢幻の当惑だ。大統領の演説は、夢の中をさまようかのように、過去70年の韓国史を回顧している。大統領は「70年前の今日、わが民族は独立に向けた熱望と献身的な闘争により、ついに祖国の光復を成し遂げた」と宣言した。

 長い歳月の間、毎年繰り返されてきたこのような光復節の祝辞は、残念ながら事実ではない。私は歴史学徒として、この点を率直に指摘しないわけにはいかない。大韓帝国の敗亡と同じく、大韓民国の成立も、国際的な協議の過程から生まれたものだ。第二次世界大戦に苦しめられた米国は、1941年8月、大西洋宣言を通じ、戦争が終わった後、後進民族が強奪された主権と自治を回復する、新しい世界秩序の構想を明らかにした。

 1942年には、韓国を日本から分離させるという方針を決め、これを1943年12月のカイロ宣言で明らかにした。このような米国の選択は、フィリピン独立の方針と密接な関係があった。言い換えれば、米国の韓国に関する方針は、米国がフィリピンを、日本が韓国を領有するという、1905年に結ばれた両国の密約を破棄したものにほかならない。

 このような米国の戦後処理の方針に、韓国人たちが有効な影響を及ぼしたという証拠は、まだ発見されていない。その戦後処理のために、米国の若者10万人が太平洋で死んだ。300万の日本人が、その帝国を守ろうとして、死んだ。

 日本の領土として支配された韓国では、23万人の若者が、軍人、軍属として徴発され、そのうち2万2000人が太平洋で日本人とともに死んだ。そうした理由のため、1951年、48か国の連合国と日本との講和条約において、韓国は連合国の一員として招待されることはなかった。

 カイロ宣言は、世界大戦が終わった後、モスクワ会談、米ソ共同委員会、韓国問題の国連移管という国際的な協議につながっていった。その結果、1948年、韓半島南部に大韓民国が建国された。以後も国際社会は、この新生国家の主権の是非を論じたが、その最後の国際的協議が1954年のジュネーブ会談だった。

韓国の外交官たちがその会談に出て、大韓民国を認めまいとする中国、北朝鮮、インドなどの攻勢に耐えることができたのは、それまで3年間の戦争で、米国の若者3万6574人がこの地で死んだおかげだった。これ以上でも以下でもなく、大韓民国は、帝国主義体制にとって代わった米国の戦後処理の方針と、その実践過程から生まれた国だ。

 私が、大統領の演説は夢の中をさまよっているようだと言った理由は、この国の成立過程を取り巻くこのような国際政治の歴史について、ただのひと言も言及がなかったからだ。まるで韓国の独立運動家たちが雄壮な軍勢をなし、豆満江を渡って日本軍を打ち負かしたかのように語っている。

 北朝鮮の金氏王朝が、歴史をそんなふうに語っている。率直に言って、わが国の大統領の演説に表明された歴史認識と、金氏王朝の偽善的な歴史叙述には大差がない。

 大統領は当然、この国を独立させ、守ってくれた米国に対し、韓国人に代わって感謝の言葉を述べるべきだった。安倍総理が、日本人の誤りを許した連合国に対して述べた感謝の言葉以上に、深い感謝の言葉を述べるべきだった。

 私は朴槿恵大統領の演説を読んだ米国の指導者たちが、冷笑と軽蔑のまなざしを韓半島に向けるのではないかと心配になる。心を込めて感謝したとき、歴史の恨みは恩恵に変わる。日本とあれほど激しく戦った米国のホワイトハウスが、安倍談話を歓迎したのを見よ。明らかに米国の責任を指摘しているにもかかわらず、それを、ほほえみをもって受け入れたのだ。それが政治の役割であり、美徳でもある。

「漢江の奇跡」が可能だった理由

 朴槿恵大統領の演説は、大韓民国を成立させた解放直後の3年間の国内政治について、ひどい混乱を露呈している。大統領は、今日は「祖国の光復」70周年であるとともに「建国」あるいは「政府樹立」67周年だと述べた。いったい光復とは何であり、建国とは何か。私は本誌505号に掲載された文章の中で、光復と建国は実は同語反復だということを指摘した。ある国が最大の国慶日を記念するのに、こうした混乱を露呈するのは、このうえなく恥ずかしいことだ。

 70年前のあの日は、米国によってなされた解放の日だ。その後の3年間、韓国人はどんな国家を建てるべきかをめぐり、さまざまな集団に分かれて激しく対立した。

 「自由民主主義によって国を建てなければならない。共産主義で行くこと、そうなる危険の大きい左右合作は、この民族を、ふたたび這い上がれないどん底へと突き落とすことになるだろう」

そう叫んで反共の砦を築き、大衆の右往左往する心をまとめ、最終的にこの国を建てた人物こそ、李承晩初代大統領だ。彼の慧眼と闘志がなければ、おそらく大韓民国は産声を上げることができなかっただろう。

 後代の大統領は、67年前の建国をめぐる事件を回顧して、初代大統領の見事な功績を讃えるべきだった。それはまた、国民の乱れた心を一つにまとめる近道でもある。

 大統領が、韓国のこれまでの世代が成し遂げた経済的成果を「漢江の奇跡」とほめたたえたのも、適切ではない。低成長がもう10年以上も続いているから、というわけではない。厳密に言って、自然や歴史において奇跡はない。経済成長の基礎条件といえる市場経済制度は、日本統治時代を通じて整備された。

 解放後、分断と戦争で木端微塵になった経済を立て直したのは、米国の援助だ。1967年までに、軍事援助を含め、およそ100億ドルの援助が供与された。これを通じ、食糧、肥料、精油、綿紡績などの基礎工業が、1960年代前半までに興された。1950年代には国民教育ブームに沸いた。

 1965年、反日の民族感情という大きな壁を乗り越えて、日本と国交正常化がなされた。以後、韓国、米国、日本をつないだ素材、部品、市場の国際的なネットワークは、韓国経済の高度成長を支えた最も重要な条件だった。後進国の経済が直面しやすい技術開発の隘路を韓国経済が免れ得たのは、苦労せずに高級素材、部品、機械を輸入できる隣国があったためだ。

 この隣国効果は今も同じだ。今日、韓国経済が享受している毎年300億ドルの貿易収支黒字は、毎年200億ドルに達する対日赤字に基づくものだ。大統領は、「漢江の奇跡」を開発途上国の教科書として称揚する前に、それを可能にした内外の条件と歴史について、謙虚に感謝の意を表すべきだ。

 韓国の歴史的アイデンティティーとは何か。われわれにとって、100年前の朝鮮王朝とは何か。中華帝国の藩屏として存在していた国が、無理やり外国勢力を引き入れて国家を守ろうとしたとき、東アジアの歴史はどんな不幸に見舞われたか。それについて韓国人に責任はないのか。

韓国人に責任はないのか

 人間は誰でも、自分なりの個性的記憶により存在する。人々がそれぞれ独立的なのは、互いに異なる記憶と解釈を尊重するからだ。激動の歴史に対する、それぞれの国の記憶は、それぞれの立場が異なるため、決して同じになることはない。おだやかな顔で、それぞれの記憶を尊重しつつ、ともに視線を未来に向けなければならない。

 歴史の解釈をめぐって争う外交ほど、愚かなものはない。それは、ある象徴のもとでのみ統合が可能な、部族社会に固有の現象だ。自由、独立の人間にとって、歴史とは、人間の賢明さと愚かさ、勇気と卑怯を学ぶ省察であるのみだ。安倍談話の一節を借りれば、歴史とは実に取り返しのつかない当代人の苛烈な選択だった。

 韓国はいまだに部族社会なのか、そうではなく自由、民主主義、人権という基本的価値を尊重する社会なのか。安倍談話が投げかけた問いに答える番だ。


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5 コメント

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Unknown (トムヤム)
2015-09-06 15:30:27
長文の翻訳ありがとうございます。

ツイッターで李栄薫教授の記事を紹介しているのをみつけたのですが、リンク先が韓国語であったため読めずにいました。

李教授といえば以前ニューライトと呼ばれ、慰安婦問題や教科書問題で大きくニュースになり、安倍談話をどのように評価するのか興味がありました。

韓国では開放から建国にいたる歴史認識が非常に大きな問題であることが再確認できましたし、韓国独立をフィリピンと関連付けている点など認識を新たにした点もありました。

韓国系の新聞などのネットメディアでは目にすることのない記事で、興味深く読ませていただきました。
李栄薫叩き (犬鍋)
2015-09-13 01:51:37
ソウル経済他、いくつかの新聞に、教授のこの記事について批判的に紹介されていました。

また叩かれなければいいのですが。

http://economy.hankooki.com/lpage/society/201509/e20150909090109117920.htm
李栄薫といえば (belbo)
2015-09-14 08:17:15
やはり、ナヌムの家での土下座を思い出します。
訳していただいたものを見る限り、あの頃よりやや慎重に見えますが、未だニューライトとくくられる以上、ぼろくそに言われるんでしょうねえ。

現代においては、神話は神話であることを前提とし、それでもその神話に価値を見出さなければ、尊びようがないと思うんですが、韓国の建国神話は神話であるかの検証すら非難される状況。
現在も休戦中とは言え、まるで戦前・戦中の日本のようです。
Unknown (スンドゥブ)
2016-10-20 16:00:46
こんにちは。

李榮薫教授関連の記事です。
ご参考まで

http://yoshiko-sakurai.jp/2016/10/20/6550
知りませんでした (犬鍋)
2016-10-21 01:17:26
8月の放送のようですね。
時間があるときに見てみます。
情報ありがとうございました。

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