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おとなの事情

2017年03月27日 | 洋画(17年)
 『おとなの事情』を新宿のシネマカリテで見ました。

(1)イタリアンコメディと聞いて映画館に行ってきました。

 本作(注1)では、ロッコ(整形外科医;マルコ・ジャリーニ)とエヴァ(心理カウンセラー;カシア・スムトゥニアク)の夫婦が暮らすマンションに、友人たちが集まって夕食会が開かれます。



 映画の最初の方では、ロッコの家に集まる友人たちの出発前の様子が簡単に映し出されます。
 そして、迎える側のロッコは、自分の手料理を皆に振る舞おうと、キッチンで奮闘しています。
 他方、エヴァは、外出すると言う娘のソフィアベネデッタ・ポルカローリ)に、「グレゴリオと会うんでしょ」と言い、手にしていたものを見せて「これはコンドームでしょ?」と訊くと、ソフィアは「勝手に他人のカバンを見ないで」と怒ります。
 ソフィアが部屋に引っ込んでしまったので、エヴァはキッチンにやって来て、ロッコに「あの子、彼氏と会うのよ。あなたも嫌いでしょ?」と言います。ロッコは「嫌いだ。でも17歳なんてそんなもの。モット客観的になるんだ」と答えます。
 さらにエヴァが、「カバンの中にコンドームが入っていた」と告げると、ロッコは、「なんでそんなことがわかったんだ?」とエヴァが盗み見したのを非難しながらも、「とにかく、気持ちよく(ソフィアを)送り出そう」と言います。

 そんなこんなのうちに、ロッコの家の玄関の呼び鈴がピンポーンと鳴り、レレ(法律事務所勤務;ヴァレリオ・マスタンドレア)とカルロッタアンナ・フォッリエッタ)の夫婦(注2)が先ずやって来て、次いで、最近結婚したばかりのコジモ(タクシー運転手;エドアルド・レオ)とビアンカ(獣医;アルバ・ロルヴァケル)の夫婦(注3)が到着します。

 最後に、ペッペ(元学校教師;ジョゼッペ・バッティストン)が独りでやってきます。
 エヴァが「遅いなって言っていたところ。ルッチラは?」と尋ねると、ペッペは「風邪をひいた。帰るべきかな?」と答えます。これに対し、コジモが「振られたんだろ」と混ぜっ返します(注4)。
 ペッペが「何を話してたんだ?」と訊くと、ロッコは「どんな女なのか想像してたんだ」と答え、コジモは「よくやるだろ、髪の色がどうだとか」と付け加えます(注5)。

 こうして物語が始まりますが、さあ、この後どのように展開するのでしょうか、………?

 本作は、食事会に集まった3組の夫婦と一人の男が、それぞれが所持する携帯を机の上に置き、かかってきた電話やメールをすべて公開するというゲームを行うことになり、それぞれは隠すべき秘密など持っていないと豪語してゲームに臨みますが、…云々というワンシチュエーション・ドラマ。最近見た『たかが世界の終わり』と類似の設定ながらも、本作はコメディですからまるで雰囲気が異なり、それぞれが内緒にしていた秘密が次々と暴露されて大騒ぎになって、というストーリー展開をなかなか楽しめる作品です。ただ、やっぱりこうした作品には、どうしても演劇臭さがつきまとってしまいますが。

 (以下では―特に注記では―、かなりネタバレしていますので、映画を未見の方はご注意ください)

(2)本作の舞台の大部分は、ロッコとエヴァが暮らす家の居間。
 主に会話するのは、そこで開かれた食事会のメンバーの7人(注6)。

 話をしているうちに、エヴァから携帯電話に関するゲームをしようという提案がなされ、皆に受け入れられます(注7)。
 ゲームが始まると、実に様々な秘密が暴露されて、食事会参加者の混乱ぶりは、映画を見ている方からすれば実に面白いものがあります。
 なにしろ、皆が皆、何らかの人に言えない秘密を抱えていたのだ、ということが明らかになるのですから(注8)。

 ただ、本作で描かれる携帯電話によるゲームで明らかになる様々な秘密といっても、人の生死にかかわる秘密とか、多額の負債に関する秘密とかいったものではなく、問題なのはせいぜい浮気といったところで、総じて言えば他愛ないものばかりではないでしょうか(注9)。
 でも、本作で秘密が次々に暴露されていくと、とても面白く、ワンシチュエーション・ドラマにありがちな演劇臭さは免れないとはいえ、出演者たちの息の合った演技によって、随分と面白く見ることができました。

 なお、興味深いのは、最後のシーン(注10)。
 これはどう解釈すればいいのでしょう(注11)?
 クマネズミは、単なる思いつきに過ぎませんが、この食事会が月食の起きた夜に開かれたことが関係しているのでは、と思っています。
 本作では、この食事会参加者がロッコの家のベランダに出て、皆で皆既月食を見たり、写真を撮ったりしているシーンが映し出されます(注12)。



 もしかしたら、皆既月食の持つ魔力によって(注13)、食事会参加者が集団催眠状態に陥ってしまい、ひた隠ししていた事柄を暴露する行動に出たのではないでしょうか?
 そして、その魔法の力は、月食が終わり食事会も終わった時点になると消滅して、参加者の精神状態は元に戻り、食事会の間に起きたことは全て忘れてしまったのでは、と考えてみましたが、どうでしょう(注14)?

(3)毎日新聞の細谷美香氏は、「ワンシチュエーションで展開するドラマでありながら、畳みかけるような会話のリズムに引き込まれ、愛と友情が試される怒涛(どとう)のラストまであっという間」だと述べています。



(注1)監督はパオロ・ジェノヴェーゼ
 脚本は、監督のパオロ・ジェノヴェーゼの他に4人が担当。
 原題は『Perfetti Sconosciuti』(Perfect Strangers)。

 なお、公式サイトによれば、本作は、「イタリアのアカデミー賞にあたる第60回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞と脚本賞のW受賞を果たした」とのこと(「『グランドフィナーレ』や『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』といった「大物監督による強豪を抑えての快挙」のようです)。

 また、出演者の内、最近では、ビアンカ役のアルバ・ロルヴァケルは『五日物語―3つの王国と3人の女―』で、見ました。

(注2)ロッコの家に来る前のシーン(レレの家)では、カルロッタが、テレビを見ている娘のローザに「こっちへきなさい」と寝室に連れていき、その際に、まだテレビを見続けている息子のブルーノには「10時までよ」と命じます。これを見ていた義母(エリザベッタ・デ・パロ)が、「文句ばかり言うのね」と詰ります(ここらから、カルロッタと義母との厳しい関係―嫁姑問題―が伺われます)。

(注3)ロッコの家に来る前の場面の会話で、ビアンカは「ピルを止めたの」と夫のコジモに告げます(ビアンカは子供を欲しがっているようです)。

(注4)このあたりの会話の背景には、この食事会で、ペッペが恋人のルッチアを皆に初めて紹介することになっていた、という事情があります。

(注5)この後、ペッペが「月(Luna)が綺麗だ」と言ったところから、ビアンカが「ルッチラって良い名前ね」と応じ、さらにペッペが「エヴァ、どうしたら恋に落ちるんだい?」と尋ねると、エヴァは「どうして私に訊くの?」と訝しがり、ペッペが「君はそんなことを研究してるんだろ」と答え(エヴァは心理カウンセラーです)、さらにビアンカが「30分間話せば恋に落ちるわ」と言います。
 ペッペが「じゃあ、60分話したら?」と尋ねると、カルロッタは「猛烈に愛してしまう」と言い、レレは「そして、何も話さなくなる、それが結婚だ」と応じます。
 カルロッタは、箴言(?!)を語っています。

(注6)ただ、娘ソフィアは、食事会が始まる前だけでなく、食事会の最中にも登場します(ロッコに小遣いをもらうため)。
 そして、外出先のソフィアから、ロッコの携帯に電話が入ります。ソフィアが「グレゴリオが泊まりに来てくれっていうの。行きたいけれど、心の準備ができていない。でも断ったら、彼が怒る。どうしたらいい?」と尋ねると、ロッコは「パパとしては喜べない。ただ、これだけは言わせてくれ。将来、そのことを振り返って、笑顔になると思うなら行きなさい。そうでなければ、止めなさい」と答えます。さらに、ソフィアが「今日、コンドームをくれた時は恥ずかしかった。でも、ママには言わないで。話すと怒るだけだから」と話すと、ロッコは「話す価値はあるよ」と応じます。
 これらの会話は、机の上に置かれているスマートホンのスピーカーから流れて、その場にいる皆が聞いています。
 エヴァは「立派だった」、ビアンカは「カウンセリングのお陰ね」(実は、ロッコは、エヴァではないカウンセラーのカウンセリングを受けていたようなのです)、ペッペは「浮気じゃないんだから、騒ぐことじゃない」と言います。
 この場面は、本作中の名場面といえるのではないでしょうか?

(注7)皆の話が、次第に男女関係のことに及んでいきます。



 そして、カルロッタが「問題は、メールよりも浮気自体よね」と言ったのに対し、エヴァが「お互いの携帯を見ても、別れずにいられるかしら?」と尋ね、レレが「別に問題ないんじゃ」と答えると、エヴァは「誰も秘密はないの?皆聖人なの?」と訝しがり、「じゃあ、ゲームをしない?確かめるの。携帯を机の上に置いて、来た通信を見せ合うの」と提案します。
 ロッコが「何のつもりだ?」と疑問を呈すると、エヴァは「隠し事でも?」と聞き返します。
 そして、ビアンカが「やりましょうよ」と言い、ペッペも「子供の時のゲームみたいだ」と前向きなので、そのゲームをやることになり、皆がそれぞれ持っている携帯をテーブルの上に置きます。
 ゲームのルールは、メールが来たら皆にその内容を読み上げ、電話が鳴ったらスピーカーを通して会話すること。

(注8)例えば、レレからの依頼で、ペッペは携帯を取り替えます(レレが言うには、毎晩10時になると、浮気相手のクレメンティーニ嬢から写真入りのメールが届くとのこと)。そうしたところ、レレの携帯(本来はペッペの携帯)にルチオから電話がかかってきます。最初レレは「職場の同僚だ」と言ってやり過ごしますが、再度かかってきたので、レレが「しつこいぞ、明日話そう」と返事をすると、ルチアが「クソ野郎」と言ってきます。それを聞いたレレの妻のカルロッタが、「変でしょ。同僚がそんなこと言うなんて」と訝しがります。レレが「ちょっとオカシナやつなんだ」などと言い訳をするとカルロッタはドンドン突っ込んできて、ついにカルロッタは「セックスしたの?寝たかどうかはっきりして」と言うまでになります。レレも切れて、「結婚して10年、子供が2人いる俺が、男とやっているのを想像できるか?」とまで言うのですが、カルロッタは「自信ない」と落ち込みます。
 この話は大層愉快ですが、実は、レレがゲイだとされると、他の男達がレレを咎めだし、それを聞いたペッペ(本当は、ルチオとゲイの関係)が酷く傷ついてしまうという問題を引き起こします。

(注9)例えば、妻とは別の心理カウンセラーに通っていること(ロッコ)、夫以外の医師のもとで豊胸手術を受ける予定(エヴァ)、タクシーの営業許可を売りに出そうとしていること(コジモ)、義母を老人ホームに入れようとしていること(カルロッタ)、などなど。

(注10)新婚早々にもかかわらず、夫・コジモの浮気(相手のマリカから電話がコジモにかかってきて、「妊娠テストしたんだけど陽性だって」と言います)を知ってしまったビアンカが、ショックでトイレに閉じ込もったものの、かなり時間が経過して出てきたと思ったら、派手な化粧をして、指輪(コジモは、ビアンカではなく、マリカのために用意したものらしい)を指から外してテーブルの上に置き、そのまま居間から出ていってしまいます。
 ところが、しばらくしてロッコのマンションのエントランスから出てくるシーンを見ると、ビアンカとコジモは仲良く手を繋いでいるのです。
 他の参加者も、食事会の前と同じような雰囲気で、それぞれ帰っていきます(ペッペに至っては、定刻になるとどんな場所にいても行う体操を、橋の上でやっているのです!)。

(注11)劇場用パンフレット掲載の「Question」(パオロ・ジェノヴェーゼ監督へのQ&A)では、「脚本のトリックが巧妙ですが、あれは夢なのか、それとも実際の世界なのでしょうか?」との質問に対し、監督は「ゲームは実際にはプレイされませんでした。でも描かれた秘密は現実にあり、今後も隠され続けるでしょう」と答えています。

(注12)例えば2015年4月4日の皆既月食の場合(日本)、この記事を見ると、部分食の始めが19時15.4分で、その終わりが22時45.1分となっていますから、食事会の時間とおおまかには合うのではないでしょうか(本作では、最後にやって来たペッペが、上記の「注5」で記したように「月が綺麗だ」と言っていますから、その後から月食が次第に次始まり、食事会がお開きになった頃に月食も終了するのでしょう)。

(注13)例えば、この記事によれば、「古代の人々は、月の満ち欠けに神秘を感じ、そのサイクルと地上の森羅万象を結びつけて考えていた。そして、そこに人知を超えたパワー、つまりなんらかの「魔力」があると信じ、その力を手に入れ、活用したいと願うようになる。そこで発展してきたのが、呪術や魔術、占いといった行為だ」と述べられています。
 ここでは「月食」自体ではなく、「月の満ち欠け」に関することが述べられています。ただ、「月食」は、短時間のうちに起こる「月の満ち欠け」とも言えるのではないでしょうか。

(注14)尤も、この記事によれば、「月が陰になって隠れたっていうことはだ、月の魔力が減退しているのさ。感情や内面、可能性を司る月の魔力が減退し、また新たに蘇るこの月食。満月が照っている時には感情が不安定になるが、陰っていれば逆に安定するでしょうね」とのことで、まるで逆なのかもしれませんが。



★★★★☆☆



象のロケット:おとなの事情


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6 コメント

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Unknown (atts1964)
2017-03-28 16:51:02
私もラストのあのオチは、月食の怪現象だと思いました。月食設定は、やはり救いの道ですよね。
ただ描かれていたことは事実で、一歩間違うとすべてが崩壊してしまうってことなんでしょうね。
TBありがとうございました。
一方通行で毎度すいません。
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Unknown (クマネズミ)
2017-03-28 18:36:07
「atts1964」さん、コメントをありがとうございます。
クマネズミも、「(幻想の食事会で)描かれていたことは事実で、一歩間違うとすべてが崩壊してしまう」のではないかと思いました。そして、様々の婚姻外情事が横行して“お盛ん”なのは、さすがイタリアではないかな、と思いました(きっと偏見でしょうが)。
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月の魔力 (ここなつ)
2017-03-30 14:32:09
こんにちは。
弊ブログにご訪問下さりありがとうございます。
確かに、月の魔力が月食の存在によって上手い具合に表現されていて、このあたりも巧みな、狙った作り方だと感じました。
イタリアらしい、と思ったのは、”お盛ん”もそうですけれど、あの食卓に並ぶ食べ物も、ですよね!
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Unknown (クマネズミ)
2017-03-30 21:09:03
「ここなつ」さん、TB&コメントをありがとうございます。
確かに、ロッコが独りで作ったにしては、随分とたくさんの料理が用意されていました!
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Unknown (ふじき78)
2018-01-02 09:06:15
「たかが世界の終り」のヴァンサン・カッセルがパーティーに来たらゲームの前にパーティーが機能しなくなりそう。

ゲームに関しては本人の秘密はともかく、掛けてきた人の秘密を未承認に公表していいのかという問題が御座なりになっている。娘からしたら自分の処女喪失日を親の友人みんなが知っているのはイヤでしょう。
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Unknown (クマネズミ)
2018-01-02 17:56:27
「ふじき78」さん、新年早々のコメントをありがとうございます。
あるいは、「たかが世界の終り」のヴァンサン・カッセルような人物は、イタリアには見かけないということかもしれません。
また、「(携帯電話に)掛けてきた人の秘密を未承認に公表していいのかという問題が御座なりになっている」という点は、「ふじき78」さんがおっしゃるとおりだと思います。
逆に、そうだからこそ、こうした週刊誌的なレベルでの会話劇を映画で見ることが面白いのかもしれません。
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