映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

のだめカンタービレ(前編)

2010年01月10日 | 邦画(10年)
 本年の劇場鑑賞映画の第1番目として 「のだめカンタービレ/最終楽章 前編」を、吉祥寺の映画館で見ました。

 この映画は2部作の前半に過ぎず、後編は4月中旬の公開を待たなくてはならないということで、それではあまりに間隔があきすぎではないかと思えて、余り観る気が起きなかったところ、マスコミに掲載されている映画評が概して好意的なので、それでは観てみようかという気になり、暇なこともあって正月明け早々近くの映画館まで行ってきました。

 私も以前、フランスに留学するまでの原作漫画を読んだことがありますが、それ以降については、漫画もTVドラマも知らず、それでいきなりこの映画に臨んだところ、映画の中で演奏される音楽の質の高さもあって、ラストで上野樹里が雨の中にたたずむ姿には心が残りながらも、総じて大変面白く見終わることができました。

 特に、冒頭で演奏されるベートーベンの交響曲第7番第1楽章と、クライマックスで演奏されるチャイコフスキーの序曲「1812年」とは、劇場の大音響で聞くと随分と聴きごたえがあり、かつまた玉木宏扮する千秋の指揮ぶりも大層見事だと思います。
 これに、バッハのピアノ協奏曲第1番の弾き振りも加わるのですから、上野樹里が主役でなかなか良くやっているとしても(昨年は「キラー・ヴァージンロード」を見ました)、私には、玉木宏の方が強く印象に残りました。
 確かに、上野樹里が弾く「トルコ行進曲」(実際の演奏は、著名な中国人ピアニストによっています)も面白い演奏ですが、私には、強弱を強調しすぎて、やや奇をてらったものではないかという感じもしたところです(“分かったようなことを言って”との陰の声)。

 といっても、問題がないわけではありません。団員の3分の1がやめてしまい危機に瀕しているマルレ・オケの常任指揮者に千秋が就任すると、あっという間に見事な演奏を披露できるまでになりますが、ちょっと出来過ぎの感がしないでもありません。
 「ボレロ」のめちゃくちゃな演奏の後、オーディションで団員を入れ替えるだけであれほどの演奏ができてしまうというのは、実際にはあり得ない話でしょう。
 とはいえ、元々のボロボロの演奏自体が、素人分かりするようにギャグとして演じられているために―いくらなんでもあの程度の演奏しかできない団員では、どんなに練習しても上達はしないでしょうから!―、その後の演奏との格差が大きく感じられるだけなのかもしれません。
 そうだとしたら、有能な団員が加わりさえすれば、千秋の名指揮ぶりとあいまって、あのような素晴らしい演奏につながったとしてもおかしくはなさそうです。

 それに、再建ぶりをはじめて公開する演奏会で演奏されたのが、虚仮威しによく使われる「1812年」ですから、なおのこと印象が深くなってしまいます(なにしろ、ナポレオンがロシアに侵入しまた退却する様が、両国の国歌とか大砲の音を交えて演奏される体のものですから!)
 ですが、元々この映画は、主にクラシックなどなじみがない若い人向けのものでしょうから、そういう観点から考え直してみれば、それはそれでよく作られていると言ってみてもいいのでしょう。

 ところで、もうひとつ面白いなと思った点は、言語に関することです。このところ洋画でも、一つの作品の中で様々の言語が使われている映画がよく公開されるようになってきました。
 今回の映画は、舞台がパリですから言語の問題の処理の仕方には興味深いものがあります。この映画では、外人が話す言葉は、吹き替えによって日本語に置き換えられているだけでなく、なんと外国人を日本人が演じることでその問題を処理している場合もあります(竹中直人やなだぎ武など)!元々がファンタジーなのですから何でもありだとしても、いくら何でもという気がしないわけではありませんでしたが。

 とはいえ、今回の映画はあくまでも2部作の前半でしかありません。4月に公開される「後編」をも見た上で全体を評価しなおす必要があるでしょう。
 また、楽しみが一つ増えた感じがします。

 評論家の面々は次のような感想です。
 前田有一氏は、「全体的にコメディ色が強く、いまさらいうまでもない上野樹里の怪演により爆笑確実。この世界観に慣れている人なら、十分満足できる仕上がりだ。ヨーロッパロケによる美しい映像も、もちろん注目」として55点を、
 渡まち子氏も、「今回は劇場版にふさわしく、ウィーンやパリなど、欧州の華麗な都を舞台にする豪華なもの。TVドラマの安易な劇場版が氾濫する中、本作は名曲の数々を劇場のクリアな音響で堪能できる点に映画版ならではの説得力がある」などとして55点を、
 福本次郎氏は、「人気テレビドラマの延長線上にある前半部分は笑えないコメディだが、真摯に楽曲に向きあおうとする後半は思わず聞き入ってしまった」として50点を、
それぞれ与えています。
 この中で福本次郎氏は、「騒々しいエピソードの連続で綴られる」とか、「人気テレビドラマの延長線上にある前半部分は笑えないコメディ」だという具合に、かなり否定的です。このような書き方をする人は、シリアスなところが何もないこうしたたわいのないコメディが元々肌に合わないのでしょう!


今年は☆マークの評価をしてみようと思います(満点は★5つ)。
この映画は、後編とあわせて評価し直したいと思いますが、取り敢えずは、
★★★☆☆

象のロケット:のだめカンタービレ


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3 コメント

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最終への序奏として見れば満足 (スウィング・カレー )
2010-01-12 00:20:31
  この映画は、ご承知のように漫画原作のテレビドラマの続編ですが、出演者のファンとしては出来がどうであれ、まずは見ておくというものでした。「のだめ」漫画は以前にごく全巻を家族が借りてきたので、国内編はすべて楽しく読んだのですが、それでも、海外編はあまり興味を惹かれず、かつ登場する外国人の名前が煩わしくて、こちらはまったく読まずにおりました。
  こうした経緯があったのですが、映画のあらすじはすっきり分かり易く、かつ楽しい展開で風景画面も綺麗であり、演奏される音楽ともども楽しんできました。製作関係者がこの漫画と音楽に対して理解と愛情をもって作ったと感じます。多少欲をいえば、落ちぶれたフランス・オーケストラの立て直しがごく普通に進むのが、もう少しどんでん返しとは言わないでも、波乱があってもよいかなぁと思ったものです。でも、子供たちも含めて広く家族を視野においた映画作りということであれば、ごく素直な物語のほうで、良いのかも知れません。
 
  音楽演奏の水準もオケを含め高そうで、個人的な感触では、のだめ君が弾くトルコ行進曲(実際の演奏はランランという著名な「男性」のピアニストとのことです)が面白く感じました。音響効果の良い劇場で「見る、聴く」というだけで、映画化の意味があるはずです。ちょっと離れた感じのあるクラシック音楽に対して、ファンが増えれば、音楽関係者にとって嬉しいことでしょう。「のダメ×ダメ・オケ」はマイナスの相乗で、結果がプラスということかもしれません。
  インターネット上の映画評価などを見ると、総じて好意的で評価(満足度?)が高いようですが、映画製作に芸術性(そして、厳格な音楽)を求めるむきからは厳しい評価もあると思います。でも、これはそうしたことが狙いではありませんから、自然に楽しめるような寛容性が観衆にあれば、それで良いと思われます。
  最終編の後編が次ぎに控えており、これが4月半ば頃に上映予定ということで、この辺の間隔がすこしありすぎで不満だという声も聞かれ、やはりそう感じるものです。
  ともあれ、楽しい映画は良いと改めて感じたところです。そして、そのように受け取って見たほうが、得だということでしょう。
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一粒で二度美味しい (クマネズミ)
2010-01-14 05:31:25
 「スウィング・カレー」さん、コメントありがとうございます。
 4月の後編の公開が待ち遠しい感じです。
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こんばんは (サラ)
2010-02-14 01:43:45
以前より、TBをたびたび頂きありがとうございます。
ワタシも一番は映画ですが、絵も音楽も好きです。
今回、リンクさせていただきました。
これからもよろしくお願いいたします。
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