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パシフィック・リム

2013年09月23日 | 洋画(13年)
 『パシフィック・リム』を渋谷シネパレスで見ました。

(1)評判がよさそうなので、随分と遅ればせながらも見に行ってきました。

 本作は、深海にできた時空を越える通路を通って他の天体(「異世界アンティヴァース」)から次々と送られてくる巨大な怪獣(“kaiju”)に対して戦いを挑む巨大ロボット・イェーガーを巡るお話です。
 主人公は、イェーガーを操縦するパイロットのローリーチャーリー・ハナム)。ヒロインは、同じくパイロットのマコ菊地凛子)。
 計画の大幅変更で、今や香港にしか設けられていないシャッター・ドーム(イェーガーを整備・格納する)には、かつてはたくさん製造されていたイェーガーも4体置かれているだけです。
 そのイェーガーには、ローリーとマコの他に、父子のコンビ、ロシア人の夫婦パイロット、中国人の3つ子の兄弟が乗り込みます(注1)。
 そして、次々に襲いかかる「レザーバック」などの怪獣に対して彼らは果敢に戦うものの、果たして勝利することができるでしょうか、………?

 本作は、なかなかおもしろく見ることが出来ました。でも、怪獣映画が大好きな人にはたまらないでしょうが、それほどでもない者にとって、確かに映像のリアリティーにものすごいものがあるにせよ、評判ほどでもないのではという気がしてしまいます。突然出現した巨大怪獣を巨大ロボットが、例のごとくプロレス・スタイルで打倒し、人類を壊滅から救うというおなじみのストーリー以上のものが余りないのではと思いました。でも、怪獣映画が大好きな人にとっては、逆におなじみのものだからこそ面白いのでしょう。
 なお、ハリウッド映画において、菊地凛子がヒロインとして大活躍し、さらにその子供時代を戸田愛菜が演じているのですから、時代は変わっているのだなとも思いました。

(2)この映画を見て興味深かったのは、例えば次のような事柄です。
イ)主人公やヒロインの内面
 トラウマ一辺倒ながらも、わりかしきちんと描かれています。
 まずローリーは、5年ほど前、兄と一緒にコンビを組んでイェーガー(「ジプシー・デンジャー」)を操縦していたところ、怪獣(「ナイフヘッド」)の反撃に遭い、彼の目の前で兄が殺されてしまいます。
 そのとき兄弟の脳は「ドリフト」(2人の意識をシンクロナイズさせる)によってつながっていたために、ローリーはトラウマを抱えることになり、操縦ができなくなりパイロットを辞めてしまいます。
 映画の冒頭では、ローリーはアラスカで、下記で触れる「防護壁」の建設に従事していますが、環太平洋防衛軍の司令官スタッカーイドリス・エルバ)の強い要請で現役に復帰するのです。



 またマコも、幼女(戸田愛菜)の頃、怪獣(「オニババ」)の襲撃を受けて、両親を失い、自分自身も危なかったのですが、今や司令官であるスタッカーによって助けられたのです。ただ、「ドリフト」のテストを受けている最中に、怪獣に襲われた際の恐ろしい記憶を蘇らせてしまい、事故を引き起こしたりします(注2)。



 それでも、ローリーの尽力によって、2人のコンビで、修復なったジプシー・デンジャーを操縦することになります(注3)。

ロ)防護壁(「命の壁」)
 怪獣が襲来するというので、太平洋を取り巻くあちこちの国で、イェーガーを整備格納するシャッター・ドームが建設されたにもかかわらず、映画の時点(2025年)までにはそれらが次々に閉鎖され(残っているのは香港のみ)、代わりに建設されたのが巨大な「防護壁」なのです。
 こうした壁を設けることによって敵の侵入を防ごうという考え方は、『ワールド・ウォーZ』でも見られるところです(イスラエルを取り囲む巨大な壁!)。
 ですが、そこでもゾンビたちによって乗り越えられてしまったように、本作でも怪獣(「ブレードヘッド」)によって壁は簡単に砕かれてしまいます(注4)。
 それは、漫画『進撃の巨人』でも同じでしょう(注5)。

 このような「壁」は、映画や漫画のみならず、実際にも万里の長城からベルリンの壁など、洋の東西を問わず古代から現代まで様々に作られ(注6)、かつ乗り越えられてしまってきましたが、それでも人々は懲りずにまた建設しているように思われます(注7)。
 強力な敵に立ち向かう場合、人々は、敵そのものをなんとか打倒しようとするか、あるいは壁を作ってその侵入を防ごうとするか、いずれかの方法を選ぶのでしょう。
 本作の場合、当初は、イェーガーで個別の怪獣を打ち負かそうとしましたが、それが難しいとなると壁で防ごうとし、でもそれが打ち破られると、最後の手段として再度イェーガーに運命を託すこととなります(注8)。

(3)また、この映画を見て、例えば以下のようなことにつき違和感を覚えました。
イ)評論家の粉川哲夫氏が、次のように述べています。
 「(イェーガーの中に)人間が入っているというのが解せない。趣味で入っているのではなく、命がけで入るのだからなおさらだ。使われているということになっている技術をみると、拡張現実(AR)に似たもののようだが、ならば、中にわざわざ人間が入って、生死の危機に身をさらす必要はないはず。映画効果のためにテクノロジーの事実をばかげたものにしている」。



 人類が、他の天体と時空を超えてつながる深海にできた通路の様子を、シャッター・ドーム内の管制センターで立体的に把握できるくらいのテクノロジーを手にしているのであれば、ロボットのコントロールを、ロボットの外から無線で遠隔的に操縦することぐらい容易なことではと思えるところです。

 ただ、この点に関しては、下記(3)で触れる前田有一氏が述べるように、「ロボット機内に入って人間が操縦するというのは、欧米人のロボット観からは異質に映るだろうがこれが日本スタイル。本来ロボットは人が乗るリスクを排除できるのが最大のメリットのはずだが、この手のフィクションは人が入らないと始まらない」のかもしれませんが。

ロ)次のような点も挙げられます。
 イェーガーでは、操縦する2人の負担を軽くするために、それぞれの脳の右脳と左脳を接続し共有するという仕組みを採用しています。2人が一体のロボットを動かすわけですから、2人の間の信頼関係が必須のものとなっているところがミソなのでしょう。



 でも、人間の脳ってそんなに右と左に分離できるものなのでしょうか?
 例えば、ローリーやマコが苦しむ過去の記憶を司るとされている大脳辺縁系の海馬ですが、脳の中心部に一つまとまってあるだけのものです(注9)。
 とはいえ、ここでは専ら運動機能が問題であり、例えば、大脳の右半球は左の手足を動かし、左半球は右の手足を動かすようになっていますから、大脳だけを分離して他の人のものと接続して使えるようにすることも、あるいは可能なのかもしれませんが。

ハ)さらには、時空を超えて他の天体とつながる通路は、果たして核爆弾(原子炉)を爆発させたくらいで破壊できるものなのでしょうか?
 その通路をとおして他の天体から怪獣が地球に送り込まれてくるところ、映画で描かれるように、実際に深海の海底に具体的な穴が開いていて、核爆発でそれを構成する壁が崩れて塞がってしまうというのであれば、それもわからないわけではありません。ですが、そんな実体的なトンネル状の通路が他の天体と通じているはずもないのではないでしょうか(注10)?
 あるいは、「ワームホール」のようなものなのでしょうか(注11)?

(4)渡まち子氏は、「見る前は、オタク系監督の大味SFとかと想像していたが、とんでもない。メカデザインのディテールの美しさとハリウッド映画ならではの超絶的なスケールというミクロとマクロが融合した一大スペクタクルだ。かつてアニメーションでしか描けなかった世界を、これだけ見事なビジュアルで完成させた実写映画ははじめてである」として75点をつけています。
 また、前田有一氏も、「映像は重厚感があり、荒唐無稽なストーリーを笑えないほどに怪獣は恐ろしく、終末の恐怖を感じられる。日本で実写ロボットものといえば、例外なくチープな特撮映像がおまけでついてくるので、これはきわめて新鮮な映像体験といえるだろう」などとして75点をつけています。




(注1)出撃したイェーガーが次々に破壊されるのを見て、司令官のスタッカーはいたたまれずに、第1世代で一人乗りのイェーガー(「コヨーテ・タンゴ」)に乗り込んで出撃します。

(注2)事故を引き起こしたことにより、マコはパイロットの候補からはずされますが、元々マコを我が娘のように育ててきた司令官・スタッカーには、彼女がパイロットとして非常に高い能力を持つにもかかわらず、イェーガーに乗り込ませることにためらいがあったのです。

(注3)新たにジプシー・デンジャーの両腕に装着されたチェーン・ソード(鞭剣)によって倒した怪獣が「オオタチ(大太刀)」!

(注4)オーストラリア沖に出現したブレードヘッドによって、シドニーに設けられていた防護壁は1時間足らずで破壊されてしまいます。

(注5)このサイトの記事によれば、「人類の生息する全域を取り囲み巨人の侵攻を防ぐ、高さ50メートル・厚さ10メートル程の巨大な壁。外壁ウォール・マリアの総延長は3200kmにもなる」とのこと。ただ、845年の巨人の侵攻によって一番外側の壁「ウォール・マリア」は打ち破られてしまい、その後は真ん中の壁「ウォール・ローゼ」と最も内側の壁「ウォール・シーナ」の2層となっています。

(注6)日本でも、「元寇防塁」があります。

(注7)最近では、パレスチナのガザ地区では1994年以来周囲が壁で封鎖されていますし、またアメリカとメキシコとの国境にも壁やフェンスが設けられています(全国境のほぼ3分の1にわたって←このサイトの記事によります)。

(注8)話は飛びますが、今問題の福島第一原発の汚染水流出問題では、その原因がはっきり特定できないとなると、結局は「凍土壁」なる壁でもってなんとか防ごうと政府・東電は考えているようです。でも、そんな壁で果たしてうまく汚染水の流出を防ぐことができるのでしょうか?

(注9)幼いころの記憶など長期的なものは、大脳皮質で保管されるようです。ただそうだとしたら、違う人の大脳半球と接続した場合、どこの大脳皮質で保管されるのかによりますが、甦る記憶に欠落が生じてしまう可能性が出て来るのではないでしょうか?

(注10)あるいは、他の天体・アンティヴァースにつながる紐が地球にくっついたような感じになるかもしれませんが、その先が深海だというのは解せないところです(空中から怪獣を落とせばいいのですから)。
 なお、アンティヴァースは、地球の中生代にも巨大生命体を送り込んできたことがあるとのこと。でも、その時以来この通路はつながったままなのでしょうか?それとも、必要に応じて通路が作られるのでしょうか?としたら、今回、通路が仮に塞がったとしても、アンティヴァースは、また通路を設けることができるのではないでしょうか?

(注11)でも、それにしたって、ブラックホールと反ブラックホールを組み合わせたもののようだとしたら、どんなにものすごい核爆発も一瞬にして吸収されてしまうのではないでしょうか?



★★★☆☆



象のロケット:パシフィック・リム


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6 コメント

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Unknown (ふじき78)
2013-09-23 08:51:44
「乗りこまなくても」というのは確かに理屈なんだけど、アイアンマンの遠隔誘導装置みたいにちょっと卑怯っぽくて嫌な感じ。多分、二人の搭乗者と機械の間の一体感が必要なんでしょう。殴ったら殴った感触、よろめいたらよろめいた感触。これらはセンサーで遠隔誘導操縦に飛ばす事も出来るけど、殴る蹴るを頻繁にやる機械だから故障が多い。なら、人間搭載で、と。人命軽視に見えるけど、機械が最大のパフォーマンスを達成しなければ、中で操縦していようが、遠隔地で操縦していようが、kaijyuに殺される事は一緒ですからね。
巨大ロボットは乗り込むもの? (田代剛大)
2013-09-23 11:22:40
お久しぶりですノシ
私偶然2003年にロボットと怪獣が戦う漫画を描いていて、やられたな~っておもってました。
私は巨大ロボットとか全然詳しくなくて(ウルトラマンは大好き)、一からいろいろ調べたんですが、ロボットってそもそも自律式の労働用機械なんで操縦するもんじゃないんですよね(^_^;)
私はそこらへんもちゃんと考えたんですが、確かに日本のサブカルの文脈だと「卑怯!」ってなるのか・・・でもポケットモンスターとかだって卑怯って気がするんですけどねw
Unknown (クマネズミ)
2013-09-23 21:41:13
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
なんだか、ゼロ戦を特攻機にしたり、人間魚雷・回天や特攻艇・震洋を作ったりしてしまう日本軍と、無人航空機・プレデターや巡航ミサイルを使うアメリカ軍との違いのような感じがしてきました!
Unknown (クマネズミ)
2013-09-23 21:42:26
「田代剛大」さん、TB&コメントをありがとうございます。
まさにおっしゃるように、「ロボットってそもそも自律式の労働用機械なんで操縦するもんじゃない」のだと思います。
「卑怯」にも何も勝てばいいのだ(あるいはできるだけ人間が死なないこと)というのが、アメリカの無人航空機・プレデターなどの思想なのかもしれませんが、それでもこの映画はアメリカで制作されたわけですから、興味深いものがあります。
いつもありがとうございます (SunHero2012)
2013-10-09 17:54:23
クマネズミさん、ご無沙汰です。SunHeroです。
コメント&トラックバックありがとうございました。

人間が搭乗して操縦するという発想は、アメリカ人にとってはある意味で非合理的でも、だからこそこういう映画は新鮮だったんじゃないでしょうか?スター・ウォーズにもドロイドが操縦する地上戦闘用の大型歩行ロボットが登場しますが、戦う相手の大きさが全然違いますね(笑)。

むしろ、私が疑問に感じたのは、映画にコメディの要素を持ち込んだ凸凹コンビの博士2人の研究成果が余り生かされていなかったことです。KAIJUの出現周期を正確に当てていたのに、実際に出現が確認されないとロボットは出動しない。ゴテゴテですよね?

映画では彼らの研究がどの程度進んだものだったのか明らかではなかったのですが、KAIJUの進化についてもある程度予測できていたのではないかと思えて仕方ありません。防御壁が意味を成さない飛行型のKAIJU、終盤で出現する特大サイズのKAIJUなど、一観客の私ですら、容易に予想できましたから。

子供の頃に夢中で見ていた特撮TVドラマを懐かしく思い出させてくれたので、大いに楽しめました。
Unknown (クマネズミ)
2013-10-10 21:37:46
「SunHero2012」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、博士たちは、KAIJUとドリフトするなど身を呈して重要な情報を獲得したにもかかわらず、その「研究成果が余り生かされていなかった」感じですね。
ただ、「飛行型のKAIJU」とか「特大サイズのKAIJU」などを予測したとしても、人類には最早4体のイェーガーしか残されていないのですから、如何ともしがたかったのかもしれませんが。
でも、ともかく楽しめる映画であることは間違いありません。

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