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ラッシュ

2014年03月10日 | 洋画(14年)
 『ラッシュ/プライドと友情』を吉祥寺オデヲンで見ました。

(1)随分と評判が良さそうなので、遅ればせながら映画館を覗いてみました。

 本作は、「プライドと友情」という副題からもわかるように、専ら1976年の出来事に焦点を当てながら、二人の天才的なF1レーサー(注1)の戦いと友情を、実話をもとにしながら描いています(注2)。

 本作の冒頭では、1976年8月1日のドイツGPの会場が映し出され、F1には毎年25人の選手が参加するが2人が死ぬ、などと説明されます。
 そして、ニキ・ラウダダニエル・ブリュール)が「自分とジェームス・ハントクリス・ヘムズワース)は長い間ライバル関係にあると考えられていた」と語り、チームのスタッフに「タイヤはウエット」と言います。
 そして、レースの開始。

 この年ニキは、ブラジルや、南アフリカ、モナコ、ベルギー、イギリスのGPに優勝し、前年にひき続いてF1を制覇すべく安定した走りを見せていました。



 それに対し、ハントは、スペインとフランスのGPにだけ優勝していました(途中リタイアも4回と多く、不安定な走りと言えそうです)。



 それで、ドイツGPですが、その会場のニュルブルリンクは、元々「墓場と呼ばれる世界一危険なサーキット」の上に、当日は悪天候で路面が濡れて危険な状態でした(注3)。
 レース前の集会で、ニキは、レースの中止を提案しますが、ハントは、「追い付くためのポイントが減るから、お前はいいだろう」と批判。それに対して、ニキは「このサーキとでは俺が誰よりも断然早いのだ、その俺が中止を提案している」と言うと、ハントは「それじゃあ勝負しよう」と挑戦的な態度に出、ほかのレーサーもハントに同調するものが多く、ニキの提案は退けられてしまいます。
 それで、レースは決行されます。
 さあ、レースの結果はどうなるでしょうか、ハントとニキとの関係はどうなるでしょうか、………?

 本作に登場するジェームズ・ハントはイギリス出身で、プレイボーイとして享楽的な生活を送り、レースでは感覚を重視して車を操縦しますが、他方のニキ・ラウダはオーストリア出身で、絶えず車や家族のことを考えている地味な人物であり、レースでもむしろ合理性をもって車を操縦するなどというように、随分と対照的に描かれています(注4)。
 ラストでは、日本の「富士スピードウェイ」での死闘が描かれるなど興味深いレースシーンが多々映し出されるとはいえ、実話に基づいている作品にしては、人物造形が単純なのではと思ってしまいました(注5)。

(2)本作では、個別のレースの勝ち負けもさることながら、むしろワールドチャンピオンにどちらがなるかということの方に関心が向けられています。
 なにしろ、1976年のシーズンの最終戦までの二人のポイントの差はわずか3点なのですから(注6)!

 ここで興味がわくのは、素人的にはF1のポイントシステムです。
 映画の中では詳しく触れられていませんが、劇場用パンフレットやネットの記事によれば、あらまし次のようです。
 本作が描かれている時点(1976年)においては、各レースにおいて、1位から6位までが入賞で、ポイントは10-6-4-3-2-1点(注7)。
 ただ、本年からは(注8)、1位から10位までが入賞で、ポイントは25-18-15-12-10-8-6-4-2-1点となり、かつ最終戦のみポイントが2倍になるとのこと(注9)。

 ところで、F1のように、ポイントシステムによって世界チャンピオンを決めるスポーツは様々なものがあります。

 例えば、プロテニス
 現在、ラファエル・ナダルが1位で、日本の錦織圭が21位の「男子ATPランキング」(3月3日現在)では、例えばウィンブルドン選手権などの4大大会(グランドスラム)で優勝すると2000点獲得できるなど(ATPエントリーランキングの場合)、大会ごと、順位ごとにポイントの配分が定められています。

 また、プロゴルフ。
 現在、タイガー・ウッズが1位のワールドランキング(松山英樹が22位、石川遼は83位)については、なかなか複雑でよくわかりませんが、この記事によれば、大会ごとにポイント(イベントレーティング)が与えられ、さらにその大会の順位によって配分されるポイントが決められる、ということになっているようです。

 それに、スキージャンプ・ワールドカップもあります。
 ただ、こうした報道の仕方だと、優勝回数の多さをもって高梨沙羅が総合優勝したような感じを受けますが、ここでもポイントシステムが導入されています。

 高梨選手は、ソチ五輪でメダルを取れなかったことが大きく言われていますが、そんな4年に1回の単発のものよりも、ワールドカップで2連覇を果たしたことの方が実に素晴らしいことではないでしょうか?
 また、ゴルフの場合は、ワールドランキングよりも獲得賞金額の順位の方に皆の関心が集まります。
 F1の場合、各レースの賞金額は明らかにされていませんし、ましたオリンピックのようなものはないのですから、ワールドランキングが果たす役割は大きいものがあるように思われます。

(3)渡まち子氏は、「F1で熾烈なライバル争いを繰り広げたラウダVSハントの戦いを描く「ラッシュ プライドと友情」。対照的な二人が互いに認め合う姿にグッとくる」として65点をつけています。
 前田有一氏は、「勝ち組負け組などと、勝敗を単純に決めつけようとする現在の風潮にアンチテーゼをぶつける、そこにこそ本作最大の価値がある。それを認識した上で、ぜひ見に行っていただきたい。そうすれば、めったにない男たちの奇跡的なドラマを味わうことができるだろう」として70点をつけています。
 相木悟氏は、「思わず胸がヒートアップする、痛快な疾走型ヒューマン・ドラマであった」と述べています。



(注1)優勝91回、ワールドチャンピオン7度などのF1記録を持つミハエル・シューマッハが、昨年末のスキー事故により生死の間を彷徨っているというのは(例えば、この記事)、とても残念なことです。

(注2)本作に出演する俳優の内、クリス・ヘムズワースは『キャビン』、ダニエル・ブリュールは『コッホ先生と僕らの革命』、オリヴィア・ワイルドは『スリーデイズ』、アレクサンドラ・マリア・ララは『最終目的地』で、それぞれ見ました。

(注3)ニュルブルリンクは、当初悪天候だったものの、次第に天候が回復。それで、タイヤをウエットから交換するため、ニキはピット・イン。後退した順位を挽回すべくスピードを上げていった時に、大トラブルに巻き込まれます(ハントも、ニキト同じようにウエット・タイヤを使用しますが、タイヤ交換したのは終り近くなってから)。

(注4)家族についても、ニキは、献身的に尽くしてくれるマルレーヌアレクサンドラ・マリア・ララ)と結婚するのに対し、ハントは、スーパーモデルのスージーオリヴィア・ワイルド)を妻にしますが、ハントの奔放な行動は少しも収まらないために不仲となり、スージーは俳優のリチャード・バートンに走ってしまいます。

(注5)ニキは、どこまでも冷静沈着で職人的な人間のように描かれますが、あくまでもF1レーサーなのですから、ハントと同様な勝負師の側面も合わせ持っていたことでしょう。
 ハントについては、レース前に嘔吐してしまったり、セキセイインコを飼っていたりと、本作では、奔放なだけでなく繊細な面も描かれますが、そればかりでなく各レースでは2時間近く超高速で車を走らせるわけですから、合理的なドライビングテクニックや、他に勝る忍耐心なども要求されるものと思われます。

(注6)1976年5月に行われたスペインGPで1位だったハントが、規則違反で失格扱いだったところ、2カ月後その処分は取り消され、ポイント10点が復活したことが大きいと思われます。

(注7)最終戦の「F1世界選手権イン・ジャパン」(映画の中では「Japanese Grand Prix」とされていますが、そう呼ばれるようになったのは翌年以降のようです)では、ニキが途中リタイアで0点だったのに対し、ハントは3位で4点を獲得したために、1点差でハントが1976年のワールドチャンピオンになります。

(注8)本年は、3月16日のオーストラリアGPから11月23日のアブダビGPまで19戦が戦われ、日本GPは10月5日に鈴鹿サーキットで開催されます。

(注9)このポイントシステムが、1976年当時導入されていれば、仮に最終戦までの得点差が3点である場合、ハントは9位入賞するだけでワールドチャンピオンになれたでしょう!



★★★☆☆☆



象のロケット:ラッシュ プライドと友情


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ふじき78)
2014-03-10 22:52:58
> 随分と対照的に描かれています

これはより分かりやすくする演出により強弱を強めたようなことはあったのではないかと思いますが、共通する根本部分(精密かつギャンブラー)は観ていて自然に分かるので、ああいう描き方でよかったかと思います。最終的によりニキ的な部分、よりハント的な部分によって人生が変わっていった事は映画を観る限りにおいては明らかだと納得できるので。
Unknown (クマネズミ)
2014-03-11 06:07:00
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「より分かりやすくする演出により強弱を強めた」のだと考えます。ただ、映画からは、特にニキのギャンブラー精神なるものが伝わってこない気がしたもので、こうした書き方をしてしまいました。
車に乗って図に乗って  (zebra)
2015-11-20 21:11:06
クリボー(→クリス・ヘムズワース)Vsダニ二郎(→ダニエル・ブリュール)の対決や~(いったい どういうあだ名の付け方じゃい)

ホント相容れないのよ・・・お前がスキーに行くなら オレはスノボじゃい、みたいな・・・反発しまくりやん(ライバル同士ならよくあるパターンやな)

自信満々のクリボー、 ダニ二郎を"ねずみ男"と こきおろすが すかさず

ねずみは嫌われるが 生存本能か優れてて頭もいいんじゃあ ボケェ~ とうまく切り替えすとは, 大人だねえダニ二郎(まっ、よくある売り言葉に買い言葉だわなあ~)


けど その割にはクリボーも レース前には 女の子とヤリまくり、ライターをカチカチいじりまくり、戻しまくりやし・・

ヤリチン男ですよ・・・ピストン男ですよ・・・ズ〇ズ〇ズ〇ズ〇(レース以上に疲れるぅ~)

カチカチ男ですよ・・・カチカチカチカチ(指痛ってえ~)

ゲロも 戻しまくりですよ・・・ゲロゲロゲロゲロ(カエルかい!)

おまけに 気持ちのすれちがいで妻のオリ美(→オリヴィア・ワイルド)との離婚・・・

ほかの男に鞍替えかい!ヘッドハンティングされたんかい!

オレのほうが床上手って誘い文句受けたんかい!

高価な指輪やネックレスにつられたんかい!おんどりゃ!
 
記者会見でも 「まぁ、金がかからなくなってよかったよ、」と強がってやんの! 内心はイライラしてんのにぃ~

男は周りに弱み見せたら あかんのじゃ、ってカンジ!

意地と見栄はっとるのぉ~ クリボー、

そっからスイッチの入ったクリボーは 勢いを盛り返してゆくのよ! 

ダニ二郎にポイントの差を縮めてゆくのよ!

学校のテストの終業ベルの間際の追い上げみたいにネ!

勢いに乗りに乗り出したクリボーは 雨の状況を見て慎重なダニ二郎に 「フン、臆病者が」と挑発するクリボー

 クリボーに煽られた ダニ二郎・・・やったるわとレースに出た(このコースはあぶねえって 言うとるのによぉ~~)

・・が クラァ~ッシュ! クラッシュ! クラッシュ!

 今まで 勢いに乗って調子に乗りまくってたクリボーが 自責の念だよ (こーゆーヤツって オレには知ったこっちゃないぜえと言いそうなのにな)

しっかし ここからダニ二郎の見せどころ すっげえ~

苦しい手術に耐えて 復帰したばい!(・・・どこの方言じゃ)

俺に牧師はいらんわ~ララ江(→アレクサンドラ・マリア・ララ 妻役)を呼べや~ オレは生きとるんぞ~ 勝手に殺すなボケぇ~ 

事故からたった42日でレースに復帰って・・・すっげえ生命力

 これじゃあ ねずみやダニじゃなくて ゴキブリみてえな生命力だわな~(→失礼、ホメてます)

富士スピードウェイでの決勝も またしても豪雨だったので ダニ二郎 今度は途中リタイヤ(同じ失敗は繰り返さんのじゃな)

一方、クリボーは 危険な雨の中でもレースを続行

チーム陣営も 自分を大切にしろと忠告をしたが・・・

 あれだけダニ二郎を挑発しといて いまさら自分も安全をとってリタイアしようなんざぁ 筋通らんわな~ 

これで逃げたら 男が廃るってモンだわなあ~ 

たとえダニ二郎の二の舞で事故っても 受け入れる覚悟せんとな~


で、クリボー 見事走り切って優勝か・・・(ライバル同士って そうなのかもね)

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