『キャプテン・フィリップス』を吉祥寺のバウスシアターで見てきました。
(1)予告編を見て面白いのではと思い映画館に出かけてみました。
本作の冒頭は、2009年の3月28日、バーモント州アンダーヒルにある主人公のフィリップス船長(トム・ハンクス)の自宅。
彼は、勤務先のマースク社の海員証や船長予定表といった必要書類等をカバンに詰め、車に載せます。そして、妻(キャサリン・キーナー)と一緒に空港に向かいますが、車の中で、妻が「歳をとると家を守るのも辛くなる」とこぼすと、彼も「出かける方もね」と応じ、さらに子どものことを心配しますが、妻は「わかるけど、うちは大丈夫よね」と言ったりします。
空港に着くと、妻は「気をつけて」と言い、フィリップス船長はいつものように、船のある港に向かって出発していきます。
今回は、中東オマーンのサラーラ(オマーン第2の都市)。そこからケニアのモンバサまで、援助物資などを積んだコンテナ船マースク・アラバマ号(アメリカ船籍)を航行させることになります(4月1日)。
ところが、フィリップス船長及び20人の船員が乗るマースク・アラバマ号がソマリア海域に入ると、不審なボートに追尾され、様々の防衛行動を取るも、ついに武器を持った4人のソマリア人海賊に船は乗っ取られてしまいます(注1)。
いったい、フィリップス船長以下の乗組員は、どうやってこの窮地を脱出するのでしょうか、………?
最新の銃器を持っている海賊に襲撃される可能性が高いにもかかわらず、なんの武器も持たずに(あるいは、警備員を置かずに)危険な海域にどうして船が入り込んでしまったのか、などよくわからない面もありますが、アクション映画として最後まで観客の手に汗を握らせ、なかなか良く出来た作品ではないかと思いました。
本作は、ソマリア人海賊に扮した4人の俳優(注2)や、シェイン・マーフィー(一等航海士)に扮したマイケル・チャーナスなどがそれぞれ好演しているとはいえ、やはり主役のトム・ハンクスの一人舞台といってもよいくらいその演技は傑出し、感動的です(注3)。
(2)大層面白い作品とはいえ、初めの内どうしても気になってしまうのが、上で申し上げたことながら、そして皆さんが指摘していることながら(注4)、マースク・アラバマ号は、危険な海域に入り込むことがわかっているにもかかわらず、なぜ武器を何一つ持っていなのかという点です(注5)。
海賊がボートに乗って接近してくる時、特にハシゴをかけて船腹を登ってくる時などは、海賊側は大きな波に揺られているのですから、マースク・アラバマ号の方から発砲すれば、彼らを撃退するのはそれほど難しいことではなかったのではと、素人ながら思えるところです。
でも、劇場用パンフレット掲載の「Production Notes」によれば、「海賊に襲撃された時、アラバマ号は武装していなかった」が、「結局、アラバマ号襲撃が業界に変化をもたらし、マークス社やその他の海運会社は、危険性が極めて高いルートでは武装した警備員(その多くは元海軍SEAL隊員)を船に乗せるようになった」とのことですから、この時点では仕方がなかったのかもしれません。
もう一つは、4人のソマリア人海賊と一緒にフィリップス船長までもが救命艇に閉じ込められて、結局、彼は海賊の人質になってしまったのはどうしてなのか、という点でしょう。なにしろ、アラバマ号の船員の活躍によって海賊のリーダーを捕まえたのですから、事件はそのまま無事に解決してもよかったところなのです。
ただ、この点については、劇場用パンフレットの「Highlights of the film」によれば、「船長自身、自らの著書で「間違いを犯した」と言っているシーン」とのことであり、さらにまた「フィリップ船長は一刻も早く海賊たちをマースク・アラバマ号と船員たちから引き離す必要があった」という事情もあったようです。
(3)渡まち子氏は、「圧巻はクライマックスのハンクスの演技だ。緊張感がマックスに達し、二度と会えないかもしれない家族への思いや、恐怖心が爆発するその場面には圧倒された」として75点をつけています。
相木悟氏は、「観始めたら最後、2時間14分緊張しっ放しのノンストップ・ムービーであった」と述べています。
(注1)本作では、ソマリアの海賊の村エイルの様子も描かれます。
海岸で男たちがたむろしているところに、突然何台もの車が到着し、その中から出てきた者が、男たちに向かって「ボスは今金が要るんだ。海へ出ろ」、「船に乗る者を集める、でかく稼げるぜ」と叫びます。それに応じて男たちが集まりますが、その中から、後でマースク・アラバマ号を乗っ取ることになる4人を含めた者が選別されます。
(注2)劇場用パンフレット掲載に「Production Notes」によれば、「アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスにある、アメリカで最大規模のソマリア系アメリカ人コミュニティー」に行って、オーディションで選んだとのこと。
(注3)トム・ハンクスについては、最近では、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を見ています。
(注4)例えば、劇場用パンフレットに掲載のレビューで、田原総一朗氏は、「意外だったのは、ああいう民間の船って海賊とかに備えてもっと武装しているかと思っていたら、実はそうではない」と述べています。
また、同パンフレット掲載の原作者インタビューにおいて、著者リチャード・フィリップスは、「あれは私が近年航行する中で、初めて乗った武装していない船だった。他の船には大抵いくつかの武器が備わっている」と述べています。
(注5)一応は、アラバマ号は、一斉放水によって水のカーテンを作ったり、また周囲に大きな波を引き起こしたりして、妨害工作は行うのですが。
★★★★☆
象のロケット:キャプテン・フィリップス
(1)予告編を見て面白いのではと思い映画館に出かけてみました。
本作の冒頭は、2009年の3月28日、バーモント州アンダーヒルにある主人公のフィリップス船長(トム・ハンクス)の自宅。
彼は、勤務先のマースク社の海員証や船長予定表といった必要書類等をカバンに詰め、車に載せます。そして、妻(キャサリン・キーナー)と一緒に空港に向かいますが、車の中で、妻が「歳をとると家を守るのも辛くなる」とこぼすと、彼も「出かける方もね」と応じ、さらに子どものことを心配しますが、妻は「わかるけど、うちは大丈夫よね」と言ったりします。
空港に着くと、妻は「気をつけて」と言い、フィリップス船長はいつものように、船のある港に向かって出発していきます。
今回は、中東オマーンのサラーラ(オマーン第2の都市)。そこからケニアのモンバサまで、援助物資などを積んだコンテナ船マースク・アラバマ号(アメリカ船籍)を航行させることになります(4月1日)。
ところが、フィリップス船長及び20人の船員が乗るマースク・アラバマ号がソマリア海域に入ると、不審なボートに追尾され、様々の防衛行動を取るも、ついに武器を持った4人のソマリア人海賊に船は乗っ取られてしまいます(注1)。
いったい、フィリップス船長以下の乗組員は、どうやってこの窮地を脱出するのでしょうか、………?
最新の銃器を持っている海賊に襲撃される可能性が高いにもかかわらず、なんの武器も持たずに(あるいは、警備員を置かずに)危険な海域にどうして船が入り込んでしまったのか、などよくわからない面もありますが、アクション映画として最後まで観客の手に汗を握らせ、なかなか良く出来た作品ではないかと思いました。
本作は、ソマリア人海賊に扮した4人の俳優(注2)や、シェイン・マーフィー(一等航海士)に扮したマイケル・チャーナスなどがそれぞれ好演しているとはいえ、やはり主役のトム・ハンクスの一人舞台といってもよいくらいその演技は傑出し、感動的です(注3)。
(2)大層面白い作品とはいえ、初めの内どうしても気になってしまうのが、上で申し上げたことながら、そして皆さんが指摘していることながら(注4)、マースク・アラバマ号は、危険な海域に入り込むことがわかっているにもかかわらず、なぜ武器を何一つ持っていなのかという点です(注5)。
海賊がボートに乗って接近してくる時、特にハシゴをかけて船腹を登ってくる時などは、海賊側は大きな波に揺られているのですから、マースク・アラバマ号の方から発砲すれば、彼らを撃退するのはそれほど難しいことではなかったのではと、素人ながら思えるところです。
でも、劇場用パンフレット掲載の「Production Notes」によれば、「海賊に襲撃された時、アラバマ号は武装していなかった」が、「結局、アラバマ号襲撃が業界に変化をもたらし、マークス社やその他の海運会社は、危険性が極めて高いルートでは武装した警備員(その多くは元海軍SEAL隊員)を船に乗せるようになった」とのことですから、この時点では仕方がなかったのかもしれません。
もう一つは、4人のソマリア人海賊と一緒にフィリップス船長までもが救命艇に閉じ込められて、結局、彼は海賊の人質になってしまったのはどうしてなのか、という点でしょう。なにしろ、アラバマ号の船員の活躍によって海賊のリーダーを捕まえたのですから、事件はそのまま無事に解決してもよかったところなのです。
ただ、この点については、劇場用パンフレットの「Highlights of the film」によれば、「船長自身、自らの著書で「間違いを犯した」と言っているシーン」とのことであり、さらにまた「フィリップ船長は一刻も早く海賊たちをマースク・アラバマ号と船員たちから引き離す必要があった」という事情もあったようです。
(3)渡まち子氏は、「圧巻はクライマックスのハンクスの演技だ。緊張感がマックスに達し、二度と会えないかもしれない家族への思いや、恐怖心が爆発するその場面には圧倒された」として75点をつけています。
相木悟氏は、「観始めたら最後、2時間14分緊張しっ放しのノンストップ・ムービーであった」と述べています。
(注1)本作では、ソマリアの海賊の村エイルの様子も描かれます。
海岸で男たちがたむろしているところに、突然何台もの車が到着し、その中から出てきた者が、男たちに向かって「ボスは今金が要るんだ。海へ出ろ」、「船に乗る者を集める、でかく稼げるぜ」と叫びます。それに応じて男たちが集まりますが、その中から、後でマースク・アラバマ号を乗っ取ることになる4人を含めた者が選別されます。
(注2)劇場用パンフレット掲載に「Production Notes」によれば、「アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスにある、アメリカで最大規模のソマリア系アメリカ人コミュニティー」に行って、オーディションで選んだとのこと。
(注3)トム・ハンクスについては、最近では、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を見ています。
(注4)例えば、劇場用パンフレットに掲載のレビューで、田原総一朗氏は、「意外だったのは、ああいう民間の船って海賊とかに備えてもっと武装しているかと思っていたら、実はそうではない」と述べています。
また、同パンフレット掲載の原作者インタビューにおいて、著者リチャード・フィリップスは、「あれは私が近年航行する中で、初めて乗った武装していない船だった。他の船には大抵いくつかの武器が備わっている」と述べています。
(注5)一応は、アラバマ号は、一斉放水によって水のカーテンを作ったり、また周囲に大きな波を引き起こしたりして、妨害工作は行うのですが。
★★★★☆
象のロケット:キャプテン・フィリップス
普通なら無事に生還したところで終わるが、この映画ではそのあとの結構長い健康診断のシーンがある。
そしてそれまでキャプテンとしての責任もあり驚くほど冷静沈着だったのに検診の場では緊張が解けたこともあり会話もまともにできないほど冷静さを失い身を震わせている。絶対この場面が圧巻のクライマックスだと思う。
この映画のネタバレをしないように、後半部分についてはほとんど言及しませんでしたが、おっしゃるように、最後の場面はいたく注意を引きました。
なお、フィリップス船長の検診を担当した女性乗組員は、本物の海軍病院の衛生兵だとか。
確かに銃社会アメリカの会社なのに、危険な海域を通行する船が武装していないってのは意外だなあって思いました。
あれなのかな、治外法権的なアレなのかなってw
でもそのあと武装した警備員を乗せるようになったんですね(^_^;)
こうなるとソマリアの海賊たちのリスクはさらに大きくなりそうだ~・・・もっとすごい武器を海賊が購入するか、他の国の非武装商船を襲うかどっちかになりそうですね。あ、廃業という選択もあるけど、将軍が「いけ!」っていいそう・・・
おっしゃるように、西側の船が武装すれば、「もっとすごい武器を海賊が購入する」ことになって、事態はもっと悲惨なことなるのかもしれません。例えば、海賊側が小型ミサイルを携行するようになれば、今回のような救出作戦をとることには大きなリスクが伴ってしまうでしょう!
オオ事になっちゃったから、やらざるを得なくなっちゃったけど、案外「食い逃げされてもバイトは雇うな」みたいに対費用効果が悪いのかもしれない。そういう事をしなくても航路を注意するとかで確率下げられるのだし(海賊が横行する航路を選んだミスはあるらしいです)。
案外、軍関係の武器業者が商船への武器購入キャンペーンを行なわせる為にフィリップス船長にわざと捕まるような指示が与えられてたりして。
おっしゃるように、武装した警備員を乗船させることの「対費用効果が悪い」のかもしれません。
それに元々、身代金は保険会社の方から支払われるようでもありますから、今回のような場合には、何も米軍が出動せずとも、早いところ身代金を支払うことにすればよかったとも思えてきます。あたら若いソマリア人が3人も命を落とさずに済むのですから。