映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

君の名は。

2016年09月16日 | 邦画(16年)
 『君の名は。』を新宿ピカデリーで見ました。

(1)本作は、3週目にして興収が62億円を超える大変なヒット作になっており、それではというので映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭は、雲を突き抜けて落下していく隕石のようなものが描き出され、「目が覚めると、何故か泣いている。そういうことが時々ある」、「見ていた夢は思い出せない」、「ただひたすら美しい眺めだった」、「ずっとまえから探している」などといったモノローグがあって、タイトルが流れます。

 三葉(声:上白石萌音)が寝ていると、目覚しが鳴ります。
 「瀧君、覚えてないの」との声がして、驚いた三葉は飛び起きます。
 それから自分の乳房を触ったりして訝しんでいると、妹の四葉が起こしに現れ、「お姉ちゃん、何してんの?」と尋ねます。三葉は「すごく女っぽいなって思ったりして」と答えると、四葉は「何言ってるの?ご飯よ」と言います。
 三葉は立ち上がって鏡に映る自分の姿を見て、「えーっ」と驚きます。



 場面は変わって、四葉が朝食の準備をし、三葉が「明日は私が作る」と言うと、祖母の一葉(声:市原悦子)が「今日は普通ね」と言い、3人は食事をします。
 町内放送の拡声器から「朝のおしらせ。糸守町の町長選挙について」云々の声が流れ、またTVのニュースでは、「1ヶ月後に、1000年間に一度のティアマト彗星が現れます」と言っています。
 祖母と三葉とが口を利かないので、四葉が「いい加減に仲直りしたら」と言うと、三葉は「大人の問題」と応じます。

 2人は、家を出てそれぞれの学校に行きます。



 途中で、クラスメートから「三葉、今日は髪、ちゃんとしてるね」とか、「おばあちゃんにお祓いしてもらった?」などと言われ、三葉は「何の話?」と不思議がります。
 さらに、父親が町長選挙の演説をしているところに遭遇します。父親は三葉を見つけると、「宮水三葉、胸張って歩かんか!」と怒鳴るので、三葉は「こんな時ばっかり」と嫌な顔をします。

 高校の教室に入ってノートを開くと、「お前は誰だ」と書いてあり、三葉は覚えのないことなので訝しがります。

 こんな風に物語は始まりますが、さあこれからどのように展開していくのでしょうか、………?

 本作は、『ほしのこえ』の新海誠が制作したアニメ作品。山深い田舎町に暮らす女子高校生と東京で暮らす男子高校生とが、自分たちが入れ替わっていることに気が付き、その入れ替わりが何度も起こるうちに、ある大変な事実(3.11のことが踏まえられているのでしょう)に気がついて、なんとかそれによる被害を免れようとする物語。主題歌等の音楽が上手く物語にマッチしていて、大層幻想的でロマンティックな盛り上がりに、見ている方は否が応でも 感動してしまいます。

(2)本作は、新海誠監督の前作の『言の葉の庭』と関係が深いように思われます。
 例えば、前作の舞台は専ら新宿御苑ですし、本作におけるヒーローの(声:神木隆之介)がうろつくのも新宿やその周辺の四谷、代々木といったところです。



 そればかりか、前作における雨の新宿御苑の情景がことのほか素晴らしかったのと同じように、綺麗な空に描き出される彗星の美しい光景が卓越しています。



 また、前作では、『万葉集』に掲載のよみ人知らずの歌が、高校の女性教師ユキノと高校生タカオとの絆の一つになりますが(注2)、本作においてそれに相当するのは、宮水神社のご神体に奉納されている「口噛み酒」かもしれません。何しろ、瀧がその「口噛み酒」を飲むと、ストップしていた入れ替わりが起き、クライマックスに向けて物語が大きく展開するのですから(注3)。
 それに何よりも、前作のユキノ先生が、本作においても「ユキちゃん」先生として登場し(注4)、三葉たちのクラスで同じように『万葉集』を教えています(注5)。

 あるいは、その前の新海誠監督の作品とも、様々なつながりを見ることもできるでしょう(注6)。

 そして、本作では、そうした過去の作品とのつながりを上手く飲み込みながらも、これまでの作品に見られないような壮大な規模の物語が展開するので、見る方は心底驚いてしまいます。
 一つ目は、3年という時を隔ててヒーローの瀧とヒロインの三葉が入れ替わりをするのです。
 二つ目は、その3年というタイムラグを利用して、ヒーローとヒロインが、想定外の自然の大災害がもたらす惨事から人々を救出します。

 見ている最中は、どうして瀧と三葉の入れ替わりが起きるのだろうとか、大災害に遭遇した糸守町はどうなってしまったのだろうなどと思ったりしてしまいました。
 でも、瀧と三葉とが単に入れ替わるというのではなく、宮水神社の神主の家柄である宮水家の三葉の方からの何らかの働きかけによってこうした入れ替わりが起きていて、三葉が死ぬと入れ替わりが起こらなくなってしまうとすれば、分かる感じがしてきます(注7)。
 また、大変な災害に遭遇したはずの糸守町の人々がどうなってしまったのか直接的に描かれてはいないとはいえ、なにしろ、ハッピーエンドを見るだけでも想像がつくというものです(注8)。

 こうした壮大でファンタジックな物語展開の中でヒーローとヒロインを巡るラブストーリーが描かれるのですから、これはまさにアニメを見る醍醐味といえるのではないか、と思ったところです(注9)。

(3)渡まち子氏は、「わけもなく涙が流れ、何かを失いたくないと切望し、大切な何かが心に蘇る。この映画は、今の時代を生きるものたちへの、力強くて優しいエールだ。ビジュアル、ストーリー、メッセージ。すべてにおいて日本のアニメーションの底力を見せつけた傑作である」として85点をつけています。
 村山匡一郎氏は、「新海監督の作品には宇宙や星の題材が多いが、本作の彗星シーンの光の美しさは驚嘆に値すると同時に、論理的説得力を超えたファンタジー・アニメの魅力にあふれている」として★4つ(「見逃せない」)をつけています。
 北小路隆志氏は、「若い世代から熱い支持を受ける新海誠の最新作は、独自の世界(恋愛)観を全面展開させた良質の娯楽作品にして、彼の仕事の集大成とも呼び得る力作だ」と述べています。



(注1)監督・原作・脚本は、『言の葉の庭』の新海誠

(注2)『言の葉の庭』についての拙エントリの「(2)」を参照してください。

(注3)『シン・ゴジラ』において矢口が指揮する「ヤシオリ作戦」の名前の由来である日本神話の「八塩折之酒(やしおりのさけ)」を思い出しました(同作についての拙エントリの「(2)ハ)」を参照してください)。

(注4)両作とも同じ声優・花澤香菜が務めています。

(注5)「ユキちゃん」先生は、『万葉集』の「誰そ彼と われをな問ひそ 九月(ながつき)の 露に濡れつつ 君待つわれそ」(この記事を参照)を黒板に書いて、「誰そ彼」とは「黄昏」で、「たそがれ時」とは彼が誰だかわからなくなる時間であり、「カタワレ時」(「彼は誰そ」)とも言います、などと教えています。
 なお、『言の葉の庭』のユキノ先生の女の部分は、本作における奥寺先輩(声:長澤まさみ)に引き継がれているのかもしれません。

(注6)例えば、『秒速5センチメートル』(DVDで見ました)の第3話「秒速5センチメートル」では、中学の頃お互いに想い合っていたにもかかわらず告白できなかったヒーロー(遠野貴樹)とヒロイン(篠原明里)とが踏切ですれ違い、ヒーローがすれ違ってから確かめようと振り返ると、電車が通過し、その後にはヒロインの姿はありません。こうしたシーンは、本作でも、歩道橋などで瀧と三葉がすれ違ったりするところで見受けられます。
 また、本作における瀧と三葉は同じ年頃の高校生ですが、入れ替わりが起こると3年のズレがあります。これは、新海監督の『ほしのこえ』(DVDで見ました)で、同い年のミカコノボルが、ミカコが異星人との戦いで何光年も先の宇宙にいってしまったために、24歳のノボルが当時のままの年齢のミカコからメールを受け取ることになる事態と類似しているように思います。

(注7)三葉の祖母の一葉が、それらしいことを言っていたように思います。

(注8)実際の場面は描かれていませんが、避難訓練中で町民は助かったという新聞記事のことは映画の中で描かれていました。

(注9)とはいえ、お互いに面と向かって会ってもいない者同士(瀧と三葉)が惹かれ合って互いを強く求めるというのは、恋愛物としてどうかなという気もしてきます。
 でも、よく「運命の赤い糸」と言われますし、本作においては、宮水家に作り方が伝わる「組紐」が重要な働きをします。

 また、上記「注8」のことは、3年前の過去にタイム・トラベルして(瀧が三葉の体に入り込むことによって)、糸守町が全滅してしまうという実際に起きた事態をなかったことにしてしまうことからもたらされる結果でしょう。
 ただ、過去を書き換えてしまうと、現在がかなり違ったものになってしまうと考えられるところです。ですが、糸守町が田舎のごく小さな町であることもあり、過去の書き換えがもたらす現在の相違もそれほど目立つものではないのではなどと、本作の持つ圧倒的な力によって展開を自然に受け入れてしまいます。



★★★★☆☆



象のロケット:君の名は。


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6 コメント

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Unknown (atts1964)
2016-09-17 07:38:40
新海監督の作品、旧作は劇場で鑑賞していないので、劇場初鑑賞でした。
やっぱりさすがの映像の精巧さと美しさ、今回は脚本もよく仕上がっていましたし、待ちに待った全国的大ヒットです。
アニメ界の新たな軸が出来たことにも、いいことだと思います。
こちらからもTBお願いします。
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Unknown (クマネズミ)
2016-09-17 08:14:27
「atts1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
新海監督の旧作はDVDでも味わい深いと思いますが、今回のような大作ならば、やっぱり劇場で見て、おっしゃるように「映像の精巧さと美しさ」を堪能すべきなのかなと思います。
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Unknown (ふじき78)
2017-08-21 20:15:27
あっ、この映画で一番感動した「おっぱい」について何も触れられていない。やはり映画は人それぞれだなあ。
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Unknown (クマネズミ)
2017-08-22 05:05:14
「ふじき78」さん、TB&コメントを有難うございます。
必ずや「ふじき78」さんが触れてくれるに違いないと推測し、重複を避けるために、あえて触れるのを断念いたしました(?!)。
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Unknown (ふじき78)
2017-08-22 23:51:50
みんな、もっとおっぱいに触れようよ。
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Unknown (クマネズミ)
2017-08-23 05:39:25
「ふじき78」さん、再度のコメント有難うございます。
でもそんなことをしたら、痴漢行為を働いたとして逮捕されてしまいます!
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