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リミット

2010年11月21日 | 洋画(10年)
 予告編で見て面白そうだと思い、『リミット』を見に渋谷シネセゾンに行ってきました。

(1)物語は、イラクでトラック運転手をしていたポール・コンロイが、テロリストに誘拐されて、棺の中に押し込められ、砂漠に埋められたのですが、その棺の中でコンロイが目を覚ますところから始まります。
 といって、映像は一度もその外に出ることはなく、そこから終わりまで90分間、すべてこの棺の中のシーンなのです(「ワン・シチュエーション・スリラー」というようです)。
 ごく短い時間だけ携帯電話の画像に登場する女性はいますが、あくまでも登場人物はポール・コンロイただ一人。従ってキャストといっても、そのポール・コンロイに扮するライアン・レイノルズだけで、残りは声のみの登場です。
 こんな極端な設定の映画ですから、単調で退屈するかと思いきや、そこは様々の手を使って観客の興味をつないでいくので、90分間飽きることはありません。

 全体的な状況としては、誘拐犯の方は、コンロイを棺に閉じ込めておくことによって、逃亡を防ぐだけでなく、指示に従わないと砂の中に埋めてしまうという脅しをかけることができます。というのも、棺の中で確保されている空気の量には限りがあり、コンロイの方も悠長にしてはいられませんから。
 それに、室内に監禁する場合と比べて、砂の中に埋められた棺の中には、外界の物音がほとんど侵入してきませんから、おのずと誘拐犯の命令に集中することになってしまいます。

 より個別的な点では、誘拐犯は、棺の中に、携帯電話、ジッポーライター、ナイフ、ウイスキーの入った小さな容器、鉛筆、懐中電灯といった必要最小限のものを置いています。
 要するに、これらのものを駆使して、誘拐犯の要求を関係者に伝え、一定の時間までにそれを実現させろ、ということでしょう。
 そこで、コンロイはアチコチに電話をかけまくりますが、肝心の彼の妻はズット外出中だっりして、なかなか思うように行きません。
 一体全体、彼はうまく救出されるのでしょうか、……。

 なかなかうまい設定で、最後まで息が吐けません。
 ただ、これだけ同じ状況を長く見せられているとイロイロな疑問が浮かんできてしまいます(誰しも考えることに過ぎませんが)。
・携帯電話が十分通じる深さのところに埋められているわけで(数十センチとされています)、だとしたらナイフを使って棺の一部を壊して(粗末な板で作られた箱に過ぎなさそうですから)、そこを梃子にしてなんとか地上に脱出出来ないものでしょうか?
・特に、途中で、蛇が棺の中に入り込んできますが、コンロイはそれを外に追い払うことだけに夢中になってしまうところ、蛇が逃げ出した穴の先は、狭いにしても脱出口になるのではないでしょうか(蛇は自由に地上と行き来をしているはずでしょうから)?

 そして一番分からないのは、ラストのシーンです(ここからはネタバレになってしまいますのでご注意下さい)。
 携帯電話から発信される電波によって、コンロイの位置がアメリカの救出班の方で確認され、埋められている附近が空爆されます。
 ただ、その衝撃によって棺の一部が壊され、ドンドン砂が上から落ちてきて、コンロイは砂に埋まっていきます。
 こに、救出班から「今助ける」との連絡が入り、砂にかなり埋まってしまっているコンロイも、期待に胸をふくらませます。
 ですが、突然、「間違えた、マーク・ホワイトの棺だった、すまない」との連絡がコンロイに入って、それでおしまいなのです。

 クマネズミは、最初は、一大悲劇を見せられたという気分になり、その衝撃で声も出ませんでした。なにしろ、あれだけ棺の中で格闘したにもかかわらず、結局は生き埋めになってしまうのですから。
 また、クマネズミは、最初は、この映画は、人質救出のための訓練状況を描いたもので、最後になれば、“すべて訓練だった”という種明かしがなされるのでは、とタカを括っていました。
 ですから、コンロイが砂に埋まっていくのを見ていながら、酷く戸惑ってしまいました。

 ただ、暫くすると、「マーク・ホワイト」で誰だっけと思い直し、そう言えば、最初の頃、FBIが救出したことのある人質の名前として言われていたのではなかったか、と思い出します。
 そうだとすれば、何でこんなところにその名前が飛び出すのでしょうか?
救出班は、別の場所に埋められていた別の人物の棺を開けたということなのでしょうか?
 ですが、コンロイの携帯電話の電波から場所が特定されたとしたら、場所のズレはそれほどあるとは思えないところです(最新の技術では、数メートルの誤差では?)。
 また、マーク・ホワイトは既に救出されて大学に通っていることになっていたはずです。あるいは、その情報は、コンロイを勇気づけるために、電話口の担当者がでまかせをいったのでしょうか?
 あるいはそうかもしれません。人質で救出された者のことをそのような符号で言っていたのかも知れません(今回も、救出班が救った人なのですから、マーク・ホワイトなのでしょう)。
 ただ、別の場所で別の人物が救出されたとしても、コンロイはどうして砂に埋まっていくのでしょうか?誰かが掘り出そうとしているからこそ、棺が次第に壊れていくのではないでしょうか?
 仮に、そうではないとしても、地下数十センチのところに埋められているだけで、そして棺が半ば壊れかかっているのであれば、コンロイは自力で脱出できるのではないでしょうか?

 意表を突くシチュエーションで、それだけで十分に見応えがある作品だとは思うものの、細部にヤヤ難点があるのではと思ったところです(一体、彼は助かったのでしょうか、ダメだったのでしょうか?)。

(2)受ける印象が、『フローズン』となんとなく似ているのではと思いました。
 一方は、ストップしてしまったスキーリフトの上、他方は砂の中に埋められた棺の中と、非常に厳しい状況に置かれ(「ワン・シチュエーション」!)、そこからの脱出も、一方は地上15メートルの高さと狼の群れのために、他方は周りが砂で取り囲まれているために、それぞれ酷く困難なわけです。
 ただ、一方は、さらに携帯電話をロッカーに置いてきてしまい使えない状況ですが、他方はむしろ使えるようにそばに置いてあるという具合。とはいえ、これは誘拐犯の要求を伝達させるためのものであり、実際に自分の救出に使おうとすると、相手側がいなかったり、相手側がコンロイが置かれている状況をなかなか理解してくれなかったり、とうまくいきません。最後のシーンを見ると、むしろなかった方が良かったかもしれません。
 なお、『フローズン』と比べて思いついたのは、コンロイの場合、トイレの問題はどうなったのかという点です。ただ、今回の映画の場合、登場人物は一人の男性だけですが、他方の『フローズン』では女性が一人混じっていましたから、この問題がクローズアップされたのかもしれません!

 あるいは、『ソウ(SAW)』と比べてもいいかもしれません。
 主人公が置かれているのは、今回の映画では棺の中ですし、『ソウ』では密閉された浴室なのですから(それも、足首に鎖を嵌められて動ける範囲が限られているという状況を見れば、棺の中とほぼ同じでしょう)、「ワン・シチュエーション」という点からすると同じかもしれません。
 なにより、誘拐犯の過酷な要求にうまく答えられないと、置かれた状況から脱出できないのですから、両作品は類似していると言えるでしょう。
(それに、『リミット』では、コンロイが指を切り落としますが、『ソウ』でも、浴室に置かれた男の一人が足を切断します)
 ただ、『リミット』では、登場人物がコンロイ一人なのに対し、『ソウ』の方では、拉致された2人だけでなく、浴室には誘拐犯とか病院の雑役係なども登場するのです。もちろん、『リミット』でも、携帯電話の声を通して様々な人物が登場するものの、やはり画面には一人の男しか映っていないという点が重要なのではと思います。
 加えて、『リミット』では終始棺の中の映像しか映し出されませんが、『ソウ』の方では、拉致に至るまでの経緯などが詳細に映像で描き出されます(アマンダが拉致されて、首枷を外すために残虐なことまでしてしまう場面など)。
 結局のところ、両者を比べる意味はあまりないのではという気がします。

(3)前田有一氏は、「おそろしいほどに強烈かつ斬新な映画である。これほどに制限された舞台設定で、おもしろい映画を作る、おもしろい脚本を作るというだけでも大変なことなのに、そこに2010年の今、世界に公開するにふさわしい時代性豊かな社会派のテーマを盛り込んである。こんな離れ業ができる脚本家、映画監督がいったい世界中に何人いるだろう」として98点もの高得点を、
 渡まち子氏も、「究極の一人芝居で描く生き埋め脱出劇だが、緊張感が持続して、まったく退屈しない」、「何より、たった一人で過酷な環境の中で演じきったライアン・レイノルズの熱演が光った。ついでに、映画館にいながらにして閉所の息苦しさを味わえるという、困った面白さも」として80点の高得点を、
それぞれ与えています。



★★★☆☆



象のロケット:リミット


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4 コメント

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はじめまして。 (ビリー)
2010-11-28 10:51:02
(ネタバレのコメントなので注意)

はじめまして。
面白かったですね。

分かる範囲でお答えしますが、まず携帯の電波から場所を特定するという件は、クローン携帯だったため失敗しました。
場所が分かったといったのは、捕らえたシーア派のメンバーが「アメリカ人を埋めた場所を知っている」と吐いたためであって、それをコンロイの場所だと早とちりしてしまったわけですね。
ちなみにFBIではなくて国務省の対テロ担当で。

電話から「マークホワイトの箱だった」といわれたときは大変衝撃的でしたが、これは人質救出に成功した例がほとんどないことを示していると僕は解釈しています。
名前を言えば信用するといわれた担当者が救出者の名前を言えずに困り、比較的最近拉致され、名前・年齢・出身地・大学などを細かく把握しているマークの名を出したのではないでしょうか。
マークは符号とかではなく、亡くなっていると思います。
コンロイが大学に電話するなどしてマークの生存を確認しようとしなかったことに少し違和感がありましたが、まさかこんなオチとは思いませんでした。

あと、砂浜に埋まった経験がある人なら分かると思いますが、砂は重いものです。
10~20センチならともかく、50センチとかになれば自力での脱出は厳しいでしょう。
黙って埋まるよりは試せばいいのにと思いましたが。

棺が次第に壊れていく描写、ありましたっけ?
砂の重みですかね。
お礼 (クマネズミ)
2010-11-29 07:22:25
ビリーさん、大変貴重なコメントをいただき、心から感謝申し上げます。
携帯電話が「クローン携帯」であること、「マーク・ホワイト」が亡くなった拉致被害者と考えられること、砂の重さのこと、などなど目から鱗の情報ばかりです。
こうした明快な解説をいただくと、こちらのもやもやも一気に吹き飛んでしまいます。ありがとうございました。
なお、できましたら、ビリーさんのブログのURLをご教示願えればと思います。
Unknown (ふじき78)
2011-06-06 01:15:22
> あくまでも登場人物は
> ポール・コンロイただ一人。

あの蛇。
あの蛇に「キミとボク」みたいな素敵な声優を付けましょう。
坂本真綾って? (クマネズミ)
2011-06-06 06:21:52
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
ただ、出生地の大館に住んだことがあるので『ハチ公物語』は見ましたが、犬とか猫などが活躍する動物物語は出来るだけ敬遠しているところです(同じように、子役がメインの映画も見たいとは思いません)。それで、「あの蛇に「キミとボク」みたいな素敵な声優を付けましょう」と言われても、「キミとボク」みたいな素敵な声優とはいったい誰なのか、それに「あの蛇」は何なのか(坂本真綾に適したメス蛇なのか等々)と、困惑してしまいます。とはいえむしろ、白戸次郎に扮するカイを担当する「北大路欣也」でも充て、導きの蛇として、コンロイを地獄から脱出させた方がいいのかもしれませんが!

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